旅の準備
「うさぎは寂しいと死んじゃう」という話がある。
本来は兎は病気になりやすいから、気をつけろという意味だ。
エリスの場合、かまって欲しくてべったりになってしまった。
「私が光太郎を見守る!」
健康管理の名の下に、エリスは光太郎に引っ付く。
大義名分を振りかざし、四六時中一時たりとも離れない。
光太郎は体調センサーを体に付けたので、「心配しなくていい」と言っても聞かない。
メタル・ディヴァイン製作の妨害をするわけではないが、小玉とプロジェクトメンバーからすれば、近くに居られるのは邪魔でしょうがない。
仕方なく、光太郎は別室で遠隔操作による作業に切り替えた。
パソコンで無人機に命令を出して組み立てさせ、細かい指示はビデオ通話で小玉に連絡する。
それでもエリスは、トイレからシャワー室まで追いかけてきて、光太郎をうんざりさせた。
「一緒に寝る!」
「駄目!」
就寝時、エリスは添い寝しようとするが、強引に部屋から追い出す。
もはや借りてる部屋だけが、最後の砦。唯一のプライベート空間も、侵略されつつあった。
「これじゃエリスはストーカーだ。会った頃よりは素直になって良かった。と思ってたら『かまってちゃん』になってしまった。はあー……女の子と付き合うって大変だ。まずは相談しよう」
光太郎はビデオ通話で、イザベルと話す。
「もう少しでメタル・ディヴァイン製作が終わるので、例の件お願いします」
「それでは準備をしておきます。エリスには良い薬になるでしょう」
「かなり荒療治になると思います。もしエリスが暴れたら、よろしくお願いします。恋愛依存症を治さないと、エリスは駄目人間になっちゃいますからね」
「やっぱり、光太郎さんは優しいですね。エリスの事をちゃんと考えて下さる」
「そうでもないですよ」
「いえいえ、上辺だけの方なら無視するか、おざなりにしますよ。親身にはなってくれません」
光太郎はイザベルとしばらく話し込んだ。
メタル・ディヴァイン製作も最終段階。
光太郎は正座して座り、パソコンキーボードを叩いていた。
マルチモニターを見ながら、真剣にデータを確認する。
その光太郎の背にもたれかかり、エリスは甘えている。
かなり症状が悪化して、猫のようにじゃれつく。
「なあ、エリス、もういいんじゃないか?」
「嫌だ! 光太郎が心配だ。絶対、離れたくない!」
「やれやれ……」
そこにイザベルがやって来て、エリスを怒鳴る。
女王の仕事を丸投げされては、堪忍袋の緒も切れる。
「いい加減にしなさい! 仕事もしないで何をやってるの! 訓練もサボって、マゲイアが攻めてきたらどうするの!?」
エリスは面倒くさげに返す。
「光太郎の頭脳と、私の王の力があれば負けないもん」
(……あー駄目だこりゃ、完全に色ボケになってる。末期症状だ)
織姫と彦星は一緒になったとたん怠け者になったが、この場合エリスだけが光太郎警備員と化している。非常にまずい状態だった。
「ふう、ようやく完成した。小玉、残りの作業とプロジェクトの方はよろしく頼む」
『分かった。あとはこっちで微調整しておく』
「すまん。手間をかける」
光太郎はビデオ通話を切り、エリスに向き直って言った。
「エリス」
「なに?」
「僕は旅に出る」
「えっ?」
エリスは言葉の意味が分からず、問いただす。
光太郎から詳しく聞いて理解すると、もの凄い剣幕で怒り出した。
「駄目だ! 駄目だ! 駄目だ! 駄目だ! 絶対駄目だ!!」
それから、光太郎は久々に陸奥市に戻る。息抜きと旅の準備のためだ。
「文吾さんと理事長にも挨拶したし、後は買い物だけだな。旅行セットは良いとして、贈り物が悩みどころだ。アクセサリーがいいかなー? それとも食べ物? まあ下着は論外だな」
光太郎は喜久子に付き合ってもらい、デパートで買い物中。
旅道具と贈り物を、買い物カートに積んでいた。
「喜久子姉さんの欲しい物はどれ? 僕が買うよ」
「嬉しいんだけどねえー光君。本当にみんなにプレゼントを渡すの?」
「お世話になってるし、みんなに渡すよ。あと招待されて手ぶらじゃ行けない」
「それは、そうなんだけどねー……」
三王国から光太郎へ宛てた手紙は、自国への招待状。
『光様、アトランティスへお越しくださいませ』
『お兄ちゃん、ヒナのお家に来て』
『光太郎さん。ムー王国でお待ちしてます』
返事は保留にしていたが、メタル・ディヴァインがほぼ完成したので、行くことに決めた。
もともと国賓級の招待なので、断るわけにはいかない。
手配の方はイザベルに頼んでいたので、あとは光太郎が準備するだけだった。
それと、この旅の間にエリスを更生させる目的があった。
他の国へ行くことにエリスは猛反対しているが、このままでは恋愛依存症は治らない。
イザベルに相談して、光太郎はエリスから離れることに決めた。
話を聞いた喜久子は了承し、旅行の準備を手伝う。
とはいえ、顔には出さないが心配はしている……別なことを。
(光君は感謝のつもりなんだろうけど……女心を知らないから、勘違いされてしまうわね。贈り物を貰ったりしたら、みんな本気で好きになるわ……はあーライバル増殖決定)
喜久子はため息をついた。
「姉さんどうしたの?」
「光君がちょっと心配になったから……」
「ごめんね。アヴァロン星の治安は良いみたいだから、身の危険は少ないと思う。いざとなったら、通報して逃げるから心配しないで」
「う、うん」
(そういう意味じゃないのよー、ホントに恐いのは女ですよー……宇宙の果てまで追ってきますよー……いいわ、そうなったら私が光君をさらって囲うわ)
喜久子は喜久子で、かなり危ないことを考えていた。




