介抱と修理
「ゲホ! ゲホ、ゲホ!」
「エリス、気がついたか! 良かった」
エリスは激しく咳き込み、意識を取り戻した。
人工呼吸器が、エクリプスの口内に格納される。
メタル・ディヴァインには生命維持装置や、医療器具が備えてあった。
「……ここは?」
「学園裏山の森だ。もう暗くなってしまったがな」
日はすでに落ち、星が空を埋め尽くしていた。満天の星を見上げ、エリスは母との思い出に浸る。
やがて戦っていたのを思い出して、辺りを見回す。
「そうだ! 姉上は? 光太郎はどこだ?」
「エルコンドルは少し離れたところにいるが、二人がどこにいるかわからん」
「そんな……」
「障害物がありすぎて、レーダーセンサーでとらえられんだけだ。恐らく二人とも無事だ」
エルコンドルに動きがないので、近くにいるのは間違いなかった。
「……私が意識を失う前に、何があった?」
「エリスが首を絞められる寸前に、光太郎は我の臀部ハッチから外にでた。そして、エ……何とかアンジェラの動きを止めて、もろともに下に落ちた」
「……光太郎は……命がけで私を助けたのだな」
「そうだ」
エリスは膝をかかえて、顔をうずめる。
(光太郎に怒って、逆らって、突っぱねた挙げ句、姉上には手も足もでなかった……私は馬鹿だ)
もはや反抗心はなく、心配と反省と後悔が代わる代わる頭をよぎっていた。
「光太郎は会ったときから親切だった。赤の他人でしかも異星人にだ。一緒に命懸けで戦い、我らを助けてくれた。しかも自宅にまで住まわせてくれた。あんな優しい男は他にいない」
「くっ……ううっー!」
エリスは泣いた。激しく泣いた。
人の親切を当たり前のように受け取り、自分だけのことを考えて、何一つ感謝していなかったことに気づく。
恩知らずであることを、エリスは恥じる。
「暗がりで動くのは危険だ。我も万全ではないから、今は動かない方がいいだろう。朝になったら光太郎を探そう。それまで我の中で眠るといい」
エリスはうなずき、泣きじゃくりながら操縦室の中に入る。
座席を倒し横になると、光太郎の臭いがする。
エリスは無事を祈りながら、目をつむった。
◇
少し時間はさかのぼる。光太郎とアンジェラは……えらい目にあっていた。
「いやん、もう許してー!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、本当にすみません!」
騎士甲冑には浮遊力があり、二人はゆっくりと下に落ちていく。
問題は鞭とワイヤーが二人に絡みついて、あられもない状態になっている事だった。
アンジェラが身をよじるたびに、状況が悪化する。
「うー埒があかんな、おーいハゲタカ! 助けてくれー!」
「誰がハゲじゃ、ボケー!」
エルコンドルは、すぐそばに来ていた。
「言われんでも助けたるわい。アンが暴れてるせいで掴みにくいんじゃ、小僧しばらく押さえておけ」
「ええー!」
「いいからやれ!」
光太郎としては、これ以上アンジェラに触るのは気が引けた。
とはいえ地面がそこまで迫ってきており、落ち方が悪ければ大怪我をする。
「もう少しだけ、我慢してください。マジすんません」
「うう、もうお嫁に行けない……」
光太郎は腕を掴み足を絡めて、アンジェラをおとなしくさせた。
「よし! 今だ!」
エルコンドルは両足で二人を上手くつかむ。が、密着状態を嫌がったアンジェラが、再び暴れ出す。
光太郎は力をこめて、説得する。
「あとちょっとだけ、我慢して下さい! もうすぐなんで!」
「そ、そこは触らないでー! 早く降ろしてー!」
「やめろアン! 落ちるぞ、あっ……」
ドボン、とアンジェラは沼に落ちる。
義手と義足にワイヤーが、絡まったままなのが非常にまずかった。
内蔵されていたオリハルコン機関がショートし、池に電気が流れる。
大量のブラックバスと一緒に、アンジェラがぷかりと水面に浮かんだ。
「ア――ン!」
エルコンドルは叫び、足にしがみついていた光太郎を、乱暴に投げ落とす。
地上近くの草むらに落ちたので、光太郎に怪我はない。
エルコンドルは大急ぎでアンジェラを救い上げ、地面に降ろす。
光太郎もすぐに駆け寄った。
「しっかりしろ、アン!」
「脈はある、人工呼吸器を!」
「お、おう。今出す」
「……脈が安定しない」
「義手と義足のせいや! 感電したショックでいかれとる」
「これオリハルコン機関が、内臓されているのか?」
「そや、どないしよ……このままじゃアンが……」
「僕が直す、修理道具は腹の中にあるだろう?」
「お前がか? やれるのか?」
「エクリプスを修理したことはあるし、基本構造は文吾さんに習った。応急処置ならやれる」
「しゃーない任せたる。ただアンが死んだら承知せえへんどー!」
「絶対助けるよ」
光太郎はスマートグラスをかけて、修理を始めた。ただ自分の行動には、疑問を感じなくもない。
(また修理か……さっきまで、この人と命のやりとりしてたのにね……何だかなー)




