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イン・ディヴァインマスター 銀河の救世主  作者: 夢野楽人
女帝戦 Ⅰ

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旅立ち

「我も連れてってくれえ――――!」

 悲痛で切実な叫びを上げたのは、エクリプス。

 ここは工房内のエリスの部屋、光太郎の隣部屋になる。

 エリスの自室は別にあるが、光太郎のすぐ側にいたいので、質素な部屋で寝泊まりをしていた。


 今日、光太郎は旅立つ。

 挨拶に来たのだが、エリスは見当たらない。

 部屋に置かれていた水晶球のエクリプスに旅の話をすると、一緒に行きたいとせがまれた。


「見当はついてるけど、旅に同行したい理由が聞きたい」

「意地悪だな、光太郎。分かってるくせに」

「それでも、あえて聞きたい」

 光太郎はニヤニヤしながら、からかうように聞く。

 エクリプスは現状を訴える。

「毎日、毎晩、エリスから愚痴とのろけを聞かされて、頭が痛くなった。もはや我慢も限界、ノイローゼになりそうだ。だから逃げたい!」

「突っ込んでいいですか? 電脳でもノイローゼになるの?」

「我が知るかー!」

 エクリプスはキレる。

 口から先に生まれたとされる女性が、おしゃべりするのは当たり前。

 エクリプスは口撃(、、)に毎日さらされ続けた。

 戦闘では恐れをしらないが、娘のマシンガントークには耐えかねる。

 ゆえに、光太郎に助けを求めたのだった。


「ごめんね悪かった。旅には連れていくよ、新メタル・ディヴァインに載せようかと思ったけど、まだまだ調整中だしね」

「マジ助かる。ところで我の名前は変わるのか?」

「いやエクリプスのままだよ。うしろにマークⅡとかTYPE-Rとかつけようか?」

「……自動車みたいでいやだな、他のにしてくれ」

「分かった、考えておく。それでエリスはここにもいないのか? 出発前に話そうと思って、探してるんだが見つからない」

「我も今朝から見とらん。位置情報も切ってるようだ」

「まーだ、むくれてるのか。やれやれ」

 旅に出ると言ってから、口喧嘩が絶えなかった。

 エリスは「行くな!」の一点張り、説得ができないまま旅立ちの日を迎えた。

「光太郎の思いがわからんからな、エリスは」

「しゃーない、他を回っていなかったらあきらめる」

 光太郎は水晶球を袋に入れて、小玉の部屋へ向かった。


「うう――――」

 小玉は唸りながら仕事をしていた。パソコンとにらめっこし、血走った目でキーボードを叩いていた。頭はボサボサ、白衣はよれよれで身だしなみも悪い。

 風呂に入ってないのは、一目瞭然いちもくりょうぜんだ。

 忙しすぎて、仕事しか見えなくなっていた。部屋は汚れ、あらゆる物が散乱している。

 部屋に光太郎が入ってきたことにも気づかない。

 光太郎は邪魔をしないように、静かに部屋を片付け始めた。

 散らばっている電子ペーパーをまとめて整理し、使い捨ての食器やらをゴミ袋にいれて外に出す。

 掃除はあきらめ、光太郎はお茶をいれてから声をかけた。


「小玉、大丈夫か?」

「……いたのか、今は何時だ? 何日だ? くそー、やることが多すぎるわ! 全部お前のせいだ――――!」

「本当にすまん。まさかこんなに話が大きくなるとは思わなかった。最初はエリスのメタル・ディヴァインを作るだけの話だったのになー」

 

