もてなしと挑戦
日が傾き始めた頃、光太郎は王城の門をくぐる。
門は美しい浮き彫り細工で飾られていた。
南国の花が咲き乱れる庭園があり、そこを高い木々が囲んでいる。
城へと続く通路の下に、綺麗な水が流れていた。
樹木と花にあげる水で、散水機でまかれ、霧になって辺りの温度は下がる。
クーラーとしての役割もあり、城内は涼しく快適である。
光太郎が庭園を進んでいくと、見事な彫像が左右に立ち並んでいた。
ただ、人や動物に混じって別なモチーフが多々ある。
「アニメキャラにロボット……フィギュア彫刻か。造型美術としては素晴らしいと思う」
「もうネタはないと思ったが……悪かったな光太郎。これでは文化に毒されてるとしか、言いようがない」
「まあ、いいさ。お出迎えはまとものようだし」
入り口正面の階段下で、ルカが腰に手をあて待ち構えていた。
左右には、お付きの二人がいた。名前はパウラ、カイラといい星騎士である。
パシフィス国内での騎士順位は一位と二位。
出自は関係なく実力がある者が、側近として選ばれる。
他国でもそれは同じ、終身的な地位ではなく入れ替わりすることも多い。
まあ彼女らは特別で、幼少の頃からの守り役でもある。
ルカの我が儘に日夜付き合わされて、今日もえらい目にあわされた。
もっとも、主のルカは気にもとめていない。
「よく来たわね。歓迎してあげるわ」
「本日はお招きにあずかり……いや、呼んでくれてありがとう」
「それでいいのよ、敬語は禁止」
「分かった」
「夕食の用意が調うまで、まだ時間があるから城内を見て回りなさい。あたしも着替えるから」
「うん」
「それでは私達が御案内します」
「よろしくです」
光太郎が会釈すると、パウラとカイラははしゃいだ。光太郎の手を取り、歩き出す。
「コラァー! あんましベタベタするなー!」
ルカの怒声は無視される。恋愛においては身分の上下は関係なし。
アヴァロン星での出会いの機会は少なく、女性らは競ってアタックする。
光太郎を狙っているのは、何も女王だけではないのだ。
「ちっ! あとで覚えてなさいよ」
文句を言いながら、ルカは自室に向かった。
「これがパシフィスの戦闘用無人機、セイレーンとアプサラスです」
「おお! 海上と海中型ですね。数も多いし強そうだ」
格納庫に案内された光太郎の目は輝いていた。
整然と並んでいる無人機群は壮観で、見ているだけで興奮する。
「動いてるとこも見たいですね」
「それなら、光太郎様が滞在中に見られると思います」
「それは楽しみです」
「クスクス」
二人の含み笑いに、光太郎は気づかなかった。
それから城の回廊を歩いていくと、二枚の肖像画が見えてくる。
荘厳な額縁に飾られた絵には、美しい男女が描かれていた。
「これは誰ですか?」
「姫様の御両親です」
「…………」
光太郎は言われてすぐに気づき、押し黙った。
(ああ、亡くなられたんだな)
パウラが詳しく教えてくれた。
「前大戦の折に御逝去なされました。その時、姫様はまだ三つ。泣き伏せてお部屋に閉じこもった日々が続きました。私達がなだめても駄目でしたが、何とか立ち直られました」
「どうやって、立ち直ったんですか?」
「同い年の輝夜様が付きっきりで、励ましてくださいました。開かないドアの前から何度もお声をかけられ、姫様を助けてくださいました。これには感謝しきれません」
「良いお話ですね」
(輝夜って、頭が切れるだけじゃなく優しいんだ。ただ……変態なのが玉に瑕か)
「それじゃー親御さんの話題は駄目ですね。しないようにします」
「いえ、姫様は御両親を誇りにしておられますので構いません。むしろ、マゲイアの話はしないでください。人が変わったように暴れ出しますから……心底、憎んでおられます」
「分かりました」
「あと禁句が、もう一つありまして……」
光太郎はルカの逸話を聞きながら歩き、貴賓室へと案内された。
部屋の中でルカは立ったまま待っていた。
着ているのは赤を基調としたムームードレスで、花柄のワンピース。
髪飾りはハイビスカスの花、右の髪に挿している。
軽めの化粧が褐色肌を美しく見せる。本気でルカは礼節を尽くしていたのだ。
ドレス選びから髪型、靴、小物、全て悩みぬいて自分で決めた。
それでも、「格好悪いとか言われたらどうしよう」と不安で、両腰に当ててる手が震えていた。
「ど、どう?」
「綺麗だよ、見違えた」
「ふ、ふん。当然よ」
「いやー、さっきまで砂埃まみれだったから、かなり増しに見えるよ」
余計な一言は素直な感想ではあるが、光太郎は空気を読んでいない。
ただ、お世辞よりは本音の方が良い場合もある。
ルカは馬鹿らしくなり、緊張がほぐれる。
「あんたねえー……まあ、いいわ。座りなさい」
すすめられて椅子をひき、光太郎は座った。
殺風景な貴賓室での晩餐会。相伴はおらず、ルカと光太郎の二人きり。
