二度目の銃口
光太郎がさらわれる前日。
双眼鏡でオルワンガルを見ていたミウは、潜航艇の中に戻る。
視線を向ける部下達に言った。
「みんな、聞いてほしい。ある人物を、さらいたいと思う」
「准尉、誰を?」
「神山光太郎……地球人だ」
「例の……それは構いませんが、其奴は今どこにいるのでしょう?」
「今、近くに敵の人工島が航行してるわ。そこにいるのを見たので、これから追いかけて隙を狙います」
「目的は交渉ですか?」
「ええ、その男は女王達にかなりの影響力があるようです。何とか人質にして、交渉材料に使いたい。降伏した同胞のために……」
「……マゲイアでしたら、捕虜は処刑ですからね」
偵察隊の面々は暗くなる。
「そう、だからこそ命の保証だけでも約束させたい。ただ、上手く行くかどうかは、わからない……それでも!」
「やりましょう、准尉! このままいても、死ぬか捕虜になるだけです」
「賛成!」
「我らに異存はありません!」
「すまない、みんなの命をくれ!」
誘拐するにしても、敵基地への侵入である。生きて帰れる保証はない。
味方はわずか五人しかおらず、成功率は限りなくゼロに近かった。
まさに、ミッション・インポッシブル――それでもミウは、仲間を助けたい一心だった。
(光太郎には恩がある。私を見逃し手当までしてくれた……けれど、同胞の処刑だけは絶対にさせない! 光太郎の身柄を押さえれば、きっと!)
ミウは知らなかった。光太郎の価値は、ミウが思っている以上に高い。
女王達は自分を捨てても、光太郎を取るだろう。
脅迫手段としてこれ以上の者はなく、身代金の値段はつけようがない。
ただ、決して触れてはならぬ者でもあり、一つ間違えれば星が壊れる。
その日の夜。
こっそりと、潜航艇はオルワンガルの後を追っていた。
基地内は祝勝会の真っ最中、基地司令官みずから音頭をとっての乱痴気騒ぎ。
外に響く大声は、集音マイクから艦内に聞こえてくる。羽目を外し、とんでもない奇声だ。
『そう、我こそはー! 最強無敵の司令官! イエエェ――――イ!!』
聞いた隊員達は、ドン引きしたものの楽観的になる。
「敵は油断してますね。これなら成功するかも!」
「過度な期待はしない方がいいわ。宴会に参加してない兵もいるはずよ。慎重に機会を待ちます」
「すみません。うかつでした」
ところが、司令塔で待機してる星騎士達も、酒盛りをして酔っていた。
安心しきっており、とがめる者はいない。
「勝った! 勝った! 大勝利!」
「ざまーみやがれ、マゲイア共!」
「ひっく!」
仕事をしてる者もおらず、唯一まともだったのは、基地内のAIだけである。<アーサー>は警告する。
《海中ソナーに反応があります。敵の奇襲に警戒して下さい》
基地ソナーは、ミウ達が乗っている潜航艇をとらえていた。
気づかれた! 万事休す! ――とはならなかった。
「ああん、どれどれ」
「ステルス反応はないし、深度も浅い。こんな見え見えの敵はいないだろ?」
「図体は大きいな。大方、迷いシャチが島を追いかけて来てるんだろう」
「そうだな、よしっ! 祝い酒でも振る舞って――いや、朝にでもエサをやろう」
「うんうん。どわっははははは!」
完全に酔っ払っており、馬鹿笑いして過ごす。敵の接近に気づかず、誰も危機感はない。
現在オルワンガルには、星騎士が千人駐留しており、敵が攻めて来るなどあり得ないのだ。
ましてや、マゲイア軍は全滅したはず……と思い込んだからこそ、隙ができていた。
思い込みというのは恐ろしく、<アーサー>の警告は無視されてしまった。
AIに決定権や命令権はないので、どうしようもない。
虎視眈々とミウは、オルワンガルを見張っていた。
「――いた。あの宿舎か」
宿舎に入る光太郎の姿を、暗視カメラで見つける。
場所さえ分かれば、後は突入するだけだ。
「明朝、決行します。準備が出来次第、みんな仮眠をとって」
「はい!」
全員、戦闘服に身を包み、武器を携える。
見た目は黒いライダースーツで、防刃・防弾機能を備えており、救命胴衣としての機能もある。
武器は火薬式の突撃銃と短機関銃。
ただ、銃では騎士甲冑を着た星騎士には通用しない。弾は貫通せず、はじかれてしまうだろう。
もっとも戦闘が目的ではないので、重装備にはせず身軽さを優先する。強行誘拐には速さが必要だった。
部下達は真剣に、銃の手入れをする。
「出来れば、武器は使いたくないけど……」
ミウは自動拳銃に弾倉を入れ、遊底をスライドさせる。
安全装置をかけて、胸にしまい眠った。
運命の朝がくる。
潜航艇は浮上し、全速力でオルワンガルへと近づく。
偵察部隊は緊張した面持ちで、甲板の上にいた。
「もう、接近は気づかれてるでしょう。あとは素早く行動するしかない」
「ええ、准尉!」
島に乗りこむまでの時間が、やけに長く感じられる。
時間との勝負なので、やはり気をもんで焦る。しかし、慌てる必要はなかったのだ。
なにせ、歩哨・警らは酔いつぶれており、ミウ達の接近に気づいた者はいない。
潜航艇は妨害もうけず、接舷することに成功する。
五人は上陸して駆け足で進む。いまさら足音など気にしない。
さらにラッキーなことに、外に出ていた光太郎と鉢合わせになる。
側に居たのは小玉だけだ。白衣を着ていたので、非戦闘員と認識される。
光太郎と小玉は取り囲まれる。
「ミウ!」
「大人しくしろ、光太郎。お前は人質になってもらう」
二度目の銃口が、光太郎に向けられた。




