テレビゲームと喧嘩
レムリアの首都、ヒラニプラ。
俯瞰したその街並みは、綺麗に区画が分かれ整然としていた。
道路も広く歩道と車道が区切られ、人と車がぶつかることはない。
もっともAI車しか走っておらず、事故は皆無。
また、防災カメラと量子コンピュータで交通管制も万全。戦争時には、避難誘導に使われる。
戦争に備えて、建物のほとんどは鉄筋コンクリート製。
首都の下には地下都市があり、全市民が数年暮らすのは余裕で、食料プラントを始め、インフラも完備されていた。
いざ戦となれば地下都市に避難するか、地下鉄から他の地下都市へと逃げることもできる。
全ては生き延びるための備えだ。あと首都には二つの高層建築物がある。
一つは都市の周りに作られた巨大な塔で、斥力場シールドで都市を守る、防御塔。
もう一つは王城……いや、城塞基地と呼ぶべきかもしれない。
城は堅牢な城壁のかたまりだった。城壁には数多の発進口が開いており、そこからメタル・ディヴァインや無人機の出撃が可能。
軍事施設ではあるが、中には迎賓館や式典会場もある。
そして今、中のブリーフィングルームでは、先の戦闘映像を見ている者達がいた。
「エクリプスの動きが、今までと違う」
「ケンタウルが破壊されたのは予想外」
「ケイロンもエリスでは、絶対倒せなかったはず」
「あの馬鹿妹、どうやらディヴァイナーを得たようですね」
「それもかなり優秀です」
暗がりに3D映像が浮かんでいた。中央にあるテーブルの上に、逃げたケイロンの頭部があった。
ケーブルでコンピュータと直結され、録画されたデータを再生している。
ケイロンが持ち帰った情報は、戦闘記録だけではない。
陸奥市に飛び交う電波を受信して、インターネットにも不正アクセスしていた。
流石に大和へのハッキングは無理だったが、地球の情報をかなり手に入れた。
それにより、ある事実が判明する。
「それにしても、太古の故郷に転移したのは偶然でしょうか?」
「祖先がアヴァロンに流れ着いて一万二千年、生き延びられたのは奇跡。その後、何度も危機を乗り越え、今に至っています。私は先人の努力の他に、天宙神の加護があったと思っています。これもお導きなのかもしれません」
「人の身では理解できないですね」
「この件は、今は置きましょう」
「そうですね」
テーブルに座り会話しているのは、イザベルともう一人の女性。
フードを被っており、顔は見えなかったが、片目が赤い光を放っていた。
「さて、どう戦いますか?」
「いくらディヴァイナーが良くても、エリス自身は変わってません」
「あの頑迷さは直らないでしょう。私も何度、腹を立てたことか」
「育った環境のせいですね。父親は機械になり母親は寝たきりで、遊び相手もいない。ひねくれるのも仕方がない」
「相手をしたのは私達だけでしたから……同い年の子供らは、王族には遠慮してしまう」
昔を思い出し、二人は少しの間沈黙した。
「……やり方はまかせます、エリスを仕留めてきなさい」
「……本当にいいんですね? 殺しますよ」
「かまいません。未熟者はどうせ生き残れない」
イザベルにためらいは、ないように見えた。
「分かりました……」
その顔を見て女性は椅子から立ち上がり、マントを翻して歩き出す。
交互に鳴る左右の足音が違っていた。
◇
正午過ぎに、二人は自宅に戻った。
「何だ、テレビゲームで勝負か」
「誰もリアル格闘するとは、言ってない」
「こんなものより、有香と手合わせしたい」
「僕に勝ったら、いくらでもやるといい」
「仕方ない、つきあってやる。どのゲームをするんだ?」
光太郎はテレビゲームの準備を始める。
ゲーム機をテレビと二台のジョイスティックコントローラーにつなぎ、ゲームソフトを起動した。
テレビの画面が切り替わり、タイトルロゴが表示される。
「ヴァルキリー・デュエル」
よくある2D対戦格闘ゲームだ。技を出し合い、体力ゲージを削って勝敗をつけるのは普通。
このゲームは簡単で、三個のボタンだけを使い、技コマンドも短くて出しやすかった。
ゲームの売りとしては、プレイヤーは乗り物を選んで戦うことができる。
「何だか私とエクリプスが、キャラの中にいるな」
「確かに似てるが、気にしなくて良い」
このゲームをエリスはしたことがなかったので、光太郎はしばらく練習させることにした。
……そして二時間後。
「くらえ! そこだ! いけー!」
ゲームに、はまったエリスがそこにいた。
「よし! ウルトラハードモードクリア!」
「ほう、じゃー僕と対戦だな」
「ハンデをやろうか? 動体視力も反射神経も私の方が上だぞ」
「いらない」
戦う前からエリスは、勝ったつもりでいた。
だが、いざ対戦が始まると光太郎が圧倒し、エリスに一本も取らせない。
プレイヤーキャラや乗り物を変えて、連戦しても光太郎は負けなかった。
「……嘘だ。私が負けるはずがない!」
「いや、負けただろう?」
「そうか光太郎、インチキしたな? 私が一方的にやられるわけがない」
「チートなんかしてないよ」
「だったら、なぜだ?」
「はあー……自分では気づかないか? じゃーババ抜きの時から教えよう」
光太郎は種明かしを始める。
「ババを引くとエリスは怒った顔になる。そしてババを上に出すからバレバレだ」
「……顔を見てやる方が悪い」
「次に変化球打ちだが、有香さんにはボールの握りと回転を見るように言った」
「どういうことだ?」
「変化球はボールの回転方向で変化する。また、ボールの握りが分かれば来る球も事前にわかる。もっとも並外れた動体視力がある、有香さんだから打てた。プロ選手でも本来は難しい」
「ふん! それを知っていれば、私だって打てた」
(ムカッ!)
光太郎は一瞬、腹を立てる。
「そして、今やったゲームだが、僕はテレビ画面をほとんど見ていなかった。見ていたのはエリスの顔と手だ」
「?」
「理由は同じだ。目を見れば攻めてくる所が分かるし、手の動きを見れば出してくる技も分かる。だから実際の戦いも……」
「ずるい、ずるい、ずるい!」
ここで流石に光太郎も切れた。
「あのなー、ただ突っ込めばいいってもんじゃない! 敵だって避けるか防ぐに決まってるだろ! 猪武者はカウンターの餌食だ!」
「黙れ! 五月蠅い! 意見するな!」
「今までは運が良かっただけだ。工夫や努力なしで勝てるものか!」
「鍛錬は毎日やってる。相手より速く動いて倒せばいいだけだ!」
「空理空論だ! 相手が自分より速かったらどうする? 頭は使ってないだろ!」
「いい加減に……!」
二人の言い争いは、外からの物音で中断する。
庭を見ると、エクリプスが着陸していた。
「エリス、光太郎! 敵だ!」




