特訓と作戦会議
決闘の日まで、たった七日しかない。
今までのように、がむしゃらに特訓するだけでは、万に一つの勝機もない。
イザベルは圧倒的に強く、エリスは訓練で一度も攻撃を当てたことはなかった。
軽くあしらわれ、本気を出させたこともない。
考えたエリスは、有香に練習相手になってくれるよう頼んだ。
「どうせならエリス、私の家に住まない?」
「……そうだな、その方がいい。世話になる」
有香は快く引き受けて、エリスは提案に乗った。
光太郎の家から通うよりは、特訓時間がとれるので効率がいい。
また、光太郎と離れるのは辛かったが、気にしていては勝負には勝てない。
こうして、エリスは有香の家へ転がり込んだ。
朝。藤原家の敷地内を、気合いの入った声が飛び交う。
「せい!」
「やー!」
「とう!」
エリスと有香は、特製プロテクターとカメラ内蔵のヘルメットをつけての朝練。
武器は木製の槍や剣で、樹里が全て手配してくれた。大和ラボ製である。
一汗流してから朝食を取り、一緒に学園に通う。
夕方。それぞれメタル・ディヴァインに乗り、実戦形式での模擬戦。
有香はエルコンドルに乗り、武器を振るいながら軽々と乗りこなしていた。
「星騎士の才能はある」
エルコンドルは、有香をそう評した。
アンジェラに言われて渋々協力したのだが、有香の真剣な態度に感じ入り、対応を改める。
この特訓により、エリスの実力は上がっていく。
夜。カメラに録画された映像を元に、互いに意見を述べ合う。
「この一撃のあと、隙が大きいわ」
「そうだな、改めよう」
悪いと指摘された動きは直す。少し前のエリスなら、突っぱねていただろう。
素直になれたのは、アンジェラ戦での敗北と光太郎の影響だった。
エリスは精神的にも成長していた。
そして女同士の相談。
一緒にシャワーを浴びている間、エリスは悩みを打ち明ける。
「光太郎を見てると辛い、苦しい、でも離れたくない。この気持ちは一体何なんだ?」
「そう……私も光太郎さんを見てると切ないわ、エリスと同じね」
「有香も……」
「もう答えは分かっています。決闘が終わったら、また二人で話しましょう」
「分かった。今は特訓あるのみだな」
「ええ」
(エリス、負けちゃ駄目よ……貴女は私の恋敵なのだから)
そして、光太郎も学園に通いながら、作戦を練ることに決めた。
もちろん一人で抱え込むつもりもなく、喜久子と文吾に相談しに、大和ラボに行ったのだが……錯乱した。
「悩みがあるから青春――じゃねー! もう嫌、逃げたい!」
「ふっ、根性が足りんな光太郎」
「精神論でどうにかなる問題じゃないでしょ! 文吾さん」
「いやーここまでデタラメに強いと、笑うしかねえだろ。はっははは」
「先生、少しは真面目に考えてください。とは言ったものの……ねえ」
少し前、まずは全員で戦闘記録映像を見ることにした。
エクリプスとエルコンドルからコピーしたデータを、ホログラム再生する。
最初に映ったのは、雲霞のごとき敵の大軍。
それに向かってただ一騎、ルドルフに乗ったイザベルが突進して行く。
立ちふさがる敵は一撃必殺、鎧袖一触。
造作も無く、イザベルが敵を蹴散らしていった。
駆逐艦も雑魚に過ぎず、ルドルフが加速して突き破る。
進撃は止まらず、巨大空中戦艦の前まで来た。
ここでルドルフがホワイトブレスを吐き、灼熱の白い閃光が視界を奪う。
何も見えない。
太陽のようなまぶしい光が収まると、三隻の戦艦が撃沈され落ちていった。
映像はここで終わる。
三人はしばらく絶句し、光太郎は錯乱した。
「ルドルフに弱点はないんですか? あれも文吾さんが作ったんでしょ?」
「いや、ルドルフは俺の師匠が作った。それも奇跡の産物だ」
「えっ?」
「師匠は発掘された古代のメタル・ディヴァインをもとに、ロストテクノロジーの再現を試みた。やけくそ気味に作ってたら偶然が重なって、ルドルフが出来た。同じ物を作ろうとしても駄目だった」
「アヴァロン星の技術なら複製可能なのでは?」
「それが解析してみると、機体の内部構造が特異変化を起こしてて、同じ作製手順を踏んでも、ルドルフのコピーは出来なかった。まあ先人は凄かったというとこだな」
