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イン・ディヴァインマスター 銀河の救世主  作者: 夢野楽人
エリスと光太郎

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歴史と侵略者

 決闘は終わった。

「父上、ありがとう」

「……エリス」

 エリスはエクリプスにお礼を言った。

 娘から父親への、初めての感謝の言葉だった。

 頭脳回路の水晶球は、無事にエリスの手に渡されていた。


「もう終わりですよね? イザベルさん」

「ええ、もはや戦う理由はありません。私の目的は果たしました。ひとえに、光太郎さんのお陰です」

 イザベルは頭を、深々と下げた。

「うわわ! 頭を上げてください」

「姉上、光太郎殿が困ってますよ」

「確かに、この姿では失礼ですね。まずは着替えてからお話しましょう」

 胸を腕で隠していたイザベルは、エルコンドルの陰でアンダーウェアに着替える。

 その間にアンジェラはレジャーマットを広げて敷き、テーブルと椅子を組み立てる。

 前もって用意し、エルコンドルに運ばせていた。

 光太郎とエリスも手伝い、日よけのガーデンパラソルを真ん中に立てた。


 全員が椅子に座ると、イザベルは語り始める。

「これはエリスには、教えていなかった話です。長い昔話になります」

「はい」

「大昔、我らの祖先がここに転移してから、新たな歴史が始まりました。我らの先祖は地球から、ここアヴァロン星に逃げて来たのです」

「ええー!」

「地球の伝説にある、幻の大陸は実在しました。国同士は交流しあい繁栄を謳歌おうかして、戦争などはありませんでした。ですが、地軸のずれや、大陸活動により海に沈んだのです」


「天変地異、大津波が起きたんですね……そうすると、陸地が沈没する前に逃げたのですか?」

「はい、当時から空を飛ぶ機械はありましたが、宇宙へ出るのはまだ無理でした。大陸が次々と消えていく中、先祖達は力を合わせて転移装置を作り、動かそうとしました。しかし起動せず、最後の陸地が海に飲まれそうになった時、奇跡が起きたのです」

 エリスと光太郎は、食い入るようにイザベルの話を聞く。

「アヴァロン星の先住民によって、偶然にも救われました。実は先住民達も星から脱出しようと、転移装置を起動したら、我らの先祖が引き寄せられてしまったのです。先住民から話を聞くと、他所よそからきた異星人に攻め滅ぼされそうになっている現状を、伝えられました。先祖達は先住民と一緒に、戦うことに決めました」

「まあ否応もないわなー、生きるためや」

 エルコンドルが口を挟んだ。

「『始まりの戦争(ファースト・ウォー )』と私達は呼んでいます」

 ここでアンジェラが飲み物を配り、少し間を置く。


「大昔の伝承では、初戦は敵の兵器に苦しめられ敗走したそうです。次の戦いでは作戦を練り、囮を使って敵を隘路あいろに誘い出してから、肉弾戦をしかけたそうです」

「それで、どうなりました?」

「先祖は人と戦ったことなどありませんでしたが、漁師や狩人、木こりや坑夫など屈強な者はそろっていました。敵は肉体的には弱く、あっさり倒せたようです。先祖達に勝機が見えました」

「私達が鍛錬をかかさないのは、武器に頼りすぎないように、己を戒めるためなのですね?」

「そうですエリス。それから先祖達はゲリラ戦を繰り返しました。鹵獲ろかくした兵器を使い、少しずつ勢力を拡大していきました。それでも敵の数は多く、駆逐するには至りません。戦いを続ける中、先住民と先祖達は交配し新たな種族となりました。そして世代を重ねると……」

 イザベルは続けた。


「特殊な力を持つ者が現れました」

「それが、エリスの力」

「はい、『王の力(クラウンパワー)』の発現でした。中でも絶大な力を持つ五人が先頭に立ち、敵を全滅させたのです。五人は女王となり、現在の五王家の始祖にあたります。ただ異星人からの侵略は絶えず続き、一時は文明が途絶した時代もありました。それでも一万二千年、王族達はアヴァロン星を守り続けました。なのでエリス、女王は使い捨ての駒ではありません。力なき者を守り、平和をつくるのが王族なのです」

「はい、叔母上」

「すると今までの戦いは、エリスの『力』を目覚めさせる為だったんですね?」

「その通りです。ただエリスの心根が変わらなければ、力を得ることはなかったでしょう。何せ頑固で寂しがり屋、半ばあきらめていました。エリスが力を得たのは光太郎さんの御陰です」

「いえ、僕は何もしてません」

「いや、叔母上の言うとおりだ。光太郎がいなければ、私は変わらずに死んでいた。今更だが感謝している」

 エリスは光太郎の手に触れた。

 光太郎は照れくさそうに、幾つか質問をする。


「で、でも命がけでしたよね? 他にも覚醒方法があったんじゃありませんか? まてよ……ひょっとして時間が無かったんですか?」

「やはり鋭い御方ですね。そうです、また敵が攻めてきたのです!」

 そこに、着信音が鳴り響く。皆が振り向くと、エルコンドルが告げた。

「通信が入ったで」

「つないで」

 エルコンドルのスピーカーから、女性の声が聞こえてくる。

『いよいよ、敵が動き始めました。レムリア王国の作戦参加を願います』

「了解しました」

 イザベルは承諾して、通話を終える。


「とうとう、奴らが来たようです」

 アンジェラが義手を強く握りしめて、音をたてた。

 敵にひどい目にあわされた恨みは、消えることはない。

 アンジェラは思い出した怒りを、自制する。

「これよりアヴァロン星は、戦時体制に入ります」

 イザベルは状況を話す。

「一年ほど前から外宇宙にて、宇宙艦の存在が確認されました。艦形状から十五年前と同じ、『マゲイア』と断定されました」

「マゲイア……アヴァロンの敵」

 

