ハイウェイの襲撃者
「次はアトランティスだな? 光太郎」
「うん、このまま寝るから、安全運転よろしく」
「野宿はしないのか?」
「国境を越えるまでは不安だよ。まあ、誰も追ってはこないと思うけど、用心するに越したことはない。ここを離れるまでは移動しよう」
「了解した」
実際、パシフィスをすぐ旅立ったのは正解だった。
もしデモ隊と鉢合わせしてたら、確実に追いかけ回されていただろう。
光太郎はシートを倒して、すぐに寝息を立てる。
(揺れは少ないとはいえ、よく眠れるな。いや、疲れてるせいか。光太郎は騒動に巻き込まれやすく、休む間もない)
エクリプスは気を遣いながら、サイドカーを北へと走らせる。
日は落ちて、ポツポツと照明が灯り始めた。
幹線道路に入ると、真っ直ぐな道がどこまでも続く。
エクリプスがバイクのライトを点けると、暗い夜道は明るく切り裂かれた。
もっとも、暗視装置があるのでライトなしでも進める。
他車に対して、自分の存在を教えるため点けた。
中央分離帯に壁はなく、ときおり他車とすれ違う。大半が無人貨物車だ。
物流は川の流れのように、休むことはない。
それから数時間が過ぎ、エクリプスは異変に気づく。
「……無人機だと? こんな時間に妙だな」
レーダーが後方から接近してくる機影を捕らえていた。しかも識別信号を出していない。
道路管理用の無人機が走ることはあるが、コールサインがあるのが普通。
その無人機はじわじわと、距離を詰めてきていた。
「おきろ光太郎!」
「うー! もうー許してくれー! ……あれ? もう着いたの?」
「違う、何やら様子がおかしい。怪しい無人機が近づいてる」
「エクリプス、救難信号を出してみてくれ、何もなかったら誤報ですませる」
「分かった――駄目だ、どことも繋がらない! 電波妨害されてる!」
「スマートウオッチも圏外だ。これは追っ手なのか?」
「もうアトランティスに入ってるから、それはないだろう」
「そっか、どっちにしろ武器はないからピンチだね」
「ならば空を飛び、全速力で逃げるのは……」
「うん、愚策だね。敵の思うつぼだよ。だから……こうしよう」
「よし、その手でいこう」
光太郎は慌てもせず、エクリプスに指示する。
やがてサイドカーは一旦停車し、猛スピードで走りだした。
無人機も速度を上げて追いかける。馬型の無人機で、名はゼブラ。
モデルはシマウマである。
ゼブラに乗っている者は、布を顔に巻いて覆面して、騎士槍を持っていた。
さらに前方からも、ゼブラがもう一機現れて向かってくる。
サイドカーは挟み撃ちにされ、スローダウンして止まった。
二機のゼブラは前後から近づき、襲撃者達は騎士槍を向ける。
お互いに目視できる距離までくると……。
「いない!」
「どこへ行った!」
光太郎とエクリプスの姿はなく、そして側車もなくなっていた。
「マゲイアじゃないよね?」
「戦闘用無人機を使用できるのは星騎士のみ、それも上位の者だけだ」
「すると犯人は……このままアトランティスへ行くのは、危ないかな?」
「引き返すか?」
「うーん……やっぱり、街に入った方が安全かも。兵団全部がこの襲撃に、荷担してるとは思えない。少人数での企てだったとしたら、人目につく行為は避けると思う」
「うむ、どちらにしても側車では長くは走れん。早く街へ行かないとな」
側車は光太郎達を乗せて、裏道を走っていた。
襲われる前に分離させ、バイク本体を自動運転させて囮に使ったのだ。
「バイク、壊されてないと良いけどなー、荷物は積んだままだし……」
「大丈夫だろう。電波妨害から抜けて、自警団に通報した。もうあの場には居まい」
エクリプスの言うとおり、二人の襲撃者はそのまま逃げ去っていた。
残されたバイクは、アトランティス首都のアクロポリスへと自動で走り出す。
光太郎達も首都へ向かい、到着と同時に朝をむかえる。
アクロポリスは商業の街。環状運河の街で大河と、港をつなぐ間にある。
全大陸の中継点であり、あらゆる品物が集まる貿易都市だった。
ひっきりなしに人と物が行き交い、巨額な金が動く。
アトランティスは五王国中、最大の富強を誇っていた。
三つの運河をつなぐのは重力橋。船舶が通るときには宙に浮かび、通常時には道路橋に戻る。
東西南北の道路が交わる中央に、円城が塔のようにそびえ立つ。
アトランティス王城だ。
その一角には不釣り合いな大旅館があった。日本でも無くなりつつある遊郭建築物。
城門から中に入ると石畳の歩行路が続く。
さらに進んで大門をくぐると、旅館の入り口まで赤絨毯が敷かれていた。
赤絨毯の両側には、星騎士達が並び頭を下げている。その数、千人。
整然と整列し声も出さない。光太郎は圧倒されて、息が詰まりそうになる。
お出迎えに恐縮し、右手と右足・左手と左足を同時に出す「なんば歩き」になってしまう。
光太郎は我慢できずに叫ぶ。
「頭を下げるのはやめてくださーい! 僕、偉い人じゃありませーん!」
(見てるだけで疲れるし、心苦しいわ!)