フードランナーはパウラとカイラで、配膳車を使わずに手で料理を運んでくる。
「マナーなんていいから、好きなように食べなさい」
「ありがとう、いただきます」
前菜を一口食べて唸る。
「美味い!」
光太郎の顔を見て、ルカは満足そうに微笑んだ。
「姫様よかったですね、苦労して捕りに行った甲斐がありましたね」
「こら、余計なことは言うな!」
「僕のために食材を集めてくれたんだ」
「べ、別にあんたの為だけじゃないわ、私が食べたかったからよ!」
ルカは誤魔化すように、料理を早食いする。
実際、美味なのは特別食材が使われてるからだ。
希少価値が高すぎて、料理に値段がつけられない。
ゆえに多人数には振る舞えず、食材は二人分しか用意できなかった。
光太郎は心づくしの、もてなしを受けていた。
メインディッシュが運ばれてくると、室内の風景が変わる。
「おお! 空一面の星空だ。砂浜が光を反射して輝いてる。いい景色だね!」
「今日が曇りでなくて、良かったわ」
貴賓室の壁は全面モニターになっており、外の風景を映し出していた。
ロマンテックな情景でも、二人の思いは違う。
(ここまでやったら、あたしにメロメロね。男なんて楽勝よ)
(部屋ごと外に移動したみたいだ。遠近感が自然に見えるモニターと、外を映してるビデオカメラはどんなものだろ? 見たいなー、欲しいなー)
食事を終えて、生スムージーを二人で飲む。
まったりとした中、ルカが話しかけてくる。
「いつまでここに居られるの? あんた」
「明後日には、ここを立つつもりだけど」
「好きなだけ、いて良いのよ」
「ありがとう。でも、他の王国にも行かなくちゃいけないから、ごめんね」
「仕方ないわね。明日以降の予定は?」
「特に決めてない」
「じゃー、約束通り泳ぎを教えてあげるわ」
「お言葉に甘えて教えてもらうよ……ただ、御手柔らかに頼む」
(どうもルカって加減が下手そうだからなー、少し……いや、かなり恐い)
「安心しなさい。ほんの十キロ泳ぐだけだから」
「げっ!」
「冗談よ、それとあたしと勝負しなさい」
「ビーチバレーとか?」
「地球のスポーツじゃないわよ」
「室内ゲーム?」
「そんなわけ、ないでしょ」
「すると……やっぱり」
光太郎は、一番したくないことから目を背けていた。
「あんたとあたしで、メタル・ディヴァインで勝負よ」
ルカは光太郎に挑んできた。
次の日はプライベートビーチでの接待を受けた。
指導者ルカは言うだけあって、教えるのは上手かった。
「上半身の力をとにかく抜きなさい。下半身を沈まないようにするのよ」
「うん」
「息継ぎは、水の中で吐いてから顔上げて吸うのよ。顔は上げすぎないことね」
光太郎は金づちではないが、さほど泳げるわけではない。ルカの指導でかなりましになる。
ためになったのは、海で遭難した場合の対処方法だった。
「海に落とされても、生きていれば必ず助けがくるわ。漂流しても慌てず、体力を温存するのよ」
「わかった」
一通り教えてもらってから、二人は小舟で沖へ出る。
光太郎はウェットスーツに着替え、ルカは水着のまま潜る。海中散歩のついでに漁をした。
ルカが捕った魚や貝を、光太郎は受け取って籠に入れる。これはそのまま昼食になった。
陸に戻り、海の幸を食べながら明日の打ち合わせをする。
「勝負はしたくないんですけどー……」
「駄目よ、イベントとして公示したわ。対決場所の海水浴場の予約はすでに一杯。場外観戦施設も満杯。テレビで実況放送もされるわ、今更中止になんて出来ないわよ」
「うう……やらなきゃ駄目?」
「本気で殺し合うわけじゃないわ。あんたの実力をみんな見たいのよ」
「ルールと勝利条件は?」
嫌々、光太郎は聞いた。
「あたしの方はメタル・ディヴァイン一機だけ、あんたには無人機を百機貸すわ。好きに使いなさい。それで、あたしに一撃でも当てればあんたの勝ちよ」
「セイレーンとアプサラスを使っていいの?」
「ええ、それと武器も自由よ。殺傷力のないペイント弾と木製の銛になるけどね」
「おお!」
メカオタクの血が騒ぎ、光太郎はやる気になった。
「まあ、あたしに攻撃を当てるのは絶対無理でしょうけどね」
「防御に自信があるんだね?」
「ふふん、聞きなさい。あたしの王の力は……」
「あっ! 言わなくていいよ。明日の楽しみにする」
「そう、まあ手加減はしてあげるわ。あと必要な物があったらパウラとカイラに言いなさい。あたしもこれから明日の準備をするわ」
「ありがとう。じゃー僕も作戦を考える」
ルカは立ち上がり離れていった。
(さて、どう戦おうか? 一〇〇機も使わせてくれるんだから、よっぽど自信があるんだろうな……まともにやったら勝てないだろう。うーん……アレは! 使えるかも!)
遠くを見ていた光太郎は、ある物に気づき二人に頼んだ。