 光太郎が考えた「FL計画」がイザベルの目に留まり、「どうせなら王族兵団全軍でやりましょう」と、鶴の一声で計画の拡大採用が決まった。

 小玉はプロジェクトリーダーから最高技術責任者(CTO)に抜擢され、仕事が倍増してしまった。光太郎を恨むのも無理はない。


「イザベルさんも言ってたけど、計画を進めるのは急がなくていいんじゃないか? 小玉の負担が大きすぎる」

「そうも言ってられない。レムリアだけじゃなくて他の王家もやると言い始めた。情報をよこせと、私はせっつかれてる」

「……マジですか? 知らなかった。でも、僕の計画が使えるかどうかわからないよ。アーサーは太鼓判を押してくれたけど……」

「国のトップが見込みがあると踏んで採用したのだ。実戦で試して駄目な計画なら、使わないだけだ」

「そっか……」

 もともとエリスが戦うのに、必要だと思うものをまとめた計画だった。

 アヴァロン星全軍で行うとなると、光太郎は大失敗しないか不安に思う。

「自信を持て光太郎。最高の結果には成らなくとも、最悪の結果にはならない。私が保証する」

「ありがとう。それで、お詫びと言っては何だけど、これ地元のお菓子でずんだ餅。プロジェクトメンバーで食べてくれ」

 光太郎は袋から菓子折を取り出し、テーブルに置いた。

「あと、これは小玉へのプレゼント」

「なっ!」


「ハッキングマシンを作ってくれた時のお礼だよ。トレードマークのサンバイザーでも掛けてくれ」

 贈り物は二つ、帽子掛けとラッピングされた箱だった。

「プレゼント? なんで私に? ああ礼か……いや頼んでない! どうして目の前にあるんだ?」

 小玉は完全に錯乱状態。コンピュータに匹敵する頭脳が、感情に狂わされた。

 なにせ男から貰ったことなど、一度も無かったから無理もない。

 動揺しながらプレゼントを受け取り、言葉にならない礼を述べる。

「ふ、ふん。あ、あり、ありりがたく使ってやるーう!」

「うん、じゃー僕は行くね。帰ってきたらまたよろしく」

 光太郎は部屋から出ていく。

「気をつけて」と小玉は言いたかったが、あまりにも嬉しすぎて声が出なかった。

 仏頂面が恵比寿顔に変わり、プレゼントをいつまでも撫でまわしていた。

 小玉は、喜久子が危惧した最初の恋愛被害者になった。


「これは、いいですね」

 光太郎は王城の外にでて、車両置き場に来ていた。

 見ていたのは大型サイドカー。これに乗って各国を回る予定。

 最初は航空機で行こうとしてたが、アヴァロン星を直に見て回りたいと思い、イザベルに頼んで用意してもらったのだ。


 二輪のバイクは、飛行可能でテントにもなり野宿が可能。

 ただ気になった部分もある。

(三段シートにロケットカウル……族車かよ、誰が乗ってたんだろう?)

