博士と孫
フリーエンジニア。
アヴァロン星において全ての技術者は、個人もしくはチームで仕事を請け負っている。
実際には五王国から保護される形で雇われ、兵器開発をしていた。
軍事技術は国家間で共有化され、垣根はない。
これは非常時の備えで、技術の喪失を防ぐためだ。仮にどこかの王国が、攻め落とされたとしても技術は残る。
侵略者に対抗すべく技術者達は協力し、日夜努力していた。
その中でも優れた成果を上げた者だけが、博士と呼ばれた。
レムリア城内にある工房エリアに、光太郎と喜久子は足を踏み入れていた。
エリスに話を通して、文吾の師匠に会いに来たのだ。
「さて、どんな人かな?」
「文吾先生は『気をつけろ』とおっしゃってましたけどね」
「恐いなー、エリスの話じゃ技術者の頂点に立つ人らしいし……」
工房内は、白衣か作業着を着た技術者達が、せわしなく動いていた。
見た目は大和ラボの研究員と変わりはない。
違うとすれば目から伝わってくる必死さだった。
サボる者は見当たらず、ましてやアニソンを流して邪魔をする者はいない。
「うーん、声はかけづらいな、案内人が来てるはずだけど……いて!」
「さっきから近くにいたわ、気づけ!」
ぶかぶか白衣にサンバイザーを被った女の子が、光太郎の足を軽く蹴る。
「あっ! 君はあの時の! ハッキングマシンを作ってくれてありがとう。完璧な性能だった」
「……べ、別にいい」
褒められた女の子はモジモジする。
お礼を言われるとは思ってもおらず、ドギマギしたのだ。
「僕は神山光太郎、こちらは姉さんの浅野喜久子。よろしくね」
「こんにちは」
「……小玉だ」
「あなたが、玉ちゃんね」
「玉ちゃん言うな!」
小玉は喜久子に突っかかる。
「ごめんなさい。文吾先生に聞いてたから、つい」
「喜久子姉、どういうこと?」
「小玉ちゃんはねー、文吾先生の娘さんなの」
「え――――! 文吾さんに子供がいたんだ!」
「ふん!」
光太郎は驚き、小玉はそっぽを向く。父親の話をされて不機嫌そうである。
「ああ、ようやく分かった。誰かに似てるなーと思ってたら、撫子そっくりなんだ」
撫子の髪は緑色だが、小玉は栗色だった。あと違う点は、眉をつり上げた仏頂面。
見た目は悪くないのだが、言葉使いも荒く感じは悪い。
光太郎は小玉を見て思う。
(十五年……文吾さんには置き去りにした罪悪感があるんだろうな、だから帰りづらい。この子も反発してるみたいだし……親子関係は難しいけど、仲直りさせてあげたいな)
光太郎はいたたまれなかった。撫子の容姿は、文吾が自ら描いたのだ。
生まれてすぐに別れた我が子を思い、成長した姿を形にしたのが撫子。
小玉の不機嫌そうな顔も、光太郎は寂しさの裏返しに見えた。
(取りなすにしても、まずは友達にならないとね)
「僕のことは光太郎と呼んでくれ、君は何て呼べばいい?」
「小玉でいい。ちゃん付けされるとむかつく、子供じゃないからな」
「わかった。ところで博士はどちらに?」
「今から爺のとこに案内する」
「ちょっとまって、もしかして君は博士の――」
「孫だ。忌ま忌ましいことにな」
「…………」
光太郎は驚きの連続で、声が出なかった。
(文吾さんの娘で、博士の孫……これは思ったより複雑な家庭だな)
小玉の後をついて行き、特別フロアに移動する。マンションのようなもので、小玉と祖父はここに住んでいた。技術者達の仮の住まいである。
幾つもあるドアの一つを開けて中に入ると、つみ重なっていた物が崩れる。
「うわっ!」
「気にするな、どうせガラクタだ」
(ゴチャゴチャなのは、店の地下室そっくりだ。文吾さんの師匠なわけだ)
「爺、客だ」
「何じゃ小玉、儂は今忙しい」
老人が着ていたのは紫色の武術着で、腰に白帯を巻いていた。
頭髪は真っ白で、口ひげを蓄えている。
それでも、顔に老人斑や皺はなく若々しく見える。
(この人が富士吉博士か。それにしても……イメージと全然違う!)
