竜の舞姫
蒼穹と荒涼とした大地の間で、道化芝居が始まった。
演目は「決闘」。
演者は姪と叔母、そして白と黒のメタル・ディヴァイン。
観客もいない演劇は、いかなる終わりをむかえるのか?
先手を取ったのはエリス、小回りを生かしルドルフの左側についた。
両者ともに右利き、イザベルは左手での応戦を強いられる。
強敵相手に正面から挑むのは愚の骨頂、自分が有利になるよう動くのは当たり前。
「やー! やー! やー!」
エリスは気合いをこめて、三連突きを繰り出した。
特訓の成果は現れ、突きの狙いは正確で威力も向上している。
それをイザベルはランスで軽く受け流す、利き手でなくても不利には見えなかった。
(今の攻撃は悪くないんだけどねー、やっぱり強い)
光太郎は反撃される前に、ルドルフから離れた。
(寄せるしかないか)
今の間合いはナイトランスがギリギリ届く距離で、当たった所でダメージにもならない。
消極的な攻撃を続けても無意味なので、光太郎は死地に踏み込む。
「いくぞ、エリス!」
「ええ!」
今度はルドルフに思い切り近づき、エリスは間断のない連続突きを始める。
同時に光太郎はイザベルの横から、後を取ろうとエクリプスを動かす。
そうはさせじとルドルフも動き、位置取り争いを始めた。
有利な位置を取れば、勝機も見える。
この勝負はフェイントや絶妙なスラスターコントロールを駆使した、光太郎がわずかに勝った。
「やりますね」
「離れますか?」
「無用よ」
ルドルフは不利を悟り、間合いを取ることを進言するも、イザベルは却下した。
「せい!」
エリスは死角からの突きを繰り出す。
「ふっ」
「今のを避けた!」
(後ろに目があるわけじゃないな、こっちの位置からランスの軌道を読んだのか? 凄い! それと……あんなのありか!)
エリスは果敢に攻め立てているのだが、かすりもしない。
イザベルは上半身の動きだけで、ランスを躱していたのだ。
騎乗しているのにもかかわらず、軟体動物さながらの動きに、光太郎は驚くしかなかった。
「あの動きをするために、軽装鎧なんだ。それにしてもヨガ? 新体操? 体が柔らかすぎる」
「これでは埒が明かない、疲れるだけだ」
「そうだなエリス、作戦開始だ」
長期戦になれば光太郎とエリスに勝ち目はなく、二人は勝負に出た。
光太郎はエクリプスをルドルフから離し、エリスはこっそりと槍頭を交換した。
「何かする気ですね」
「どうしますか? マイ・マスター」
「慌てることはありません。時間がきたら終わりです」
ホワイトブレスが撃てるようになれば、勝負は決まる。
その間、エリスの攻撃を防いでるだけでよかった。無理に攻めて隙をつくる必要はない。
エクリプスは再びルドルフに近づいていくが、攻撃が届く間合いではない。
光太郎はゆっくりと確実に速度を合わせて、エクリプスとルドルフの翼を重ね合わせた。
「今だエリス!」
「アンカーボルト!」
エリスがランスを、エクリプスの翼に突き刺した。
爆音とともにボルトが打ち込まれ、ルドルフの翼に突き刺さる。
これで二機の翼が連結された。ランスは火薬式の鋲打機だった。
無論、ボルト一本では外れてしまう。
エリスは鞍から飛び降りて翼の上に立ち、次々とボルトを打ち込んでいった。
これが光太郎が考えた作戦――ホワイトブレス封じ。
オリハルコン製のボルトで、電車のように連結されれば、プラズマビームも吐きようがない。
後はイザベルと雌雄を決するのみ、エリスはランスを投げ捨て、新武器を背中から取り出す。
イザベルも翼の上に立ち、剣で斬りかかる。
エリスは短槍で防いだ。
形状は日本の槍のようで穂は短く、近接戦闘においては有利な武器だった。
剣は近すぎると思うように振れない上、槍の突きに速さで負ける。
案の定イザベルの斬撃に力は入らず、エリスは弾き返した。
「いきますよ、叔母上!」
エリスは猛攻をかける。
目にもとまらぬ連撃を繰り出すと、残像が消えず、槍が何本もあるように見えた。
エリスは休まず攻めまくる。
これにはイザベルも防戦一方、それでも持ち前の柔軟な体で、攻撃を避ける。
体をくねらせながら、エリスの息が上がる機会を待っていた。
技や力ではなく冷静に対処する能力こそが、イザベルの強みだった。
戦いが始まってから、顔色は一度も変わっていない。
時間が経つとエリスは疲れて、やはり動きが鈍る。突きも遅くなった。
それを見逃さずイザベルは反撃に出るが、エリスは短槍を旋風回転させて防ぎ、呼吸を整えた。
「ふ――――」
(そろそろか)
光太郎はエクリプスを静止させ、戦いを見守っていた。
翼に引力は発生しておらず、踏み外せば二人とも落ちるので、ルドルフも下手に動けなかった。
二人の勝負は、いよいよ大詰めを迎える。
「つ!」
イザベルの頬を、槍の穂がかすめる。攻撃は完全に避けたはずだった。
それが、あらぬ方向から来たのでイザベルは驚く。
エリスの武器を見て、目を丸くした。
「二本!」
いつの間にかエリスは両手に槍を持っていた。隠し持っていたわけではない。
短槍は真ん中から分かれる、仕込み槍だったのだ。
長さは短くなるが、変幻自在な攻めが可能。
二本から一本、組み合わせては分離させ、槍筋を読ませない。
さらにエリスは目でフェイントをかける。光太郎に指摘された弱点は無くなっていた。
「だああぁ――――!」
「くっ!」
多種多彩な槍の攻撃で、さしものイザベルにも隙ができた。
「とった!」
穂先がイザベルの喉元を襲う!