 まあこれで、きままな一人旅が満喫できる。すでに荷物は側車に積んであった。

「光太郎さん、これをどうぞ」

「情報端末ですね」

「はい、通信はもちろん買い物もできます」

 イザベルから腕時計(スマートウォッチ)を、光太郎は手渡された。

「ありがとうございます。イザベルさん」

 光太郎はかなりの報酬をレムリア王国から貰っていた。

 断りはしたが拝み倒されて受け取り、レムリアの銀行に預けた。

 使い道は決まっておらず、ひとまず保留。


「エリスはやっぱりいませんか?」

「はい、もう出発されるのに。しょうがない子ですね」

「あれ! アンジェラさんその左目……」

「身体再生治療を受けました」

 アンジェラの顔には傷一つなく、両目とも澄んだ青になっていた。

「違和感が全くなくて、気づきませんでした。自然に綺麗だ――あっ! すみません」

 光太郎はアンジェラに顔を寄せすぎていた。

 興味があると夢中になりすぎる癖を、光太郎は恥じる。

 アンジェラは顔を真っ赤にしながら言った。

「いえいえ、感電したのをきっかけに左足も治しました。ただ、左腕は義手のままです」

「生身かと思いました。つなぎ目も見えないし、アヴァロン星の技術はやっぱり凄い」

 体を治した理由は別にある。光太郎に好かれたかったからだ。

 見送りにきたアンジェラとイザベルの衣装は、赤と黒のワンショルダーロングドレス。

 陽光に反射して煌めいていた。着飾ったのも、光太郎に見てもらいたいからこそ。


「あっ! そうだ」

 光太郎はサンタクロースばりに、袋から贈り物を取り出す。

「いつもお世話になってるんで、お二人にプレゼントです」

「「えっ!」」

 姉妹は目を見開き固まる。思考停止状態がしばらく続いた。

 プレゼントを受け取ってから、光太郎を見送った後に正気に戻る。


「はっ! ……ほんとに、罪作りな御方。私達を本気にさせてどうするの?」

「恩着せがましさも、下心も全くありませんからね。ある意味、たちが悪い」

「あるのは思いやりの心だけ、それが女心に火をつけるのを分かってない」

「光太郎殿には一度説教しなくちゃいけませんね。殿方から初めて贈り物を頂いた女が、どう思うか? 一晩かけてじっくり体に教えてあげないと……ふふふ」

 姉妹の会話は過熱する。

「私はドミニク姉様に羨むことが一つだけありました。それは地位でも名誉でもなく……」

「力でも、ましてや財産でもない……」

「そう、恋人を手に入れたことです。結婚してエリスを生んだときの笑顔は、憎らしくてたまりませんでした。その上、性格まで変わって更にむかつきました」

「ドミニク姉様は鬼でしたからね。それが慈愛の女王と呼ばれるまでに変わった」


「アンジェラ、私の問いに答えなさい」

「はい、イザベル姉様」

「私達を打ち負かす殿方が、今後現れると思いますか?」

「思いません。後にも先にも光太郎殿だけでしょう」

 二人とも、エリスに負けたとは露程も思っていない。

「では、光太郎さん並の器量を持った男性が、他にいるでしょうか?」

「それこそ皆無でしょう。アヴァロン星をくまなく探したとしても……それ以前に、私達に言い寄ってくる男が、まずいないでしょうね。ましてや贈り物を下さる方なんて……」

「結論はでましたね」

「はい」

 問答法で導きだされた答えは……。

「光太郎さんはエリスにはもったいない」

「じゃー取っちゃいましょう!」

「そうしましょう! ふっふふふふふ!」

「くっくくくくく!」

「「おーほほほほほほほ!」」

 略奪愛に燃える姉妹は、高らかに笑った。

 

 離れた場所で、光太郎はクシャミをしていた。

「へェ――――クション!」

「噂されてるな光太郎」

「なんか、背筋が凍ったようにゾクゾクした」

「我が言うのも何だが、女性に気をもたせるのは止めた方が良い」

「贈り物はそんなに高い物じゃないよ。僕としてはお歳暮と同じ。みんなお金持ちだから、粗品なんて気にしないと思うよ」

(いやいや、男っ気がない環境にいる箱入り娘にしたら宝物だ。配るのは悪いことではないから止めようもないが……はあー、またエリスから愚痴を聞かされる)

 エクリプスはサイドカーに組み込まれ、運転を任されていた。

 城門にさしかかった所で、光太郎はサイドカーを止める。


「……いるな、ちょっと待ってて」

 バイクを降りて少し歩くと、外の城壁によりかかっているエリスを見つけた。

 寂しい顔をしたまま、光太郎を見ようとはしない。エリスは朝からずっとそこにいた。

「じゃーエリス行ってくるよ。これはプレゼント」

 俯いたままエリスは受け取った。

「……なあ光太郎。お願いだから行かないでくれ」

「我慢してくれよ、お土産を買ってきてあげるからさー」

「そんなものはいらない。光太郎がいればいい、光太郎さえいれば何もいらない」

「もう何度も言ったけど……いや、水掛け論をしても仕方ないな、何があろうと行くと決めたから」

 光太郎が背を向けると、エリスはかみつく。


「う――! 私が側にいなくて、泣いても知らないんだからねー!」

「その時はビデオ通話で、エリスの顔を見るよ」

「通話に出てあげない!」

「そうか、わかった、あきらめる。じゃー行ってきまーす」

 投げやり気味に話を打ち切り、光太郎はサイドカーに乗る。

 エクリプスは何も言えず走らせるだけ、親心としては複雑だった。

「光太郎の馬鹿――――! うわ――――――――ん!」

 エリスは大声で泣いた。

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