手紙とすれ違い
光太郎の側に行きたいので、エリスは悩んで必死に考える。
「私はどうすれば……そうだ!」
(差し入れだ! お茶とお菓子を持って行ってやろう。いくら何でも根を詰めすぎ、休憩は必要だ。うんうん)
思いついたエリスは、これで正々堂々と話せると思った。
笑顔に変わり動き出す。
「よし、給湯室はすぐそこ――!」
向かおうとする先の通路から、何かがやってきた。
ガラガラと音を立てて、サービスワゴンがエリスの横を通り過ぎる。
押しているのは、メイド姿のイザベルだった。
「小玉さん、光太郎さん、お菓子をお持ちしました。休憩しませんか?」
「これはイザベルさんどうもです。小玉、少し休もうぜ」
「そうだな」
(叔母上――――!)
エリスは先を越された。イザベルはエリスをチラッと見やり、鼻で笑う。
「ふっ」
「きぃぃぃぃぃい!」
奇声を発して、エリスは悔しがるだけだった。
「美味しいですね」
「頭を使ってるから、菓子の旨さが増す」
「紅茶もどうぞ」
「いただきます」
和気あいあいと三人はくつろいだ。
落ち着いたところで、イザベルは文箱を光太郎に手渡す。
「光太郎さんに手紙が届いてます」
「僕に手紙?」
箱には三通の手紙があり、アトランティス・メガラニカ・ムー王国からの親書だった。
それぞれ封蝋されて、国の紋章が印璽されてある。パシフィス王国のは無い。
電子メールなら気軽に読めるが、格式ある封書を見て、光太郎は触るのもためらう。
見ていて焦れた小玉は、ペーパーナイフを光太郎に差し出した。
「あんがと、とにかく読まなきゃね。せっかく送ってくれた物だし……」
光太郎は中を開けて手紙を読んだ。
自筆で書いてあり、輝夜と有香は丁寧かつ几帳面。
ヒナは可愛らしい字で、手紙を書いていた。
小玉とイザベルにも中身を見せる。三通共ほぼ同じ内容で、光太郎への要望だった。
「光太郎さん、どうしますか?」
「今はメタル・ディヴァインを作ってますから無理ですね。一段落ついたら返事をします。そのときは御連絡をお願いします」
「わかりました。あら?」
イザベルの目に、光太郎のノートが目に留まった。
「『FL計画(案)』……これ、お借りしてもよろしいでしょうか?」
「はい、ただ走り書きの箇条書きなので、字も汚いですよ?」
「分かりました。それでは、製作頑張ってください」
イザベルは後片付けを始め、ワゴンを押して去っていった。
光太郎は製作に戻る。
「さーて、もう一踏ん張り!」
張り切る光太郎を、小玉はしばらく見ていた。
(いかん、いかん、私は何を見てるんだ……)
毎日一緒に過ごすうちに、小玉は光太郎を意識するようになっていた。
最初は技術知識が足らないのに苛つき、怒鳴りちらしもした。
しかし、小玉自身も間違って理解していた知識に気づかされ、教え方も優しくなる。
光太郎も真面目な態度で学び頑張るので、小玉の見る目も変わっていく。
好色爺を見てたせいで、男に偏見があったのは仕方ない。
(……親父や爺とは違う、信頼できる)
もう信頼から好意に変わりつつあった。
エリスは次なる逢い引き作戦を考えつく。
今度は光太郎の部屋で待ち構え、戻ったら押し入る予定。
両手には缶ジュースを持ち、何を話そうか悩んでいた。
「やはり、製作の話をすべきだな、ズレた話題はしらけるからな、うんうん。私も製作に協力出来れば一番いいのだが……あっ、来た。光……!」
「光太郎殿。今、お時間はよろしいでしょうか?」
エリスの前を遮り、アンジェラが声をかける。
「はい、大丈夫です」
「御依頼された調査資料がまとまりましたので、お持ちしました」
「ありがとうございます。では、僕の部屋でうかがいます。何もありませんが、どうぞ」
「お構いなく、失礼しまーす」
光太郎とアンジェラは中に入ってく。
部屋のドアは閉まらず、アンジェラは引き返してエリスの前に来る。
「もらうわよ」
缶ジュースをエリスから取り上げて、部屋に戻ってからドアをバタンと閉めた。
「…………」
エリスは呆然として動けず、しばらく立ち尽くす。
何もできずに一日が終わった。
次の日。
「今日こそは光太郎と!」
と、エリスは意気込むが、女王も暇ではない。
《本日の御予定は、女王会談・兵団視察・王都巡回になっております》
エリスの希望を<アーサー>が打ち砕いた。
「うぎぎぎ……明日は?」
《三日間予定が一杯です》
「うう……仕方ない。我慢だ、我慢! 三日後には必ず!」
ようやく三日後。
「今日は姉上も叔母上も出かけてる。邪魔者はいないな、よし!」
ところが肝心の光太郎が見つからない。仕方ないのであちこち聞いて回る。
「光太郎はどこに行ったんだ?」
「小玉さんチームのプロジェクト会議に参加してるはずです」
「会議――――!」
「夕方には終わると思います」
「わかった。ありがとう」
エリスは技術者に礼を言った。ガッカリはしたが、すぐに気持ちを切り替える。
(くっ!……すれ違いか。昼食が無理なら夕食に誘うしかない)
エリスは所用を先に済ませ、夕方には会議室前で待ち構えていた。
ドアが開き、今か今かと待ちわびるが、光太郎が出てこない。
もう待っていられず会議室の中に入り、顔と目を動かして探すが見当たらない。
残っていたのは小玉だけだった。
「小玉、光太郎は?」
「調子が悪そうだったので途中で会議を抜けさせた。ここのところ働きすぎだったから『休め』と言った。今頃は部屋で寝てると思うが、何か用があったのか? 女王」
「うんぎゃあああああ――――――――!」
エリスは発狂した。




