表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/45

第9章 国王の評判


 ブリトリアンが誕生してから七年後に国王が崩御すると、王太子ライオネルが国王に即位し、イーリスが王妃、ブリトリアンが王太子となった。


 即位当初はこの国王で本当に大丈夫なのかと心配する声が上がっていたが、才媛の王妃のサポートのおかげで、その後ライオネルはなんとか国王としての勤めを果たしていたので、表立って異を唱える者はいなくなった。

 

 目論見が外れて陰で悔しがる者はいただろうが。

 

 そして即位一年後の祝いの会に、国王は辺境伯夫妻に招待状を送った。

 しかし、不参加の返事が届いた。辺境伯は国境の守りがある。そして妻も三人目の子供を宿していて間もなく臨月なので、遠出は難しいと。

 

 そしてその後もどんなに招待状を送っても不参加との返事が返されたので、やはりエリスティアは自由を制限されているに違いないと国王は思った。

 しかしたとえ国王になったとしても、辺境伯の屋敷に簡単に調査に入る真似はできなかった。

 

「監禁とか閉じ込められているとか、そんな物騒なことではなく、辺境伯は国境を護るために領地をはなれられないだけ。夫人は王都に来たくないだけではないですか」

 

 王妃は至極真っ当なことを言い続けていたが、思い込みの激しい国王は聞く耳を持たなかった。

 

 そしてそうこうしているうちに、王宮にこんな情報が入ってきた。オークウット公爵が頻繁に辺境伯の元に訪れていると。

 国王付きの近衛第一騎士団副団長ノリス=コールウェイト伯爵によると、ガースン=ホーズボルト辺境伯とオークウット公爵は王立学園の同級生らしい。

 友人同士なら訪問するのもおかしくないかと皆が思いかけた時、コールウェイト伯爵が続けてこう言った。

 

「私も彼らと同じ学年でしたが、このお二人は当時の学生の中では人気を二分にする人気者だったのですよ。正しく麗しき貴公子と美丈夫な騎士ってことでね。

 でも彼らの仲がいいとは正直思えませんでしたね。貴公子の方が一方的に騎士をライバル視していたので。

 貴公子の婚約者が騎士に熱を上げていたのが気に食わなかったのでしょうね。

 どうやら彼の婚約者は筋骨隆々の男性が好みだったようですから。

 しかしそれなら騎士に嫉妬するより、自分も身体を鍛えればいいだけの話だったのですがね。

 まあそれはともかく、何故今頃になって公爵が辺境伯の元を訪れているのかが不思議なのです。

 それでついこちらは邪推してしまうのですよ。旧交を温めるためだけではなく、何か別の目的があるのではないかとね。

 なにせ毎回彼の息子まで連れて行っているようですからね」

 

 彼の言葉に国王や王妃だけでなく周りの者達も、なるほどそうかと思ったのだった。


「それにしてもあからさま過ぎだよな。従兄である彼が私を馬鹿にしているのはわかるが、この国には優秀な王妃と側近や、官吏がいることを理解していないのかね?」

 

 国王の問に宰相が頭を振った。

 

「わかってはいるでしょう。あの事件以後人臣を一新するために、様々な改革をしましたからね。

 ですが、だからこそそれによって排除されて不満に思う輩はいるでしょうね」

 

「そんな能力のない者達を手下にして王座を乗っ取っても、この国は治められないだろうし、人臣も従わないだろう?」

 

 しかし国王のこの言葉に、宰相ベンティガ伯爵はこう否定した。

 

「仮に公爵が謀反を起こした場合、確かに多くの貴族はそれに従わないでしょう。

 しかし国民はどうでしょうかね?

