ピンクの隼
裏での暗闘にも気づかず、光太郎は輝夜と迎賓館に戻る。
「それでは明日、私のメタル・ディヴァインを紹介いたします」
「はい、楽しみにしてます」
輝夜はそそくさと離れていった。
「何かあったのかな? まあ女王だから色々と、忙しいよね」
光太郎は自分が襲われたことに気づいていない。
幹線道路の刺客は、とっくに諦めたものと思い込んで、危機感が全くなかった。
頭の中にあるのは、メタル・ディヴァインのことだけ。
「早く見たいな、どんな機体だろう?」
わくわくしながら、光太郎は床につく。
輝夜は別室で、アトランティス諜報部隊・くノ一から報告を受け取っていた。
「二人に逃げられました」
「引き続き、追いなさい」
「はっ! 見つけたらいかが致しましょうか?」
「命令は変わりません。斬りなさい」
「……御意」
(腐っても星騎士。早々に捕まりはしませんか、あの粗忽者!)
輝夜は本気で怒っていた。
次の日、天候は生憎と曇り空で、今にも降り出しそうな空模様。
遠くには雷雲が立ちこめている。
飛行訓練場のある湿地草原は、風が吹くたび草が色を変え、ざわめいて音を奏でる。
輝夜は準備に手間取り、光太郎はサイドカーに乗って先にきていた。
「見えた」
ピンク色の機体が、上空から降りてくる。
「うっ!」
輝夜の格好を見て、光太郎は驚く。
頭巾を被り、長い髪をまとめて後に束ねている。
額にある鉢金には、天秤の図柄がある。アトランティス国旗と同じである。
鎖帷子の上には、袖無しミニスカートの衣装を着込んでいる。
半巾帯は腰に巻いて蝶々結び、ピンクで統一された忍装束。
肌こそ出てないが、胸や尻がより強調されて、艶美な姿だった。
輝夜は悩殺ポーズをとり、見せつける。
「光様、お待たせしました。衣装に迷いまして……もう少し過激な方がよろしかったでしょうか?」
「目のやり場に困りますから、もう少しおとなしめで……」
「ほほほ! 流石に実戦では、こんな格好はいたしません。ただ、要望が御座いましたら、何なりとお申し付け下さい。写真を撮って、光様にお渡しいたします」
「……はい」
(ああそうか、この人は見られるのが好きなんだな……コスプレイヤーだ。藤原理事長とは気が合いそうだ)
「それはまた今度。それで、そのメタル・ディヴァインは?」
「お初にお目にかかります。スカーレットと申します」
ピンク色の隼が、女性の声で挨拶をする。
装甲重量を減らし、スラスターが強化されてある。アヴァロン星で一番速い機体だ。
エルコンドルはライバル視してるらしい。
「神山光太郎です。格好いいですね」
「ありがとうございます。不束者では御座いますが御満足いただけるよう、本日は精一杯努めさせていただきます。できますれば……初めてだから優しくしてね」
「……丁寧に扱わせていただきます」
(なーんかメタル・ディヴァインのAIって、一癖も二癖もあるんだよなー。文吾さんの話だと『星騎士と心を通わせ、人機一体になる』らしいけど、奇特な主に合わせるのも大変だ)
輝夜は言った。
「戯れ言ですので、スカーレットの言はおきになさらず」
「はあ……」
「それでは、光様どうぞお乗りください」
「あれ? 武器はその背にある忍者刀だけですか? 輝夜さん」
「いえ、体中に隠し持ってます。触って調べてみますか?」
「結構でーす」
光太郎は慌ててスカーレットの中に入る。
「基本操作は変わりなし、武装チェックと……へえーなるほど、速度重視なんだね」
「はい、武器らしい武器は積んでおりません」
「じゃー行こう、迅飛翔!」
スカーレットは、一瞬で空中に浮かび上がる。
目の前には風船、今度は避けるのではなく、輝夜が割っていく訓練だった。
その輝夜は悠然と鞍の上に立ち、腕を組んでいた。
足を鞍にはめ込んで固定できるので、下に落ちることはない。
