小玉の怒り
「なんだ!」
光太郎と小玉が、異変に気づいた時には遅かった。
軍靴の足音が聞こえたかと思えば、取り囲まれていた。
「大人しくしろ、騒ぐな!」
銃を向けて、偵察隊の一人が命令する。
ミウは光太郎の前にくる。
「あの時、言ったはずだ。『お前は戦場にくるな』と……」
「ミウ……」
「一緒に来てもらおう」
ミウが光太郎に手を伸ばし、連れ去ろうとする。その手を小玉が払い飛ばした。
「何の真似だ! お前に用はない! 殺されたくなければ、引っ込んでろ!」
「……ざけるな」
「小玉?」
「ふざけるな――! お前らのせいで、私の家族はバラバラになったんだ――――!」
小玉は怒りに震える。
物心ついた頃には、父親はいなかった。「王族を逃がすために転移した」と理由は聞かされたが、納得はしなかった。
「帰ってこれないなら、二度と親父には会えないわ! 一生!」
小玉は不満を抱えながら、母親の元で育つが、十二歳の時に別れる。
母親は重要な任務を女王から託され、音信不通になり生死不明。
祖父の富士吉はいたものの、小玉は独りになる。
家族水入らず、一家団欒を望むも、叶わぬ願いだった。
「全部マゲイアのせいだ!」
小玉は憎しみをぶつけるように、兵器研究に没頭する。小玉は笑わなくなっていた。
そして、光太郎と出会う。
無茶な要求ばかりしてくる男に本気で怒るが、なだめすかされては頼みを聞くことになる。
小玉の心に変化が現れていた。
「私に気安く話しかけてくる者なんて、いなかったからな……」
富士吉博士の孫で天才技術者、と呼ばれてる小玉に近寄る者は少なかった。
教えを聞きに来る者はいても、友達と呼べる者はおらず寂しかったのだ。両親がいなければ尚更辛い。
やがて、光太郎への思いは恋へと変わる。
その好きな男を、目の前で連れ去ろうとしている。絶対に許されることではない!
「また、私から奪うのか! マゲイア――――!」
小玉は激昂した。
「小玉よせ!」
「光太郎は伏せてろ! こいつらは私が片付ける!」
小玉は止めるのも聞かず、偵察兵に襲いかかる。
武技――縮地を使い、一瞬で間合いを詰める。
「ぐわっ!」
地面が割れるほどの踏み込みで、連打を浴びせる。偵察兵の一人が倒れた。
「流派影王拳、奥義――神脚連撃!」
残った偵察兵達は、小玉の認識をあらためる。見た目は少女、中身は虎なのだ。
(こいつは強い!)
(やらねば、やられる!)
「撃て、撃て!」
「やめろ――――!」
事を荒立てたくなかったミウは止めるが、間に合わず、小玉に向けて銃が乱射される。
薬莢が飛び、音を立てて地面に落ちていく。
「小玉――――――!」
光太郎は絶叫する。何百発もの弾丸が飛んで、小玉に浴びせられた。
逃げようもなく、無残な姿に変わり果てたかと思うと、目を背けずにはいられない。
「くっ!」
だが、キュイーンという機械音が聞こえてくる。見れば小玉は健在。
「そんな、へなちょこ弾にやられてたまるか!」
小玉は横を向いてしゃがんでおり、その手には武器があった。
旋棍――丁字形の打撃武器。
通常の物とは違い、握り手にはモーターが内蔵され、長い警棒を回すことが出来る。
弾丸は警棒を高速回転させて、はじいて防いだ。
小玉が着ている、ぶかぶか白衣の中には、暗器がたくさん仕込んである。
旋棍はその一つであり、暗殺拳の継承者は伊達ではない。
それと白衣は耐爆スーツになっており、弾丸を数発喰らったところで屁でもない。
科学と武術を持つ小玉は星騎士より強く、素手喧嘩だったら、女王とタメを張れる。
「オラ、オラ――!」
小玉は二本の旋棍を振り回し、次々と偵察兵に襲いかかる。
縮地で接近されては、銃は役に立たず、銃身で受けるのが精一杯。
それも、小玉の速い攻撃と警棒の威力で、突き崩される。
「ぐほっ!」
「がはぁ!」
偵察兵達は、バキバキと嫌な音を立てて倒されていく。
体の骨にヒビが入り、何本かは折れていた。
それでも、戦闘服を着ていたおかげで、即死だけはまぬがれた。
小玉は容赦なく、偵察兵を踏みつけて蹴飛ばす。
「あとは貴様だけだ。バラバラにしてやる!」
小玉はミウに言い放つ。処刑宣告だ。
戦っているうちに興奮し、暴走状態になっていた。
こうなっては、祖父の富士吉しか止められない。
ミウは殺気と気迫に押され、後ずさりしてしまう。小玉に恐怖を感じていた。
(私は甘かった……こんな強い敵がいるなんて……兄様、すみません……)
「なにっ!」
小玉が一歩踏み出そうとしたその時、突然足が動かなくなる。
地べたに這いつくばっていた一人が、小玉の足を掴んだのだ。
さらに左右から二人の偵察兵が、よろけるようにしがみつく。
「離せ! 離せ!」
小玉は暴れるが、ビクともしない。激しく打ちのめされても離そうとはしなかった。
偵察兵達は最後の力を振り絞って、小玉を押さえ込んだ。
火事場の馬鹿力を発揮され、どうあがいても振り解けない。
小玉は一転、窮地に追い込まれる。
「じゅ、准尉……今、です!」
「ああ! 悪く思うな」
動けなくなった小玉に、ミウは銃口を向ける。
「おのれ――――!」
一発の銃声が響く……倒れたのは光太郎だった。
小玉を庇うために、身を投げだしたのだ。光太郎の血が宙に飛び散る。
「光太郎――――――――!」
「あ、あ、あ、ああ――!」
小玉は叫び、ミウは動揺する。
先に立ち直ったのはミウ、部下達の声が聞こえたからだ。
「准尉……早く行ってください……」
「我らのことはかまわず……」
「……みんな、すまない!」
ミウは倒れた光太郎を抱えて、逃げ出した。
「待て――――――! 行くな――――――――!」
小玉は動けず、見てるしかなかった。
しばらくしてから、駆け付けてきた星騎士達に、ようやく助けられる。
偵察兵達は取り押さえられるが、すでに気を失っていた。
小玉は膝から崩れ落ちて、地面を叩く。破壊音とともに、クレーターが出来る。
「ちくしょう――――――――!」
涙はあふれて、止まらない。
女王達がオルワンガルに着く、わずか一時間前の出来事だった。




