第38章 卒業式
別行動のアスティリア、そしてブリトリアン達は超多忙な日々を過ごした。
そして、とうとう王太子達の卒業の日を迎えた。
王立学園の卒業式は国家行事の一つでもあり、父兄だけでなく、来賓席には国王や王妃、そして宰相を始めとした主要な閣僚や高位貴族も参列する。
特に今年は王太子を始め宰相やオークウット公爵の嫡男も卒業するということで、いつにもまして豪華な来賓が一段高い席に陣取っていた。
そして厳かに式が進められた。
今年は例年になく優秀な人物が多く輩出されていて、彼らはこれから本格的な公務をこなすことになる王太子を各方面で支えることになっていた。
文部大臣の祝辞が終わり、卒業生代表でブリトリアンが答辞を読んだ。
その輪郭のある爽やかではっきりとした声や、威風堂々としたその態度に、卒業生や在校生、そして来賓の方々が魅力された。
そして講堂の片隅に隠れるように控えていたアスティリアも、大きな目をさらに大きくして見つめながら、歓喜の声が漏れないように両手で口を押さえていた。
初めて会った時、あまりにも儚げだったので、本当に生きているのかしら?と思った少年が、まさかこんな勇壮華麗な青年になるとは思いもしなかった。
自分が卒業するまでには後二年もあ
る。これからは今までのようには逢えなくなると思うと、アスティリアの胸は少し苦しくなった。そして誰かに奪われてしまうのではと不安になった。
しかしすぐに彼女は頭を振り、絶対に官吏試験にトップ合格して、王宮付きになってみせると心新たにしたのだ。
卒業式が終わった後は、休憩を挟んで生徒会主催の卒業記念パーティーが催される。
アスティリアがその準備に向かおうとした時、いきなり両方の手を、ギフトチルドレンのアンとエリーに掴まれた。そして来賓のための控室の方に引っ張って行かれた。
「アン、エリー、私、生徒会の仕事があるのだけれど」
「代わりに私達がやっておく。中に奥様がいらしてるのよ」
「えっ?」
彼女達の言う奥様とは自分の母親しかいない。しかし何故? とアスティリアは驚いた。王都嫌いの母親が自分の子供の卒業式でもないのにと。
まあ、ブリトリアン様のことは実の息子のように思ってはいるのだろうが。
アンとエリーに背中を強く押されて控室の中に入ってみると、そこには母親であるエリスティアと、なんとイーリス王妃、そしてホーズボルト辺境伯家のアスティリア付きの侍女とメイドが待ち構えていた。
アスティリアは驚きながらも慌ててカーテシーをした。しかし頭を上げる間もなく問答無用でその場で侍女達に制服を脱がされた。
それから淡い黄緑色のドレスに着替えさせられて、アクアマリンの水色のネックレスをつけられた。
それから編み込みをして後ろに一つに纏められていた髪が解かれると、ウェーブのかかった焦げ茶色の髪が柔らかく広がった。
そして今度はその髪にたくさんの金と銀の小さな髪飾りを使ってアップに纏め直された。
鏡に映った自分の姿にアスティリアは赤面した。何故なら彼女は正しくブリトリアン色に染まっていたからだ。
「なんですか、これは!」
「キャアー、可愛いわ! よく似合っているね。どう、エリスティア、私の見立ては」
「さすがね、イーリス。清楚かつ愛らしくて、上品だわ。ブリトリアン殿下を彷彿とさせる演出にすると聞いても想像がつかなかったけれど、予想した以上に幻想的で華麗だわ」
「そうでしょう? ほら、アスティリアちゃんの顔って元々華やかだから、ドレスはシンプルな方が却って映えると思ったのよね。正解だったわ」
「まあ、いつも贈ってもらっていたドレスもみんな素敵だったから心配してはいなかったけれど、イーリスに任せて本当に良かったわ。なにせ一世一代の大舞台ですものね」
「ガースン様泣くんじゃないの?」
「号泣すると思うわ」
これは一体何なのだとアスティリアは二人に尋ねたかったが、盛り上がっている彼女達にそれを尋ねる間もなく、控室の扉がノックされた。
そこでメイドがその扉を開けると、そこにはタキシード姿のブリトリアンが瞠目したまま立っていたのだった。
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