「う――……」
「話がそれたな、ルドルフに弱点はない……が、わずかにつけいる隙はある」
文吾は続けた。
「強襲殲滅型で重装甲、最高速度はエクリプスより上だが小回りはきかない。それとホワイトブレスはすぐには吐けん。機体内部でのプラズマ生成圧縮に、時間がかかるからだ」
「そのくらいですか……その隙、イザベルさんは百も承知だろうなー」
「うむ、星騎士として完全無欠だ」
お手上げ状態。
対ルドルフ戦用にエクリプスの改修作業を考えると、あと三日のうちに作戦を立てる必要がある。
はっきり言って時間がない。
「光くん、大和で戦術シミュレーションをやってみましょう」
「はい、喜久子姉さん」
大和は量子コンピュータとは言っても、速い計算機でしかない。
プログラムとデータ処理方法が悪ければ、安いパソコンにも劣る。
その点、大和用のプログラミング言語を作った喜久子は優れていた。
複数の人工知能を作り、自己学習機能と情報収集能力を持たせた。
マルチAIが膨大なデータベースを管理するようになり、処理速度もセキュリティも格段に上がる。<撫子>もAIの一つでしかない。
光太郎は喜久子と一緒に、思いつくかぎりの戦術データを入力した。
大和のデータベース上からも、使えそうな戦法をいくつか選ぶ。
後は大和によって仮想ルドルフ戦が何億パターンも行われ、結果はすぐに出る。
《対戦結果が出ました》
「内容は? 勝率だけでいい」
《勝率0パーセントです》
「……がくん」
結果は無情。分かってはいたが現実を突きつけられて、光太郎は落ち込んだ。
さらに追い打ちをかけるような言葉が続く。
《勝てないピョーン! あきらメロン!》
「は?」
《そもそも戦おうとする奴の気が知れんわ。あーはっはははは!》
完全に人を小馬鹿にしている。<撫子>らしからぬ物言いに、全員くびをかしげた。
文吾は撫子をチェックしようと、スマートグラスを探したが見つからない。
辺りを見回すと、こそこそと逃げ出す藤原理事長の姿が見えた。
スマートグラスをかけてるのを見て、文吾は気づく。
「あ、あの野郎! 撫子の設定をいじりやがったな!」
文吾は席を立って走りだす。
「光太郎君、諦めちゃ駄目だ! 探せば道はきっとある。頑張れ!」
「何を偉そうに、俺のスマートグラス返せ!」
「やだよーん!」
ラボ内で文吾と英雄は、鬼ごっこを始めた。
「二人とも子供ねえー。光くん今日は帰りましょう」
「そうですね。焦っても仕方ない」
「待てーこらー!」
ため息をつきつつ、光太郎はラボを後にした。
喜久子と一緒に家に帰ると、アンジェラが夕食の支度をして待っていた。
エプロン姿が意外と似合う。
「アンジェラさん、まだ無理しちゃ駄目ですよ」
「だいぶ良くなりました。少しはお手伝いしないと」
「気にしなくていいのに」
「姉上、そういうわけにも……また、間違えました。すみません」
「いえいえ」
アンジェラも喜久子を、姉と見間違えていた。
故人となった現実は、なかなか受け入れられるものではない。
誰しも家族には生きていて欲しいと、願うものだ。
三人は椅子に座り、食事の挨拶をする。
「いただきます」
並べられた料理に、箸をのばして食べる。
「美味しい」
「良かった」
焼き魚は皮はパリパリ、身はふっくらし最高だった。
弱火で手間をかけて焼いてあり、味付けも良い。
「あれ? アンジェラさんは食べないの?」
「いえ、その……」
「あっ、そうか! ちょっと待ってね」
「まずは、頑張ってみます」
アンジェラは箸の扱いに苦戦していた。
二本の棒を器用に使うのは難しい。それは外国人も異星人も同じ。
何とか身をつかむものの、箸ごと下に落としてしまった。
「どうぞフォークとナイフを使ってください。スプーンもいりますね」
「すみません」
光太郎はアンジェラに手渡したあと、落ちた箸を拾って、じーっと見つめた。
「光君?」
「使い慣れないか……」
光太郎の目が輝き、頭の中で閃く。
「イザベルさんに対抗できるかもしれない」




