アヴァロンへの帰還
次の日。
光太郎は文吾に、エクリプスの改造と新武器の製作を頼む。
有香にもお願いして、同じ形の武器を作ってもらう。
訓練用は木を削り出して作るので、時間はかからない。
出来あがった武器を持ち、エリスは有香と激しい打ち合いをしていた。
木剣を持つ有香に、エリスは果敢に攻め込む。
有香は押され気味で、新武器の効果はすぐに現れていた。
エリスも問題無く、使いこなしていた。
しばらく見ていた光太郎は、二人に休憩を勧め、タオルとスポーツボトルを手渡す。
「戦ってみて、どうですか?」
「防ぐのがやっとです」
汗を拭きながら、有香は言った。
「はい、少しは有効かな? ただ、実戦でイザベルさんにも、通用するかどうか……」
「これしか無いと思う。剣やランスでまともに戦っても、叔母上には勝てない。この武器はレムリアには無かったから、十分通用すると思う」
「短期決戦だな、初見で相手が慣れないうちに決めるしかない」
「うん。ただ、ルドルフは……」
エリスは不安顔をした。
「そっちは僕がなんとかする。エリスはイザベルさんとの戦いに、集中してくれ」
「わかった光太郎、頼んだ」
(……ごめんなエリス)
作戦には言えない秘密があり、光太郎は心の中で詫びた。
残された時間をエリスは訓練に費やし、文吾と喜久子も寝る間も惜しんで働いた。
光太郎も、あることを特訓する。
全ての準備が終わる頃、決闘の日を迎えた。
◇
「お父様、お世話になりました」
「うおおお――! 嫁にいかないでくれ有香――!」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ英雄。有香ちゃんを生みの親に、会わせるだけだ」
「必ず陸奥市に帰ってきます」
ケイロンが作った転移エリア前に、皆が集まっていた。
光太郎達は先に出立していた。そして、アヴァロン星へ有香も向かう。
文吾は改めて有香に過去の話をして、帰還の意志を確認した。
「俺は有香ちゃんの両親に頼まれて、転移装置で陸奥市に来た。それと機会があれば戻ると、約束もした。しかし、決めるのは嬢ちゃんだ。陸奥市で英雄と暮らし続ける道もある。その方が幸福かもしれんしな」
「私の両親は存命なんですよね?」
「うむ、エクリプスの話では、生き残ったそうだ」
「でしたら、会わない訳にはいきません。光太郎さんもエリスも立ち向かいました。私もそれに倣いたい。どんな運命が待ち受けているとしても……」
有香の瞳は決意に満ちていた。
「私もお供します!」
勢いよく言ったのは早紀。
「早紀さん、ほんとにいいの? 何が起こるかわからないのよ?」
「お嬢様が行くなら地獄でも宇宙の果てでも、御一緒します」
「ありがとう早紀さん」
「よし決まりだな、それでは行くとしよう」
「しくしく」
英雄はマジ泣きしていた。
三人は文吾の車に乗り込む。
車が転移エリアに移動すると、黒い閉球体が現れて消えた。
「おーい、おーい、えーん!」
「ほーら、泣かない、泣かない。私がいるでしょ」
「樹里――――!」
英雄は子供のように泣きつき、樹里はあやした。
藤原家を背負っている英雄は並々ならぬ苦労があり、時折ふざけるのは孤独とストレスの反動だった。
そんな英雄に樹里は母性本能をくすぐられ、支えになりたいと思った。
もっとも、早紀からは「趣味が悪い」と言われている。
「一時の別れですからね。お嬢様は帰ってきますよ」
「それでも辛い」
「もう、我慢しなさい」
「うー……そうだ! 子供を作れば寂しくないんだ。作ろう、作ろう」
英雄は樹里を抱きかかえて、走り出す。
「調子に乗るな!」
英雄は、しばき倒された。
◇
エクリプスは開球体を出て、神殿遺跡の通路を疾駆する。
光が差し込む出口に向かって飛び出し、翼を広げて飛ぶ。
「……ああ、レムリアに帰ってきたな」
故郷を追われてから様々な事があり、エリスは万感の思いにふける。
腕も上がり、精神的にもエリスは成長して帰って来た。
光太郎はエクリプスの中で、景色を眺めていた。
三六〇度・全天周囲モニターの、隅々まで目線を動かす。
「うわー! ほんとに綺麗なとこだね、レムリアは」
「今度、私が絶景スポットに案内しよう」
「それは楽しみだ。あ……あれは?」
「残念ながら、目を背けたくなる場所もある。それが古戦場跡だ」
上空からそこを見ると、おびただしい数の無人機やら戦艦の残骸と、髑髏と骨がどこまでも広がっていた。
草木は見当たらず、他にあるのは岩と砂。
十五年前の戦争の爪痕は、生々しく悲惨さを伝えてくる。
地獄もかくやあらん。
光太郎は惨状に目を逸らしかけたが、手を合わせて戦死者の冥福を祈った。
「この広さじゃ、まともな供養はやれないね。不発弾も山のようにありそうだ」
「毎年、空から花を投げて祈るだけだ」
「やっぱり、戦争は駄目だね」
「うん、不幸と恨みだけが積み重なる。母上も戦争さえなければ……」
後に言葉は続かない。仮定の話は虚しいだけだった。
「見えたぞ」
エクリプスがルドルフを見つける。
砂丘の上で鎮座し、イザベルは騎乗して待ち構えていた。
イザベルは静かに瞑想していた。
エクリプスが正面に着陸すると、目を開けてナイトランスを天にかざす。
エリスもナイトランスを掲げた。これは決闘前の儀式、互いに大声で宣誓する。
「逃げずに来たのは褒めてあげましょう、エリス。この上は貴女を墓なき墓に葬るだけです」
「私は死なない! 叔母上、貴女を倒す!」
「「決 闘!」」
掛け声と同時に二人は突進し、ランスを繰り出した。
儀礼の一撃を交わし、エクリプスとルドルフは空に駆け昇っていった。




