深紅の星騎士
二人は無言のまま支度をして、エクリプスに乗る。
顔も会わせず、気まずい状態のままだ。
「何かあったのか?」
「…………」
「喧嘩した」
「……そうか」
エクリプスも黙り、裏山へと急ぐ。
敵の姿が見えてくると、エリスが叫んだ。
「まさか! あのメタル・ディヴァインは!」
深紅に輝く機械鳥が、公園広場に着陸していた。
乗っているのは、クリムゾンレッドの甲冑をつけた女性。
エクリプスは降下し、エリスは女性と向かい会う。
女性がフード付きマントを脱ぐと、顔があらわになる。
赤髪のショートヘアに碧眼。
ただ、左目はレンズをつけた義眼、左手、左足も機械のサイボーグ。
「やはり姉上……」
「初めまして、私はアンジェラ・K・レムリア。そして我が乗機、エルコンドル」
「よろしゅう」
「どうぞお見知りおきを」
騎乗したまま、アンジェラは挨拶をした。
「姉って……」
「正確にはエリスの叔母だ。喜久子と光太郎の関係と同じだ」
エクリプスが説明する。光太郎は聞いたものの、見た目の若さに驚いていた。
「アヴァロン星の人って歳をとらんのか? どう見てもエリスと変わらんぞ」
「寿命は地球人よりはるかに長いが、その前に戦で命を落とす者の方が多いな」
「……そうか」
エリスはアンジェラを見て、戸惑いを隠せなかった。
公私ともに相手をしてもらった時間は、イザベルよりも長い。
師であり、先生でもあった。
(姉上が刺客……)
もっとも、アンジェラ自身はエリスを見てはいなかった。
「エクリプスのディヴァイナー、お名前をお聞かせ願いませんか?」
「あっ! 僕に挨拶してたのか、失礼しました。神山光太郎です」
「それでは光太郎殿、私の方から提案があります」
「はい」
「光太郎殿とエクリプスが、我がレムリアにお越しいただけるのなら、そこの馬鹿妹を見逃してもかまいません」
「えっ!」
「本来なら無人機だけで、片がつくはずでした。まだ妹が生きているのは、光太郎殿のお力があったからでしょう。私も姉も光太郎殿の能力を、高く評価しております。そのお力を貸していただけないでしょうか? ああ、愚妹はいりません」
(うわーこれは挑発だ! エリスをあからさまに無視してる)
「姉上――――!」
「落ち着けエリス!」
「うるさい! エクリプス突っ込めー!」
エクリプスの突進を、エルコンドルは宙に浮かんでかわす。
エリスは我慢できず、先に手を出してしまう。
「光太郎殿との会話に割り込むなエリス! お情けで見逃してやろうとしているのに」
「なめるなー! ぶっ倒す!」
「星騎士の称号もないお前が私を倒す? 笑わせる、お前はもはや王女の資格もないんだよ」
ミドルネームは称号を意味していた。Qは女王、Kは星騎士、Dは公爵でイザベルにはもう一つ“D”に関した二つ名があった。
「本来、ディヴァイナーの任命権すらないくせに、おこがましい! 光太郎殿にはあとで正式に授与いたしますわ――エリスを殺してからね!」
エルコンドルは本格的に飛び始め、アンジェラは武器を取り出し構える。
「行け、エクリプス!」
「おいエリス!」
「光太郎は動かすな! 私一人で倒して見せる!」
「もう勝手にしろ! 遮音モード」
「いいのか光太郎?」
「エリスは頭に血が上って聞く耳を持たんだろ、ここで争っても逆効果だ。しばらく様子を見る。エクリプスは回避主体で動いてほしい。あとエルコンドルのデータを見せてくれ」
「感謝する光太郎、まだエリスを見捨ててはいないのだな?」
「いや、僕も意地になってるだけさ、エリスをギャフンと言わせたい」
「……やはり礼を言う」
アンジェラの武器を見て、エリスは更に逆上する。
槍や剣ではなく、殺傷力には乏しい鞭だったからだ。
拷問用であり、相手を痛めつけるのにはよいが、仕留めるには不向きだ。
