戴冠式
ハッキング作戦は成功し、隕石落下は全て阻止された。
その後、マゲイアに動きはなく、宇宙艦隊が見当たらなくなる。
もっとも、これで戦争が終わったわけではない。
今回は威力偵察に過ぎず、「これからが本当の戦い」と誰もが予想していた。
アヴァロン星の警戒態勢は一層強化され、各国ともに軍事演習に励む日々が続く。
光太郎は文吾と一緒に陸奥市に戻り、普段通りの学園生活をおくる。
エリスとの関係は、終わったわけではない。
陸奥市に戻る前に「落ち着いたら連絡する」と、エリスから言われていた。
しばらくして、エルコンドルが使者として招待状を持ってきた。
「エリスの戴冠式と、おま……光太郎の叙勲式をするから、来てくれへんかのー?」
「そっか、エリスは女王になるんだ。でも僕は勲章を受けるほどのことは、してないよ?」
「いや、あのハッキング作戦がなかったら、アヴァロン星は危なかったかもしれん」
「と言うと?」
「残った隕石ロケットを調べてみたら、大気圏前で爆発して分裂するようなっとった。複数の隕石弾が、雨あられと落とされるとこやったわ。手前で防げたのは幸いや、てなわけで光太郎はアヴァロンの英雄や、叙勲せなレムリア王国の面子が立たん」
「わー! 英雄なんて言われると背中がむずがゆい。ただアイデアを出しただけなのにね」
「お前はん賢いから分かるやろ? 庶民には英雄がいるんや、皆を安心させる象徴がいる」
「祭り上げられるのは好きじゃないけど、事情は分かるから受けるよ」
「おおきに。それと……『告白の返事を考えといてや』と言われた」
「うっ!」
光太郎は言葉に詰まる。最近の悩みはそれであり、結論は出ていなかった。
(エリスは嫌いじゃないけど……国も違えば立場も違う、おいそれと女王様と付き合えるわけがない。生半可な気持ちでは無理だ……まいったな、何で僕なんかを好きになるかなあ)
「確かに伝えたで、前日には迎えにくるから、よろしゅう」
考えている間に、エルコンドルは去っていった。
「はー……文吾さんにでも相談するか」
光太郎はマルチコア竹田店に向かった。
「うーむ、アドバイスはできん。これは光太郎が決断すべきことだ」
「ですよねー……一般の色恋沙汰じゃないからなー」
「力になれなくてすまんな」
「いえ愚痴をこぼしたかっただけですから……ところで、有香さんはもう戻ってこないんですか?」
「両親には無事引き合わせたが、有香嬢ちゃんもどうするか悩んでるかもしれんな。人生は決断を迫られる事の連続だ。否応なしにな」
「そうですか……僕も決めなきゃ駄目かー」
とは言ったものの、光太郎は決められ無いまま、戴冠式の日を迎えた。
雲一つない青空に、祝砲が撃ち鳴らされていた。
首都ヒラニプラは、エリスの女王即位を祝ってのお祭り。
多くの人が集まり、露天や催し物を楽しんでいる。
非公式ではあるが、前哨戦の祝勝会も兼ねており、全国民が騒ぎまくっていた。
その様子はテレビとインターネットで、アヴァロン全土に生放送されている。
やがて、映像は王城内の様子に切り替わる。いよいよ、戴冠式が始まるとこだった。
エリスは深紅のマントを羽織り、玉座に座っていた。まだ戴冠はしていない。
各国代表からの祝辞を受けては、礼を述べていた。
(こうして見るとやっぱり身分が違うなー)
光太郎は学生服で臨席して、国の上になる重さを肌で感じた。
そして、自分がひどく場違いな所にいるような気がした。
ここにきて、光太郎の腹が決まる。
(エクリプスも無くなったし、ディヴァイナーとしての僕の役割も終わった。これ以上はよそ者が関わるべきじゃない。勲章を記念にして、エリスとは別れよう……)
謁見が終わり、エリスは玉座から立ち上がる。
一歩ほど前に歩いて跪き、両手を握り合わせて、片膝をついて目を閉じる。
運ばれてきた宝冠をイザベルが手に取り、エリスの頭に被せた。
万雷の拍手の中、ゆっくりと立ち上がり、バルコニーへ歩き出す。
途中でアンジェラが王錫を手渡した。
エリスがバルコニーから姿を見せると、大歓声がわき起こる。
一階のテラスにはレムリア国民が詰めかけ、二階のエリスを見上げていた。
全員、レムリアの小旗を振っている。
国旗にデザインされてるのは弓矢、初代女王が狩人だったからだ。
エリスは王錫をかかげ、高らかに宣言した。
「私は女王として民を守る!」
マントが翻り、甲冑が光り輝いた。
ドレスではなく甲冑を身につけたのは、戦う覚悟の決意表明。
光太郎はエリスが眩しく見えた。
「うおぉ――――!」
「エリス女王、万歳!」
「レムリア王国、万歳!」
絶叫と歓声が入り乱れ、しばらく止まなかった。
手を振りながらエリスは、バルコニーの端に移動して横を向く。
「神山光太郎殿、女王の御前へ!」
アンジェラが言うと、城の壁に設置された巨大モニターに光太郎が映し出された。
歓声はざわめきに変わる。
「あれが、女王の思い人」
「ちんちくりんの異星人」
「アヴァロンの英雄だ!」
隕石阻止作戦は全国放送されており、アヴァロン星のネット動画サイトで、何百万回も再生されている。
光太郎が必死で活躍したのは誰もが知っており、大半の人間は感謝していた。
ただ、外敵に襲われ続けた歴史があるので、異星人に対する嫌悪感は多少はある。
様々な重圧の中、光太郎は辛うじて歩く。
(えーと、エリスの前で一礼して跪いて手の甲に接吻……うわー恥ずかしい! それから、ねぎらいの言葉を貰って、立ち上がって勲章をつけてもらう、だったな……もう早く帰りたい!)