光太郎はとりあえず、スカーレットを前に進めてみる。
「えっ!」
まわりの風船が勝手に割れ出した。
前方だけでなく左右にある風船も、音を立てて次々と割れていく。
輝夜は腕を組んだまま、動いた様子はない。光太郎は驚く。
「まさか! 輝夜さんの王の力って、念力!?」
「いえ、おひい様の力は物体加速付加です。手裏剣や苦無を高速で投げています。女王級の星騎士でなければ、動きは見えないと思われます」
「凄い! 超加速砲だ!」
「王の力、『風女神の息吹』です。光様」
(これにスカーレットの速度が加わったら、何が起こったか分からないうちに倒されるな。武装がいらないわけだ。まあ、王の力にも弱点はあるけど……)
「光様、遠慮なさらず動かしてみて下さい。私は大丈夫です」
「それじゃー、本気でやらせていただきます」
「まっ! 逞しい」
「…………」
光太郎は普段やらないような、アクロバット飛行をする。
全部の風船を割るべく、加速・旋回・上昇・降下を休まずに行う。
騎乗者の輝夜にも配慮して、攻撃の位置どりも考えて、操縦桿を動かす。
傍から見れば上手い操縦なのだが、光太郎の心は晴れない。
「……駄目か。運動性能の高いスカーレットで無理なら、僕の能力不足ということだ。ディヴァイナー失格だ……」
「お待ち下さい光太郎様! 御自身の判断だけで、決めつけるのは早計かと。お悩みであれば、まずは誰かに相談されてはいかがでしょうか?」
「そうだねスカーレット。僕には文吾さんがいるし、他にも頼りになる人は一杯いる。境遇に感謝しないとね」
「光様、あとで飛行データをお送りします。時間をかけて解析すれば、解決策も見えてくるのでは?」
「ごもっともです、気づかなかった。製作だけやってましたから、技術屋の基本を忘れてました。データ分析して原因追及だ。輝夜さんありがとうございます」
「いえいえ」
第一に輝夜自身が驚き、秘密を知りたがっていた。
(体感したのはAI以上の操縦能力……これは異常です。一般人には出来ないはずなので、アーサーでよく調べてみないと……)
午前中の訓練を終えて、飛行訓練場に戻る。
昼食を取りトイレに行った後、施設内の一室で休もうと、光太郎はドアを開けた。
「しまった!」
ポケットに突っ込んでいた、ハンカチが落ちる。
拾おうとして体をかがめると同時に、剣が突き出されていた。
「わっ!」
「ちっ! 本当に悪運の強い奴。だがこれまでだ!」
覆面をした楓が、剣で光太郎に襲いかかる。
「あわわわ!」
「待て――――!」
光太郎は通路にある物をひっくり返しながら、逃げる。
少しでも時間を稼ぎ、腕時計の通信機で、助けを求めるが繋がらない。
「無駄無駄、それと防犯装置は全て切ってある。潔く死ねい!」
「死ぬなんて、やなこったい! あっ!」
「もう終わりよ!」
同じく覆面をした霞が前を塞ぐ、もはや絶体絶命!
光太郎は構わず前に走ると、霞は剣を上段に構えた。
「プチ・ギャロップブースト!」
光太郎は体をうしろに倒していき、通路に身体を擦り付けて滑り込む。
足を前にのばした、スライディング・タックルだ。サッカー選手ばりである。
スラスターによって加速がつき、蹴りに威力がのる。
脚防具があっても、霞の足に怪我を負わせられるだろう。
霞もそれに気づき、慌てて避ける。
「くっ!」
スライディング・タックルを、霞はジャンプして足を広げて躱す。
「甘い!」
光太郎は霞の股間をすり抜けながら、霞の両足首を掴む。
「あわわ!」
「きゃっ!」
霞は前につんのめり、進んできた楓とぶつかり転ぶ。
二人が倒れている隙に、光太郎は逃げる。
「待て――――!」
「待てと言われて、待つ奴はいね――――!」
(前もあったな、こんなやりとり!)
ピンチの割には、光太郎に余裕があった。