「ふざけるな、姉上! そんな鞭で私が殺せるか!」
「お前にはこれで十分、無様に泣き叫んで苦しむ姿をさらしなさい」
「この――!」
怒りにまかせて槍を繰り出すが、かすりもせずに反撃を食らう。
「痛っ!」
エリスの甲冑は、全身を防御しておらず隙間があった。
着てるのは軽装鎧で、正式な甲冑に比べると遥かに劣る。
まあ、着の身着のままで陸奥市に来たのだから仕方ない。対するアンジェラは正式の騎士甲冑を身につけていた。
アンジェラは容赦なく鎧の隙間を狙い、鞭を振るう。
見る見るうちにエリスの肌は赤く腫れ上がっていく。白い美肌がミミズ腫れになり痛々しい。
エリスの攻撃は、全く当たらない。ナイトランスと鞭では、リーチに差がありすぎた。
鞭の先端は音速を超え、見て避けるのは不可能。
エリスはやられる一方で、苦戦する。
「あうっ!」
「そらそら! 私を倒すんじゃなかったのかい?」
「エクリプス、下がって突進だ!」
「愚かな」
無謀な連続突進は容易く見切られ、カウンターの餌食になる。
そもそもエルコンドルは飛行特化型。地上汎用型のエクリプスが空戦で勝てるわけがない。
速度・旋回能力だけでも上回る。奇しくも光太郎が言ってた通りの戦況になった。
相手が速かったらどうする?
「エリス、ここは退け!」
「嫌よ!」
「素直に父親の言うことを聞きな、一度だけチャンスをやる。エクリプスを置いて逃げな」
「くっ! ギャロップブースト!」
やけくその突撃も、エルコンドルは急降下でかわす。
エリスの攻撃は、全て見切られていた。
「おっと、あぶねえ、あぶねえ」
「不意打ちとはやってくれたね、もう容赦しないよ! エルコンドル、疾風加速!」
「あいよ」
エルコンドルが見えない! 超高速飛行モードは、誰の目にも止まらない。
エリスは為す術なく、痛めつけられる。速度が加わった鞭は威力を増して、エリスの甲冑にヒビを入れた。
エクリプスの装甲にも傷がつき、エリスは籠手で身を守るのが精一杯。
逃げ出す隙もなく動けずにいたが、ふいに攻撃が止む。
エリスはエルコンドルを見失う。
「どこだ?」
「下だエリス!」
「アクセルスピン!」
エルコンドルは垂直急上昇、きりもみ飛行で体当たりを仕掛ける。
当たれば真っ二つ!
ここで光太郎は動いた。
「宙返りだ!」
エクリプスは前足と臀部スラスターを使い、馬首を後ろにそらして一回転……ならず。
回転途中で体当たりを食らい、前足二本をへし折られる。折られた足は下へと落ちていく。
エルコンドルは追撃せず、ゆっくりとエリスの上空を旋回していた。
今度はアンジェラが、見当たらない。
「姉上が乗ってない……」
「ここよ」
「うっ!」
声はエリスの真後ろからした。アンジェラはエクリプスに乗り移っていたのだ。
鞭のグリップを舌で妖しくなめ、仕込んでいたワイヤーを噛んで引っ張り出す。
すぐさまエリスの首に、ワイヤーを巻きつける。
「あぐっ……」
首を絞められたエリスはもがくが、何も出来ずに苦しむのみ。
アンジェラは、後ろからささやく。
「さようならエリス……」
エリスは白目をむいて、失神寸前。
「失礼します」
「えっ? ひゃっ! あうっ!」
アンジェラが艶っぽい声をあげる。いつのまにかアンジェラの後ろには光太郎がいた。
光太郎は両手の人差し指を立てて、脇の下を突いたのだ。
騎士甲冑にもわずかに隙間はあり、意表をついた攻撃にアンジェラはたじろぐ。
更に光太郎は、耳に息を吹きかける。
「ふうぅ――」
「ああ――ん!」
アンジェラの手が緩んだのを見て、光太郎は鞭ごとワイヤーをエリスの首からとった。
「エクリプス引力停止! 逃げろ!」
放心したアンジェラを抱きかかえ、光太郎は下に落ちた。