富士吉はマットレスに寝そべり、雑誌を読んでいた。
こちらを見ようともせず、一心不乱に読んでいるのはガイドブック。
タイトルは「メイド喫茶でお待ちしてます。御主人様」。
他にも陸奥市が輸出したサブカルチャー系の物が、山積みされていた。
「こんにちは、初めまして」
とりあえず、光太郎と喜久子は頭を下げて挨拶する。
頭を上げると、富士吉は喜久子の前に立っていた。
一瞬である。その動きは全く見えなかった。
「おお、貴女はあのポスターの!」
壁を見れば喜久子の写真が、拡大されて貼ってある。
「是非お目にかかりたいと思っておりました。ささ、どうぞ」
「いえ、私は……」
椅子を勧められたものの、喜久子は戸惑う。
ここに来たのは光太郎の付き添いで、ついでに学ぶつもりだったからだ。
光太郎が無視されては意味がない。
「爺、そっちじゃない。こっちの男だ」
「野郎に用はない。しっしし!」
「言うと思ったわ。だがな、この光太郎は爺のルドルフを、ぶっ壊した男だぞ」
「なにっ! この小僧が!」
興味を示さなかった目が鋭い眼光に変わった。向き直って光太郎を見下ろす。
一九〇センチの身長が威圧感を増し、体が巨大化したように見えた。
錯覚に光太郎はびびる。
「す、すみません!」
「よくやった!」
「へっ!」
富士吉はにこやかな顔して、光太郎の肩をポンポンと軽く叩く。
明らかに嬉しがっている。
「お主の御陰でルドルフの弱点が分かり、強化することができた。礼を言う」
「壊されて怒ってないんですか?」
「わはは! 面白いことを言うな小僧。メタル・ディヴァインは兵器だ。戦に出れば壊されるのが当たり前、完全無敵の兵器なぞ存在せん。それでも星騎士の生存率を少しでも上げるのが、技術屋の仕事だ。弱点を発見してくれたのだから、感謝しかない」
「なるほど……」
「で、用はなんじゃ?」
「エリスの、いや女王のメタル・ディヴァインを僕が製作することになったので、富士吉博士に、御助言を頂きに参りました。御指導していただければ幸いです。これは文吾さんの紹介状です」
富士吉は片手で、封筒を受け取る。
「あの馬鹿弟子からか……小玉、読むか?」
「いらない、帰ってこない奴は親じゃない!」
「……なら捨てるとするか」
富士吉は封筒を真上に放り、手刀で四つに切り裂いた。
紙切れは、いつのまにか下に置いてあったゴミ箱に吸い込まれた。
(すげー! 博士というより拳法の達人だな。ただ者じゃない!)
「さて、製作だったな? 部品を組み合わせるのは誰にでもやれる。しかし、それでは意味がない。厳しい条件を決めて、自分の中でイメージを膨らませ形作るのだ。どう作りたいかではなく、どうあるべきかを念頭におくことだ。あとは小玉……協力してやれ」
「何で、私が!」
「ルドルフの修理強化は終わった。儂はアトランティス王国に呼ばれとるし、他の国々も巡らねばならん。予定は詰まっとる」
理由を言われても、小玉は納得しない。
直接依頼されたわけでもなく、光太郎に貸しはあっても義理はない。
父親の知り合いだからこそ、関わりたくなくて嫌がる。
「教えることは、教わることだ。お前の母も言ってたはずだ」
「ぐ……分かった」
「よし、儂は今からこの姉ちゃんと遊ぶから出て行け!」
「は?」
「あ~れ~! 博士――! およしになって――!」
孫を諭して、格好いいと思っていたら、富士吉は本性を現す。
喜久子に抱きつき、口説き始める。その喜久子は、わざとらしい悲鳴を上げて余裕がある。
セクハラは藤原理事長で慣れており、軽くあしらう自信があった。
(気をつけろって、こういうことか……)
光太郎が考えてるうちに、眉を吊り上げた小玉が動く。
恥さらしにもほどがあり、完全に怒る。
「ぐふふ、よいではないか、よいではないか」
「……おい、爺」
「なんじゃ、まだいたのか? 玉ちゃん」
「玉ちゃん言うなー! 助平じじい――――!」
小玉は回し蹴りを繰り出して、富士吉を吹っ飛ばす。
富士吉は壁に叩きつけられ、ガラクタに埋もれた。
「流石は、我が孫……ガク」
「大丈夫なの?」
「ほっとけ! この程度でくたばるわけがない。かまって貰いたいだけだ」
「そっか」
「私の部屋に行くぞ」
「うん」
(すげー蹴りだった。小玉も只者じゃないな)
光太郎は感心しながら、後についていく。




