第37章 仲間内の嫉妬
ギフトチルドレンは皆アスティリアを尊敬していて、これまでもアスティリアをリーダーにして力を合わせて、自分達の周りのことを色々と解決してきた。
そして以前ブリトリアンがこの辺境地に滞在していた時は、彼もその仲間に加わっていた。
最初は自分達の後に付いてくる王太子を邪魔だなと思っていた彼らも、一緒に訓練をしているうちにブリトリアンの真摯な姿を目の当たりにして、彼らの見方も次第に変わっていった。
しかも元々頭の良いブリトリアンは経験値が上がると共に、素晴らしい策士に変貌していった。
そしていつしか彼が事実上のリーダーになっていた。
そんな経緯があったので、彼らは学園に入学してからも、できる範囲でこっそりと王太子の手伝いをしてきたのだった。
「彼らのおかげでオークウット公爵と隣国との不正取引や、反国王派との密約書や裏取引の書類なんかも、入手できたんだよ」
何気なく宰相がこう言うと、ディズベル達は大きなショックを受けた。ブリトリアンが側近の自分達には知らせず、後輩達と既に行動を起こしていたことに。
するとダンがこう言った。
「ブリトリアン様と僕達はもう六年近くの付き合いなんです。
なにせブリトリアン様が辺境地においでになるたびに、共に町へ繰り出してゴミ掃除していましたからね。
こう言っちゃ不敬かも知れませんが、先輩方より付き合いは長いんですよ」
「ダン!」
焦ったようにブリトリアンが声をあげた。ダンのその物言いは角が立つ。
彼にとって先日正式に任命された側近三人は、家臣としても友人としても大切な存在で、信頼している者達なのだから。
もちろんアスティリアのギフトチルドレンもそうなのだが。
するとそこにすぐさま救いの手が入った。
「おい、余計なことを言うなよ」
ショーンはダンを少し睨んでから、申し訳なさそうな顔をして先輩に向かってこう話した。
「殿下が僕達に仕事を回したのは、単に僕らの経験値が高くて、裏社会に詳しいからですよ。
『蛇の道は蛇』と言うではないですか。殿下は適材適所で人を使うのが上手いですからね。
それに先輩方に僕達のことを伝えなかったのは、俺達が秘密にして欲しいとお願いしたからなんです。
生徒会のメンバーの方々と知り合いだとわかると、目立ってまずいことになるので。
たたでさえ、平民が高位貴族の方々と親密になると嫌がらせをされるのに、人気ある生徒会の役員さんと顔なじみにでもなったら。
まあ。アスティリア様は俺達の領主様のご令嬢なので、そこは問題はないんですけどね」
「いくら役に立つからって、ショーン達のことを欲しがっても駄目ですよ。
私達は学園を卒業したら地元の辺境地に戻って、閣下にお仕えするんですからね!
もし、ショーンを私達から奪ったら、この王城だけに大雨降らせて水浸しにしてやるからね、おじさん!」
ショーンの恋人のアンが宰相を睨みつけたので、その場にいた大人達が喫驚した。
いくら世間知らずの田舎娘だとしても、あの冷徹冷淡顔の宰相を睨みつけるなんて。しかもおじさん呼び……
「確かに君達はとても使える人材だからできれば欲しいよ。
しかし、君達を絶対に勧誘しないという誓約魔法を、王妃殿下とホーズボルト辺境伯夫人の間で結んであるので心配ないよ。
君達の野生味ある力はここより辺境地でこそ有効に使われるだろうしね」
宰相は顔色一つ変えずにこう応じた。
しかしさすがにカチンときたのか、珍しく多少の皮肉が含まれていたが。
そんなギフトチルドレンを見ていたディズベルは、以前アスティリアに言われた言葉を思い出した。
「一つの特化した素晴らしい能力を持つ人。バランスはよいけれどそのどれもが平均的な能力を持つ人。
そのどちらの人が上かなんて、考えるだけ馬鹿らしいと思いませんか?
だってそもそも人の持つ能力なんて、皆それぞれ違っているから役に立つのですから。
大切なことは、その力を適材適所でいかにうまく使えるかですよね?」
『アスティリア嬢はブリトリアン殿下同様に、個人の能力を見極めて、それを上手に使いこなせる力を持っているのだな』
とディズベルは思った。彼女は正しく軍師。そして国を統べるべき人物。
もしかしたら、それが彼女のギフトなのかも知れないと。
実際は彼女の本当のギフトは人の心が読めるというものであり、軍師としての能力は、父親譲りというか育った環境のせいなのだが。
宰相の言葉に、動物使いのエリーがニッコリ笑った。そして、
「それを聞いて安心しました。
ところで、どうしてアスティリア様はここにいないのですか?」
と尋ねると、ブリトリアンがその凛とした顔を少し申し訳無さそうにしてこう答えた。
「僕達が五人も同時に抜けたら、生徒会の仕事が捗らなくて困るだろう?
だから、アスティリアには学園に残ってもらっているんだ」
「つまりアスティリア様が、一人で五人分の仕事をするんですか?」
エリーとアンが驚くと、宰相が相変わらず無表情なまま平然とこう言った。
「まあ、アスティリア嬢ならそれくらい可能でしょう。
それにそれくらいの仕事をこなせないようでは、将来王宮の仕事は無理ですから、将来のいい訓練になるのではないかね」
「城の官吏の仕事ってそんなに鬼畜なの?」
その場にいたアスティリアのギフトチルドレン全員がこう叫ぶと、オースティンも真顔で、
「父の冗談ですよ」
と言った。そしてすぐにディズベルもこう説明した。
「オースティンの弟と僕の妹が新しく生徒会に入ったので、まあなんとかなると思いますよ」
と。それを聞いた一年生六人組は少し安堵した。
父親と兄の威を借るオースティンの弟はともかく、ディズベルの妹のマリエルは、女子の中ではアスティリアに次ぐ成績の優秀な人物だ。
しかも公女様だというのに、庶民を見下すこともなく、心優しい人柄だ。
それ故に、ディズベルとの因縁があったにもかかわらず、アスティリアとマリエルは入学早々から、とても親しい関係になっていたのだった。
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