手順を間違えないように、頭の中で繰り返していたのだが、何か様子がおかしかった。
光太郎の頭の中で、警報が鳴り響いている。
(逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!)
虫の知らせも、場の雰囲気に飲まれた光太郎には届かない。
前をよく見て、違和感の正体に気づく。
エリスの側にいる侍女がクッションを持っていたのだが、その上に勲章らしき物は見当たらない。上にあったのは……
(リングピロー? どう見ても指輪だよな? 二つあるってことは!)
跪くのも忘れて、光太郎は立ちすくむ。
エリスは指輪を一つ取り、微笑みながら近づいて来る。
「結婚しよう、光太郎」
「ちょっ!」
光太郎は二の句が継げない。
「おお――――!」
サプライズな出来事に、大歓声が飛んだ。
まさか戴冠式から結婚式になろうとは、誰も予想だにしてなかった。
知っていたのはイザベルとアンジェラだけで、二人は引き留めはしたがエリスが意志を曲げなかったので、やらせてみることにした。
「光太郎さんに決めてもらいましょう」
「そうですね」
今は笑いながら二人の様子を見ていた。
(これは……助けはないな)
「いきなりですまない。けど、私はもう我慢できないんだ!」
「あのーエリス女王。まずは落ち着いて話し合いましょう。第一、僕とは身分の差がありますので、釣り合わないかと思う次第で……」
「光太郎は大英雄だ。私と結婚する資格は十分にある。誰にも文句は言わせない」
軽く一蹴されたが、光太郎はしつこく食い下がる。
「結婚するにはお互い年齢も若く、成人になってからでも遅くはー……」
「レムリア王国の結婚に、年齢制限はないから問題無い」
「うー……エリスさん。結婚は飛躍しすぎだと思うので、まずはお互いをよく知ってから判断すべきかとー……」
「一緒に暮らしたじゃないか? もうお互いを知り尽くしたと思うが、足りなければ結婚してからもっと知れば良い」
「その言い方は誤解されるー!」
エリスの爆弾発言は、観衆をどよめかせた。
「がーん! ショックだ! エリス女王はあいつと同棲していたのか……」
「男だったら責任を取らないとね」
「結婚! 結婚! 結婚!」
シュプレヒコールが起こる。
観衆には光太郎が及び腰で、悪者にしか見えなかった。光太郎は焦る。
「待ってくれエリス!」
「待てない! さあ、結婚指輪をはめてくれ」
(……ああ、分かってはいたんだ。説得が不可能なことはね。エリスから逃げようとしたのは現実逃避だ。甘かった。女性が思い込んだら命懸け、何人たりとも止められない……だけど、このままじゃー僕の人生が終わってしまう! まずい! 非常にやばい!)
じりじりとエリスは指輪を持って、近づいて来る。
捕まったら最後、力で敵うはずもなかった。
光太郎は後ろに下がるが、手すりにぶつかる。もう後が無い。
「くっ!」
エリスは右手を伸ばしてくる。
「ごめん、やっぱり無理――――!」
逃げ場は一つだけあった。光太郎はバルコニーの柵を乗り越え、避難はしごを使って一階テラスへと降りた。
エリスもマントを脱ぎ捨て、追いかけてくる。
「光太郎、待てー!」
「待たなーい! すみませーん! 道を空けてくださーい!」
声に人垣が割れていく、モーゼの十戒のように道ができた。
道は走路になり、カーブもあって馬場のように見える。
光太郎は競走馬の代わりに走り、観客達は野次と声援を飛ばす。
「頑張れー!」
「ほらほら、追いつかれるぞー! 結婚は人生の墓場だぞー!」
「走れ、光太郎!」
「さあ、張った張った! 何ハロン先で捕まるか?」
「五ハロンもたないんじゃないか?」
「いや、七ハロンはもつだろう」
博打を始める輩もいた。
もっとも光太郎が逃げられるとは、誰も思っていない。
現にエリスは直ぐに追いつき、後ろから手を伸ばす。
「捕まえ――――!」
光太郎はブレザーを脱いで、後ろに放る。それを、エリスは手で払いのけた。
「小細工なんて通用しないわ――それは!」
「ふっふっふ、こんなこともあろうかと!」
エリスは、ある物を見て驚く。
光太郎は上半身にサスペンダーを付けて、ズボンを吊り上げていた。
ただそれは、軍用サスペンダーであり、太いベルトが腹部にも巻かれている。
そして、光太郎の両脇腹には小型スラスターが、装着されていたのだ!
「さらばだエリス! プチ・ギャロップブースト!」
スラスターが火を噴き、光太郎は飛ぶように前に進んでいく。
エリスからは、どんどん離れていった。
「これでやっと一安心――はっ!」
「恋する乙女をなめるなぁ――――――――!」
思わず振り返ると、信じられないことに、エリスは距離を詰めてきていた。
光太郎は驚くしかない。
「嘘だろう! 自動車並の速さだぞ! 走って追いつけるわけがない!」
奇跡は起きた。エリスは光太郎に追いつくどころか、追い越す。
そのままUターンして、正面から光太郎に飛びついた。
「もう離さない!」
第一話 終わり
お読みくださり、ありがとうございます。m(_ _)m
評価など頂ければ、幸いです。2017年10月改稿。




