覚醒
「光太郎――――――――!」
エリスは絶叫した。
空中で灰色の爆煙が広がり、エクリプスの破片が四方に飛ぶ。
ヒラヒラと布きれが、エリスの元に落ちてくる。
それは光太郎が着ていた青ジャージ、黒焦げになりボロボロだった。
エリスは両膝を地面につけて拾い、ジャージを抱きしめた。
「ああ……私は馬鹿だ……今になって気づくなんて……」
光太郎が好き。
『母様、どうして父様と結婚したの?』
『好きになって愛したからよ』
『愛ってなに?』
『一言では難しいわね、お互いを思いやる心かしら……』
『わかんない』
『エリスも好きな人ができたら、分かるわ』
……それは幼き日の母との思い出。
「父上も犠牲にしてしまった……」
機械扱いされても、エクリプスは何も言わずに、エリスを守り続けていた。
全てを失ってみて、初めてその有り難みが分かる。
どれだけ自分をかばい、励まして、助けてきたのか?
恩知らずとは自分のことだ。後悔がエリスを苦しめる。
エリスの目には、涙があふれていた。
(喜久子や光太郎の両親に、私はどう詫びればいいのだ……もう私自身、許されるべきではない……ならば、光太郎の後を追おう……でも、その前に!)
「本当に惜しい人を失いました。彼こそ真のディヴァイナー、私をここまで追い詰めたのですから」
声はエリスの後からした。
イザベルは爆発に巻き込まれそうになったが、ルドルフが盾になり軽傷ですんでいた。
代わりにルドルフはダメージを受けて、地面に軟着陸する。
それでもイザベルの甲冑はひび割れ、剣も半ば折れていた。
「さあ今度こそ、お逝きなさい」
折れた剣をイザベルは振り下ろす、エリスは振り向き様に手を伸ばすと――
エリスの右手が光り輝く!
剣は一瞬で塵になり、イザベルは後ずさった。
「許さない! 許さない! 許さない!」
エリスはイザベルに、ただ殴りかかる。戦術も戦法もない。
怒りで我を失い、自分の変化にも気づいていなかった。
頭にあるのは光太郎の仇を取る、ただそれだけ。
イザベルは、光る拳を避けきれなかった。
拳から未知の力が発せられ、かすっただけで甲冑は塵となる。
丸裸に近い格好にされ、イザベルはバランスを崩して転ぶ。
エリスは飛びついて、のしかかった。
「死ねえ――――!」
「…………」
馬乗りになったエリスは、イザベルの顔をめがけて拳を振り下ろす。
イザベルは笑っていた。
「駄目だ――――エリス!」
そこに光太郎が飛んできて、エリスにタックルした。
「痛たた! マジ痛い……」
「こ……う……太郎?」
「うん、生きてるよ」
「光太郎! 光太郎! うわ――――ん!」
エリスは光太郎に抱きついて泣いた。
「ふー、何とか命拾いした……やっぱり無茶な作戦だったな」
光太郎は、ここまでの事を振り返る。
◇
箸を見て思いついた特攻作戦は、喜久子とアンジェラに猛反対された。
「駄目よ、光くん」
「光太郎殿、無茶だ。危険すぎる」
「確かに危険だけど、ルドルフに対抗するには、これしか手は無いと思う。二段構えで挑めば勝ち目もあるはず。もちろん、僕も死ぬつもりはないので、当たる前に脱出しますよ」
「それでも……」
「緊急脱出装置は文吾さんに作ってもらうとして、僕が脱出した後はアンジェラさん、助けてください。そのまま空中に放りだされるでしょうから、お願いします」
「……姉上相手では致し方ないですね、分かりました。この身に代えても光太郎殿をお救いします」
「はい」
まず二人を言いくるめた。
文吾とエクリプスも賛同しなかったので、光太郎は粘り強く説得した。
「シミュレーションでの勝率は五〇パーセントにもなったが、イレギュラー発生やタイミングを外すとお前が死ぬ。とても賛成はできん」
「我も同感だ」
「もう時間はないんです。喜久子姉にはミッションタイマーを作ってもらいます。これで上手くタイミングを取りますから、お願いします文吾さん!」
「うむむ……他に妙案もないしな、仕方がない。ランスの方はいいとして、脱出装置の完成は時間ぎりぎりだ。テストなしのぶっつけ本番になるぞ?」
「はい、構いません」
「脱出時に我を回収する? 捨て置け」
「嫌だよ、あとでエリスに泣かれるのは辛い」
「やれやれ、どこまでもお人好しだな」
光太郎は全員を説得した。
そしてルドルフに体当たりした時、恐れていたイレギュラーが発生した。
「よし脱出だー! 頭脳回路を取って……げっ! ジャージが引っかかった!」
「脱ぐんだ光太郎!」
「わ、わかった!」
慌てて青ジャージを脱いで、急いで脱出装置を作動させた。
光太郎は座席シートごと、勢いよく射出される。
体がすっぽりとシートにはまり込んでいくが、圧迫されることによって、血流障害を防いでいた。
「分かってたけど、やっぱりきつい――――!」
光太郎もそれなりの訓練をしていたので、辛うじて加速度に耐えられた。
しかし、災難は終わらない。
薄目で前を見ればエクリプスが爆発、いくつもの破片がもの凄いスピードで飛んでくる。
凶器になった破片が当たれば、大怪我だ。
「やばい! 破片のことまで考えてなかった」
「問題ない、どうやら助けが来たようだ」
エルコンドルが翼で破片を防ぎ、アンジェラは鞭を使って光太郎を引き寄せた。
光太郎はアンジェラに抱きかかえられ、お姫様だっこされる。
「光太郎殿、ご無事ですか?」
「アンジェラさん、助かりました。もう大丈夫です」
「いえ、どこかお怪我をされてるといけません。しっかり調べますわ!」
「あのーアンジェラさん……」
「この間のお返しに、たっぷり触りまくって差し上げますわ。うふふ」
「ひえ――!」
「おまえら、乳繰り合うのもええけど、やばいで!」
下をのぞき込むと、イザベルがエリスに押されていた。
「わっ! 本当にまずい! アンジェラさん、僕を投げて!」
「残念、それじゃー行ってらっしゃーい!」
アンジェラは光太郎をぶん投げ、エリスにぶつけた。