しかし当たらず、甲高い金属音が響く。
イザベルは腰にあった短剣で、エリスの槍を弾いて防いだ。
これで二槍と二剣、戦局は五分……いや、エリスの方が不利になる。
「本当に、本当に強くなりましたね。それでも……私には及ばない」
イザベルは短剣と剣を握り直し、本領を発揮し始める。
上体を思い切りそらしブリッジを作ったかと思うと、直ぐさま起き上がり、重い斬撃をエリスに浴びせた。
エリスは槍を合わせて、何とか受ける。気を抜けば身体ごと飛ばされそうだった。
「ぐっ!」
イザベルは柔らかい全身をバネのように使い、武器の威力と速さを上げる。
どんどん加速していくその動きは、激しいダンスのように見える。
この剣舞を見て生きていた敵はなし、ゆえにイザベルはこう呼ばれる。
竜の舞姫と。
エリスは必死に猛攻に耐えていたが、斬撃の威力で短槍が叩き折られてしまう。
すかさずイザベルは回し蹴りを繰り出し、エリスを蹴り飛ばした。
「ゲホッ!」
辛うじて落下はしなかったものの、エクリプスの鞍までエリスは飛ばされた。
「斬!」
イザベルは剣を一閃させ、連結された翼を切り裂いた。
剣を納めてルドルフに跨がる。
二機共に片翼を失うが、ルドルフは自由になり攻撃が可能になる。
「ルドルフ、ホワイトブレス発射用意」
「イエス、マイマスター」
ルドルフは上昇し、安全距離を取り始めた。
「ここまでか……」
「くっ! まだだ! まだ私は戦える……光太郎どうした?」
エクリプスは動かなかった。
「エリス……ごめんな、サドル・ベイルアウト」
「了解」
「え?」
鞍がエクリプスから射出され、エリスごとゆっくりと下へ落ちていった。
「光太郎――――!」
伸ばした手は届かず、エリスの声はだんだん小さくなっていく。
「ペガサスウィング・アーマーパージ」
エクリプスは残った翼も捨て去り、装甲も外して身軽になる。
ルドルフは上昇を止め、回頭を始めたとこだった。
「よし! 一角獣の角!」
「むん!」
エクリプスの額に螺旋角が生えた。
鋭く尖っている、新たな武器だ。光太郎は叫ぶ!
「いくぞエクリプス! ギャロップブースト・リミッターブレイク!」
「うおおおぉ――――――――!」
エクリプスが雄叫びを上げると、臀部ハッチが開く。
大きなスラスターノズルが飛び出し、火を噴いた。
サイドスラスターも全開噴射して、急加速をかける。
エリスには秘密にしていた最終作戦。
「エクリプスはボロボロでもう限界! だったら捨て身で立ち向かうのみ!」
エクリプスは自らを槍と化し、超高速で突っ込んでいく!
特攻!
イザベルの顔色が変わった。ルドルフも感情を剥き出しにする。
「これは間に合わない! ルドルフ!」
「ぬうー! 噛み砕いてくれるわ!」
発射態勢に入っていたルドルフは、その場から動けなかった。
姿勢制御で停止するこの瞬間を、光太郎は狙っていたのだ。
まして片翼なしの状態では、特攻からは逃げられない。
然らば迎え撃つのみ!
牙 対 角。
ルドルフは大口を開けて待ち受け、エクリプスの頭に食らいつく。
すると螺旋角が高速回転して、ドリルになる。
牙を削りへし折りながら、前へとエクリプスは突き進む。
「おのれ――――!」
黒竜は力任せに、顎を閉じる。
自分の牙を全て折りながら、角を頭ごとバキバキと噛み砕く。
エクリプスの頭部は、バラバラになっていくが……。
「馬鹿な……」
ルドルフの目に映ったのは、壊したはずの角。
いや、尖っているのは同じでも、それはナイトランスだった。
首の中に隠されていたランスは、ルドルフの顔面を貫き破壊した。
尖端はイザベルに迫る!
「素晴らしい!」
イザベルは感嘆しながら、迫りくるナイトランスを両手でつかんだ。
向かってくる勢いを利用して、前方倒立回転とび。
綺麗なブリッジを作りながら剣を抜き、エクリプスに突き立てた。
これが引き金になりスラスターが爆発、全身に誘爆する。
エクリプスは爆発四散した。