「前の大戦では大艦隊で、強引に押し寄せて来ましたが、今回は隕石を並べて、アヴァロン星に落とそうとしてます。こちらは長距離ミサイルでの破壊を試みましたが、すべて撃墜されました。これから行うのは、隕石迎撃作戦です」

「敵は馬鹿ですか!? そんなことをしたら星ごと無くなっちゃいますよ!」

 わずか一キロメートルほどの隕石落下で、地球は滅亡すると言われている。

 それはアヴァロン星でも変わらない。光太郎は憤って声を荒らげる。

「いえ、マゲイアの目的は飽くまで殲滅占領なので、隕石は小さいです。もちろん危機に変わりはなく、一つでも落ちれば都市は壊滅するでしょう」

「ですね……」


「エリス」

「はい! 叔母上」

「貴女はこれから宇宙へ飛んで、作戦に参加しなさい。レムリア宇宙港では、準備が進められています。王の力を存分にふるうのです」

「承知しました――あ! メタル・ディヴァインがない!」

「やれやれ、残っとるわいが行くしかないやろ?」

「当然です。エリスに従いなさいエルコンドル」

「アンは人使いが荒いのうー」

(……うーん、メタル・ディヴァインは人なのか? これは不毛な議論になりそうだなー)

 光太郎は思わず突っ込みかけた。


 エリスはじっと光太郎を見てから、すまなそうに頼む。

「光太郎……あの……その……できれば一緒に来て欲しい」

 これ以上は虫の良い話だと、エリスも分かってはいた。

 散々危険な目に会わせて、「また命をかけてくれ」と言ってるようなものだ。

 もともと光太郎には助ける義務もなく、余所の星の戦争に関わる筋合いもない。

 エリスは目を合わせられなかった。

「私からもお願いします。エリス一人では心配なので……」

「光太郎殿、お願い致します!」

 イザベルとアンジェラも、頭を下げ頼みこむ。

「いいですよ、役に立てるかどうかはわからないけど」

 光太郎はあっさり引き受け、全員が拍子抜けした。

 十中八九、断られると思っていたからだ。


「あのー光太郎殿。お願いしておいて何ですが、かなり危険な作戦ですよ? 下手をすると死にますよ?」

「いやー、イザベルさんとルドルフと戦うよりはましでしょう。二度とやりたくありませんけどね。まあエリスが力に目覚めたので、死なないと思いますし……楽観しすぎかな?」

「光太郎は私が絶対に守る!」

「ありがとう。任せた」

 今度はイザベルが、光太郎に質問をぶつける。

「光太郎さんは何をお望みなんでしょうか? 報酬に何を求めますか?」

 イザベルの真剣な目を見て、光太郎は察した。

「ああ、名声やらお金が欲しいわけではないです。人助けするのも親に躾けられたからで、正義のヒーローを気取る気はありません。僕が欲しいのはメカ知識ですね」

「なるほど、学者肌なんですね」

「いやいや、単にオタクなだけです。エリスに出会って偉い目に遭いましたが、それ以上にオーバーテクノロジーに触れられて、興奮しました。二度とない人生で最高の出来事です!」

 イザベルは笑って納得した。


「無欲でも強欲でも人は危ういものです。光太郎さんは心身のバランスが上手くとれているようで安心しました。ですが、たまには本能の赴くままに、行動されてはいかがですか?」

「へっ?」

「私ども姉妹が、お相手いたしますよ」

「うんうん」

(……そういう意味か、本気かなー? 女性はよくわからんから、社交辞令として返そう)

「それは是非おねが――いででででで!」

 エリスがふくれっ面で光太郎の腕をつねっていた。これに姉妹は大笑い。

(はめられた!)


「エリス、その辺にしておけ」

「うー」

 エクリプスがエリスを止める。

「いてて、ふー、ところでまだ時間はありますよね?」

「作戦開始までには、五十時間以上ありますが?」

「隕石の位置とか状況を知りたかったので……」

「分かりました。エルコンドル、投影しなさい」

「あいよ」

 空中に天体図が映し出され、隕石の予測進路が表示された。

「大雑把に説明しますと、隕石ロケットを護衛している敵を排除し、こちらの迎撃ミサイルで隕石を破壊する作戦です」

 光太郎は口に手を当て、少し考えこむ。


「イザベルさん、確認しますが隕石にはロケットがついてるんですよね?」

「ええ、加速用と軌道制御用と思われます」

「でしたら、こんな手は使えませんか?」

 光太郎が耳打ちすると、イザベルの目が見開いた。

「良い手です! 早速、技術者に連絡を取ります。各国にも作戦修正を打診だしんします」

「光太郎、何か思いついたのか?」

「うん、でも時間が足りないかもしれない。後で教えよう」

「分かった。まずは宇宙港へ出発だ」

「ほんなら、いくでー乗りやー」

 エルコンドルは、二人を乗せて飛び立った。

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