どこぞの独裁者か皇帝になったかのようで、光太郎は気分が悪かった。
輝夜は笑いながら最敬礼を止めさせた。入り口の前で、光太郎を出迎える。
「光様、アトランティスにようこそお越しくださいました。おくつろぎいただく前に、まずはお詫び申し上げます」
「あー、昨晩の件でしたらもう良いです」
「いえ、この地を預かる者としては見過ごせません。私が招待した光様を襲うなど言語道断! 見つけ次第、然るべき処罰を与えます」
輝夜の両隣にいる楓と霞は、光太郎を睨んでいた。一応、側近として挨拶はされる。
(もの凄い殺気を感じるんですけどー……)
「……でしたら、なるべく穏便にお願いします」
「光様は慈悲深いですね」
顔や言動には出さないが、輝夜は光太郎を冷徹に見定めようとしていた。
ルカを嗾かけたのも、器量をおしはかるのが目的だった。
モーションをかけてはいるが、光太郎に対して何の感情も抱いてはいない。
自分の計画に使える駒かどうか、ただそれだけである。
有能であれば何でもくれてやるつもりでいた……自分自身さえも。
輝夜には全てをなげうっても、なすべき望みがあった。
(どうやら傲慢な方ではないようですが、今少し試して見ないことには……それでも危機を乗り越える力はあるようですね)
和服姿の輝夜は目を細めて笑い、旅館の中へといざなう。
「まずは、お休みになられますか?」
「そうですね、少ししか寝てませんので休ませて下さい。お話しするにしても、頭を休めたいとこです」
「分かりました。昼餉が御用意でき次第、お世話役が起こしに参ります」
「はい」
案内された和室に荷物は運ばれており、光太郎はしかれていた布団に入り眠った。
昼過ぎには起こされ、部屋の中で馳走にあずかる。
お膳が下げられた後、旅館内の中庭へと案内された。
枯山水のそばを通り、池やししおどしを見ながら歩く。小川も作られていた。
「見事な日本庭園ですね。これって元々アトランティスにあったんですか?」
「いえ、光太郎様をお迎えするにあたり、日本の資料を元に新築されました。ここは光太郎様専用の迎賓館です」
「げっ! ……失礼しました。何でわざわざ和風に?」
「おひい様が『光様を知るには、日本の文化を知らなければなりません』とおっしゃいましたので、家臣一同協力してつくりあげました。皆、最初の頃は乗り気ではありませんでしたが……」
「いきなりでは、無理もないですね」
「ところが造園をすすめるうちに、その芸術にすっかり魅了されてしまいました。そこに佇む自然の美しさにやすらぎを感じ、感動したのです。戦闘しか知らない、我ら星騎士には縁のなかった世界でした。今では全員が侘び・寂びに病みつきになっております」
「……そうですか」
(パシフィスじゃオタク文化、ここでは伝統文化か……何か間違っているような……まあ人の趣味をとやかく言うべきじゃないね。これもカルチャーショックか)
「ですが、見よう見まねで作りましたから、やはり日本の造園技能士様を、招きたいと思っております」
「なるほど、早く戦争を終わらせたいですね」
「はい、切に願っております。それでは、こちらへお入り下さい」
「へっ?」
光太郎が質問する前に、世話役は去ってしまう。
目の前にあるのは二枚の襖。
不自然に立っており、横から見れば庭に苔岩があるだけで、襖の裏側も見える。
「なんか変だな? とりあえず開けてみるか――ぶわっ!」
光太郎の顔に湯気がぶつかり、片手で仰ぐ。
湯気が収まっていくと、視界がはっきりして見えるようになる。
「光様、ご一緒に入りませんか?」
目の前には岩風呂に浸かっている、裸の輝夜がいた。




