セレモニー
当日。
ギラつく太陽がまぶしくて、地上をくまなく照らす。
どこもかしこも気温は高く、浜辺に吹く潮風がわずかながらに、暑さに抵抗していた。
それすらも、集まった人々の体温によってかき消される。
娯楽を求めた観客達によって、海水浴場が埋め尽くされ、足の踏み場もない。
観客数は数十万人。
暑さ対策としてビーチパラソルが立てられ、氷塊や雪塊が至る所に置かれた。
それでも暑いことに変わりはなく、観客達は海に入るかシャワーを浴びる。
またはアイスを食べて、ジュースを飲みながら対決の時を待っていた。
太陽が真上にくる正午、花火が上がる。
開始の合図とともに、西の海上から光太郎が姿を現す。
サイドカーに乗って飛んできて、百機の無人機を引き連れていた。
無人機はエクリプスが遠隔操作し、光太郎は指示をだすだけだ。
「ブ――――!」
観客の半数がブーイングで迎えた。お膝元で女王が人気なのは仕方ない。
光太郎は悪役にされる。
「さあ、我らがルカ姫のお出ましです!」
実況アナウンサーが声を張り上げる。
ファンファーレが音楽隊によって演奏され、続き様にプロレスばりの入場曲が流れ出す。
「ルカ! ルカ! ルカ!」
「全国の皆さん、お聞きくださいこの大歓声! 海水浴場は興奮の坩堝と化しております!」
海水浴場は大いに盛り上がる。
「うーん、ルカはどっから来るんだ?」
光太郎が見回しても姿が見えない。
「あっ! あれかな、違うな……何、あの不気味な黒い影」
沖の方に巨大な黒い円が見えたが、すぐに消えた。
気にしてる間もなく、エクリプスが告げる。
「ようやく御登場だ」
東の海を見ると、白い泡がたち始め、何かが上昇してくる。
海面から飛び上がったのはイルカ、水しぶきを上げて大ジャンプ。
五頭のマイルカが、一斉に飛んだ。
「おお――!」
ただ、真ん中の一頭は明らかに毛色が違っていた。
魚体は大きく黄色と白の体色で、陽光に反射している。機械だと誰もが分かる。
繰り返される曲芸は、観客達を沸かせた。
「三回転宙返りに月面宙返り……イルカの技じゃねえー!」
その機械イルカが空中に静止し、中からルカがせり上がってくる。
「うおおぉ――――!」
歓声は一際大きくなり、ルカは観客に手を上げて応えた。
黄色の光星甲冑を身につけ、三叉戟を武器に持つ。
そして、乗っていたイルカの形状が変わり始める。
「可変機か」
メタル・ディヴァインはカモメに変形した。
機体名はオルフェーヴル。
特色としては広範囲での探知機能に優れ、海においては随一の強さを誇る。
ただ、性格は……悪い。
まだ勝負は始まらず、これからセレモニーが行われる。
花束贈呈から始まり、国歌斉唱と長かった。
長く退屈な時間も観客達は気にしていない。
どうせ勝負はあっさりつくと思っているので、余興を楽しむ。
ルカの勝利を誰も疑っていないので、賭けも成立しなかった。
「以上でセレモニーは終了しました。それでは、開始前に両者にインタビューして見たいと思います。実況は私、トムがお送りいたします」
アナウンサーが無人機に乗ってルカに近づく。
トムがマイクをルカに向けると、頭部にあるカメラが自動撮影を開始する。
「姫様、自信のほどはどうですか?」
「余裕も余裕、超余裕よ。百体じゃー少なすぎたわね」
「甘く見てると、痛い目をみるわよー」
オルフェーヴルがオネエ言葉で、ルカをたしなめる。
「うっさいわね! オルフェ」
「自信過剰なのは、ルカの悪い癖ね。それにしても英雄さんは、良いお・と・こ。私を操縦してくれないかしら、うっふん♡」
「ゾクゾク……何か寒気がした」
光太郎は悪寒を感じた。
トムは質問を続ける。
「……えー、挑戦者は悪賢いとの噂ですが、対策は?」
「正面から打ち破る。それだけよ」
「流石は我らの女王。それではファンに向けて一言、お願いします」
「あたしの格好良い姿を見せてあげるわ!」
ルカが拳を突き上げると、大歓声がわき起こる。
耳をつんざく声援が鳴り止まなかった。
待ちくたびれていた光太郎は、不平を鳴らす。
「僕はいつから挑戦者になったんだ? それに完全に悪者あつかい……」
「女子プロレスと同じだな、善玉は女王だ」
「まあ、別にいいんだけどねー」
自分の扱いに不満はある。それよりも、戦った後のことを光太郎は心配していた。
(これ、勝ったら生きて帰れるかなー……無理だな、逃げる算段はしておこう)
考えごとをしていた光太郎に、いつのまにかマイクが向けられていた。
「それでは、調子こいてる英雄様にインタビューしてみたいと思います」
皮肉をこめてトムは光太郎に聞く。
「勝算はありますか? 勝てると思ってますか?」
「思ってませんので、善戦したいだけですね」
「……ルカ女王をどう思ってますか? むかつくとか、憎らしいとか思ってませんか?」
「うーん、全然。特になんとも思ってません」
「ちっ! それじゃーつまんねーんだよ。まあいい、話を盛るか」
光太郎が誘導尋問に引っかからなかったので、トムは毒づいた。
作り笑顔のまま口調だけが乱暴になる。
「へっ?」
「失礼しました。それでは」
トムはかなり離れてから、無人機のカメラに語りかける。
「えー、マイクの調子が悪かったようなので、彼の代弁をさせていただきます」
トムは芝居がかった言い方に変わる。
「俺様にかかりゃーどんな女もイチコロよ。勝負? そんなの最初から俺様の勝ちに決まってるじゃんよ。あの勝ち気なルカを叩きのめして、ひんむいてヒーヒー言わせてやるぜ。へっへへ……との事でした」
「ひっど――――い!」
「女の敵!」「好色魔!」「キモオタ!」
「○○○、○ー○ー、○○○!」
放送禁止用語も飛び出し、国中が非難囂々状態。
当然、ルカも腹を立てる。
「よくも言ったわねー! 手加減抜きで半殺しにしてあげるわ!」
「言ってね――――――――――――――――!」
光太郎の切なる声は届かない。トムに完全にはめられた。
放送番組を面白くするのに、ねつ造・やらせ・偏向は当たり前。
倫理観が無いトムは、行政処分すら恐れていない。
もちろんマイクの不調は嘘で、始めからスイッチを切っていた。
「あいつ、後で殴ってやる!」
開始の花火が打ち上げられ、戦いのゴングが鳴った。




