留守番と訪問者
「これがメタル・ディヴァインか!」
「オリハルコン機関は、複数あるんだな」
大和ラボの研究員達が目を輝かせ、エクリプスを見ていた。地球外のオーバーテクノロジーが眼前にあっては、興奮は抑えられない。
そのエクリプスはクレーンで吊り下げられ、装甲を外されている。
文吾が側でローラーキャビネットから部品や工具を取り出し、会話をしながら修理をしていた。
「そうか……は生きていてくれたか、それは朗報だ」
「戦争は足かけ三年ほど続いたが、だんだん奴らに勢いがなくなっていった」
「きつかったのは最初の頃だけか……すると反撃に転じたのか?」
「うむ、力を合わせて敵機動要塞を破壊すると、残った敵は逃げた。味方の犠牲も多かったから、追撃する余力はなかった。その時、我は肉体を失った」
「そうか……ところで、エリスはお前をどう思っているんだ?」
「エリスは我を機械としか見ていない。幼い頃に『父親は機械になった』と言われて、信じられるわけもなく、認めたくもないだろう。仕方がないことだ」
「……辛いな、ここにお前の人格と意識があるのにな」
操縦席の前に透明な球があり、更にその中には六角柱の水晶があった。
六角水晶の周りを、赤・青・黄色のレーザー光が周回している。
クリスタル・ブレイン・デバイス――頭脳回路。
人の脳から思考や記憶を転送された装置。もっとも霊魂に関しては、存在を含めて一切不明である。
「かつてはディヴァイナーとして、ドミニクとともに我は戦った。ドミニク亡き今、我はエリスを守りたい。他には何もしてやれないからな」
「……ボディがもう持たんぞ、竜骨とメインフレームが限界だ。他は直せるが、竜骨だけは換えが効かん」
「できる限り補強してくれ、それともう一つ頼みがある」
「何だ?」
「光太郎を責めないでやってくれ、娘が助かったのは彼の御陰だ」
「もう言わんよ、あれは弟子に対する躾だ。昔、俺も師匠に殴られた」
「弟子か」
「理由もなく光太郎が決まりを破る訳がない。しかし、破る事に慣れれば罪悪感もなくなり、やがて身を滅ぼす。あいつには、そんなふうにはなって欲しくないからな」
「しかし、彼を巻き込んでしまったな」
「やはり追っ手はくるのか?」
「必ずくる、エリスの試練だ」
◇
「うん、ピッタリ! とっても可愛いわ!」
「……喜久子、そろそろ止めないか」
エリスは着せ替え人形にさせられていた。部屋中、洋服だらけである。
母親似の喜久子に何も言えずに我慢していたが、朝から昼までいじり回されては、流石に嫌になる。
「うう、まだあるのに……」
「もう勘弁してくれ、その白ワンピースだけでいい」
「じゃー普段着はそれで、残りはお部屋に持っていきましょう」
喜久子はエリスの身の上話を聞いて、この家に住むよう勧めた。
外人だろうと、宇宙人であっても気にはしない。
行く当てもないエリスは肯き、部屋を用意する運びとなる。
千坪の土地に住んでいる有香ほどではないが、光太郎の家も百坪はあり、空き部屋も多かった。
数人泊めても、余裕がある。
エリスも光太郎も精神的に立ち直っていた。眠って疲れが取れれば、若さが活力になる。
朝はしっかり食べて、体力・気力は回復した。
「光くん、部屋の模様替えはできた?」
「大体はね、欲しい物があったら言ってくれ」
「寝床と食事があれば十分だ」
「エリスちゃんて、お姫様なのに本当に贅沢じゃないのねー」
「野山で過ごすのが多かったからな、社交行事は退屈なので逃げてた」
エリスの口調はぶっきらぼうで、これも王女らしくはなかった。
特異な環境で育ったので、世間知らずなのは仕方ない。
「さてと、残念だけど私はラボに戻るわ」
「僕も食料の買い出しに行ってくる。エリスは留守番しててくれ」
「怪しい者が来たら倒せばいいのだな?」
「……それはやりすぎ、ドアモニターで確認して男だったら開けなきゃいい」
「わかった」
「そもそも家に人が来る事は滅多にない。何かあったら撫子に聞いてくれ、エリスも家族として登録しておいた」
「そうか」
「それじゃー、行ってきまーす」
一抹の不安を覚えながら、光太郎も出かけた。
エリスは自室に戻り、甲冑を確認する。
「綻びは無いな、ただ臭うな……私もか」
何度も着替えたせいで、エリスは汗をかいていた。
「シャワーでも浴びるか」
エリスはバスルームへ向かった。
しばらくして、光太郎の家のチャイムが鳴る。玄関先には有香が立っていた。
早紀や樹里の目をかいくぐり、一人で訪ねてきたのだ。
スマホを使わなくとも、陸奥市の地図は頭に入っており、迷うことはない。
(いきなりお訪ねするのは、やっぱり失礼だったかしら……でも、光太郎さんに会いたい)
「お留守かしら?」
もう一度チャイムを鳴らすと、インターホンから返事がある。
「ちょっと待ってくれ。うー、どう開けるんだこの鍵?……そうか! 撫子、開けてくれ」
《解錠します》
(女の人の声?)
ドアが開くと、有香の目の前には、バスローブを着たエリスが立っていた。
その姿を見た有香は激しく動揺し、固まってしまう。
(この綺麗な人は誰? 外人さん? 光太郎さんの御両親は不在で、喜久子さんと一緒に住んでるんじゃなかったの? そもそも何で裸なのー?)
有香の胸中を、疑問と不安だけが渦巻く。
嫌な予想が頭をよぎり、辛くてまた逃げ出したくなる。
(今度は逃げないわ!)
勇気を振り絞り、有香は踏みとどまった。
「あ、あの!」
「すまない、急いで出てきたから着替えてくる。中の客間で待っててくれ」
エリスはバスルームに戻り、肩すかしを食らった有香は、気を取り直して家に上がった。
「お邪魔します」
靴をそろえながら、有香は思った。
(とにかく話をして見なくちゃ、分からないわ)