 王妃殿下はともかく国王陛下は国民には全く人気がありませんからね。いや、むしろ嫌われていますからね。蛇蝎(だかつ)のごとく」

 

「そんなにか……」

 

「そりゃあそうですよ。陛下は王太子だった頃、長年尽くしてくれていた婚約者の侯爵令嬢をないがしろにして、男爵令嬢と浮気をしたのですから。

 そしてその挙げ句に衆人環視の中で婚約者を罵倒し、冤罪をかけて婚約破棄をして、なんと侯爵令嬢を牢獄に放り込んだのですからね」


 コールウェイト伯爵がかっきりと肯定した。


「そうそう。

 元々エリスティア嬢は慈善活動に熱心で、市井の人々とも積極的に触れ合っていて、庶民にとても人気でしたからね。

 そのエリスティア嬢が王太子にされた極悪非道な話はすぐに市井に広まって、庶民はみんな彼女にとても同情しました。それを今でも皆が覚えていますよ。

 なにせエリスティア嬢の不幸はそれだけではなくて、実の親からは廃籍されて屋敷を追い出されたのですからね」

 

 側近の一人がこう言った。

 

「ううっ」

 

 国王はずっと陰口を言われ続けてきたが、改めて面と向かってこう指摘されると、さすがに胸が抉られた。

 

「ところがです。捨てる神あれば拾う神ありで、なんと平民に落とされたエリスティア嬢は、王太子の嫌がらせにもかかわらず辺境伯と結婚して、子供三人にも恵まれて幸せになった。

 もう、国民は大喜びです。辺境伯は正しくヒーローですよ。陛下とは対照的ですよね」

 

「何がヒーローだ。妻を監禁している束縛男じゃないか!」

 

「それは陛下の勝手な憶測に過ぎません。国民はそんなこと思っていませんよ。

 何せホーズボルト辺境伯夫妻の愛の物語は芝居やオペラになって、度々再演されるほど人気ですからね」

 

 先ほどから国王に対して厳しい言葉をずっと投げかけているこの側近は、ライオネルが王太子だった頃に唯一男爵令嬢に魅了されなかった人物だ。

 彼はずっと王太子や他の側近達に注意を促していたが、口煩いやつだと遠ざけられてしまった。そこで親を通して宰相に注意勧告してもらったのだが、親馬鹿だった宰相は息子の話だけを信じて、彼の父の忠告を無視したのだ。


 そしてとうとうあの日を迎えたのだが、彼はあの茶番劇の計画を知らされてはいなかった。その上王太子より一つ年上の彼は既に卒業していたためにその場におらず、阻止することができなかった。

 

 因みにその当時の宰相は当然更迭され、侯爵の地位も弟に譲り渡す羽目になった。

 そして妻からも離縁された彼は、遠い領地へ自分の息子の療養の付き添いという目的で追い払われた。

 そう。彼の息子は男爵令嬢との結びつきが強かったので、魅了を解くためには相当な時間がかかると診断されたからだ。しかし今ではその側近だった男も正常に戻り、平民としてその領地の管理人をしていた。

 

 そしてその能無し宰相の後任として指名されたのがベンテイガ伯爵。王太子に一人だけ注意をしていた側近ノーマンの父親であった。

 

 このノーマンから初めて知らされた現実に国王が打ちのめされていると、宰相が言った。

 

「悲劇のヒロインである元侯爵令嬢エリスティア様の娘であるご令嬢と縁を結ぶことができたら、オークウット公爵家も民衆からの支持も得られるでしょうね」

 

「そんな馬鹿な。不幸なエリスティアの娘まで利用し、さらに彼女を不幸に陥れようと画策するとは、なんと残酷で卑劣な男なのだ。そんなことは私が赦さない!」

 

 国王がこう叫ぶと、周りにいた者達も皆頷いたのだった。

 そしてこのような経緯があったために、その後オークウット公爵家のディズベルとホーズボルト辺境伯家のアスティリアの婚約申請は、いつまで経っても許可が下りることがなかったのだ。

 しかしこの時王妃だけは心の中でこう思っていた。

 

『公爵が卑劣な男? 貴方とどっこいどっこいでしょ。

 それにエリスティアは悲劇のヒロインなんかじゃないわ。むしろ幸せなヒロインよ。

 こんな思い込み激しい馬鹿な男と別れられて、一途に自分を愛してくれる最強の男と結婚できたのだから。

 それに彼女の娘のアスティリアが、見掛け倒しのカッコつけの男なんかを選ぶわけがないじゃないの。彼女の理想は自分の父親なのだから』

 

 と。


 読んで下さってありがとうございました!

 夕方に短めの話をまた投稿する予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