プロローグ
話は隕石迎撃作戦後に、遡る。
「作戦は完了しました。落ちてくる隕石は、もうありません」
「アヴァロン星への被害、ありません」
宇宙船の中に、女性が三人いた。
窓から星を見ながら報告を受けているのは、ピンク色の光星甲冑をつけた女性。
彼女はアヴァロン五大王家の一つ、アトランティスの女王。
ヘルメットをつけたままで、顔はよく見えない。
側近達の報告を聞き終えて、淡々と感想を述べる。
「……そう、作戦の修正は受け入れて正解だったようね」
「はい、送られてきたハッキング装置の設計データは完璧で、我が国で作る手間が省けました」
「流石は富士吉博士のお孫さん、と言ったところかしらね」
「あの一家は天才ぞろいですから……」
側近の一人が、事実だけを嫌そうに言う。
博士の人間性には問題があり、関わった星騎士は心底嫌っていた。
女王は笑いながら、たしなめた。
「ほほほ、天才に異常性はつきものですよ。あの一族の技術力がなければ、アヴァロンはとっくに占領されていたでしょう。博士には敬意を払いなさい。いいですね、楓」
「失礼しました、おひい様。下知に従います」
「おほほほ! 気持ちは分かりますけどね。ところで新たな作戦案を出してきた者の名は、何と言いましたか? 霞」
「地球人の神山光太郎ですね、データを送ります」
女王のヘルメット内部に、光太郎の写真と素性が表示される。
大した情報はなく、特筆すべき内容はない。
「……これだけ見ると一介の学生。それがあの最強ルドルフを破ったというのが、いまだに信じられませんね」
「記録映像を見ましたが、無謀な戦法にしか見えません!」
「同意です。あんなのは勝ったとは言えない!」
戦闘データは各国で共有され、すでに光太郎の戦いぶりは知られていた。
それを見た楓と霞は批判的である。特攻など自滅に等しいからだ。
だが、女王の見地は別だった。
「普通に見ればそうでしょうね。ただ彼に与えられた状況を、考えてみなさい。戦力は未熟な王女と、ボロボロのメタル・ディヴァインだけしかなかった。最悪な状況の中で、最善の策を編み出した彼は褒められるべきです。そして何より生き残ったのが、すばらしい」
「それは運が良かった、だけ……」
「同じことが、貴女達にできますか?」
「それは……」
反論はなく、二人は口をつぐむ。
「……彼をアトランティスに招くおつもりですか? おひい様」
「そうねえー、ディヴァイナーとして使いたいとこだけど……王女、いやレムリア王国は手放さないでしょうね……色仕掛けでもしようかしら、おほほほ」
女王の言葉は冗談には聞こえなかった。
正直、よそ者に関心を持たれるのは側近としては面白くない。が、主の意向は絶対だった。
「でしたら、おひい様の代わりに、私達が彼を籠絡してみせます」
「二人の忠節には感謝しましょう。ですが、彼に関しては私自ら動かなければ、得られないでしょう。恐らく彼は、ディヴァイナーだけの器には収まらない」
「そこまでの男ですか?」
「私の勘です」
「でしたら我らに異論はございません。御心のままに」
女王はうなずいた。
「おひい様、本国から緊急通信です!」
「つなぎなさい」
シャトル内に3D映像が浮かびあがり、通信士の女性が現れて、開口一番に謝る。
『おひい様、申し訳ございません!』
「謝罪は無用よ、状況を説明しなさい」
『はい、アヴァロン星に敵の侵入を許してしまいました』
「なぜっ!?」
「嘘でしょ!」
「二人とも静かに。続けなさい」
『日ごと落ちてくる通常隕石に紛れこみ、こちらの索敵から逃れたようです。敵は降下ポッドに岩盤を張りつけ、偽装していました。大気圏を通過したところでレーダーが捕らえましたが、メタル・ディヴァインの緊急発進は間に合わず、取り逃がしました』
悔しそうに通信士は告げた。
「隕石ロケットだけを警戒していた隙をつかれましたね。皆に非はありません。私の責任です」
「そんな! おひい様は悪くありません!」
『そうです! 留守を守れなかったのは私達の罪です。どうか御沙汰を!』
女王は笑みを浮かべながら思った。
(心服してくれるのは嬉しいけれど、これではあたら若い命を投げだしかねませんね。私は貴女達に、死んでほしくはないのですよ……)
「とにかく侵入した敵を見つけ出しなさい。くノ一部隊を総動員し、草の根を分けても探し出すのです」
『はっ!』
「見つけ次第、誅殺するのです。間違っても捕らえようとしてはなりません」
「マゲイア兵は追い詰められると、自爆するのでしたね?」
「そうですよ楓、洗脳教育されてる哀れな者達です」
「一瞬たりとも、躊躇はできませんね」
側近達は気を引き締めた。
女王は指示を付け加える途中で、少し考え込む。
「侵入したのは恐らく斥候、偵察部隊。もはや全国に散らばっていると、見るべきでしょう。各国にも通達……」
「どうしました? おひい様」
「光太郎……彼を得るのに、良いことを思いつきました。私の名で全国に布告しなさい」
『はい!』
通信士は畏まり、言葉を待つ。
「アトランティス女王、輝夜姫の名において、『女帝戦』を行います」
『御意!』
輝夜はおもむろに、ヘルメットを外す。
頭を振りシニヨンヘアをほどくと、艶やかな黒髪が光を放ちながら広がった。
切れ長の目に赤い唇、鼻筋が綺麗に通っていた。古風な面持ちをした美少女。
年齢はエリスと変わらないが、男を惑わす妖艶さがある。
「それと、あと打つ手は……」
妖しい微笑みを浮かべる輝夜は、絡新婦のようだった。
光太郎に魔の手が迫る!




