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第32章 闇のお妃教育

 ほとんどアスティリアが一人で語っている章です。




(アスティリア視点)

 

「確かに私は、ただの真っ正直な人間ではトップには立てないと、生意気なことを言いました。

 でも、今の貴方は昔とは違いますよね? 人の裏と表を見極められていますよね? ですから、十分国王になる資格があると思います」

 

 私がこう言うと、ブリトリアン様は眉間にシワを寄せてこう言った。

 

「そのことじゃない。僕の血筋の話だ」

 

「血筋ですか? それならなおさら国王として何の問題もないじゃないですか。

 現在王位継承権を持つ方々の中で、金銀メッシュヘアーとオッドアイという王家特有の特徴を両方お持ちなのはブリトリアン様お一人だけですよ?」

 

「そんな外見の話じゃない」

 

「でも、外見だけではなく、ご性格も能力も国王として文句無しで人望もおありになるのに、一体何が問題なのですか?」

 

「わかっていてさっきからわざと言っているだろう! 私の産みの母のことを言っているのだ」

 

 ブリトリアン様が怒りながらも声を潜めてこう言った。しかし私ははてな!?という風に小首を傾げてやった。

 嫌われ悪女モードに突入してやるわ。

 

「女の腹は借り物と言うじゃないですか。王族だって貴族だってこれまで家を存続させるためには、裏では色々な誤魔化しをしてきたのですよ。

 正妻に子供ができないなんてことはざらにあるのですから、綺麗事ばかりいっていたら家は潰れてしまいますよ。

 側妃や愛人に産ませた子を正妻が産んだ子にして後継者にするなんてよくあることだそうですよ。

 そもそもこの国の過去の王様の中には、侍女やメイド、家臣の妻から生まれたお子様だった方もいらっしゃるそうですよ」

 

「まさかそんなこと。百年ほど前までは妻や愛人を制限なく持てていただろう?」

 

「今でも出産は命がけですが、昔はもっと母子ともに死亡率が高かったそうですよ。

 そして無事に生まれてきてからも流行り病などで早世されるお子様は多かったといいます。

 その上や政略争いや敵国から送られてきた刺客のために、闇に葬られた命もたくさんあったそうですし。

 これは出鱈目な話でも、私の創作でもありません。お妃教育を受けた母から教わったのですから」

 

 ブリトリアン様は喫驚し、無言のまま私を見ていた。

 

「本来王家の暗部を既に教え込まれていた母は、王太子殿下に婚約破棄されてしまえば毒杯を賜るか、一生貴族牢で過ごさねばならなかったそうです。

 しかしそのことは代々王妃から王太子妃へ語り継がれることであり、王族の男性陣の知るところではありませんでした。

 それ故に母は翌日牢から出され、城からも追い払われたのです。

 周りにいた方々は母を気の毒に思ったことでしょうが、母にとってはとても幸いなことでした。

 しかし王妃殿下が帰国されたら、捕まって投獄されてしまうことは明らかでした。

 ですから辺境伯である父との縁談は、母にとってはむしろとてもありがたい話だったのです。

 できるだけ遠い地へ逃げたかったのですから。

とはいえ、実の両親からの廃籍は予想外だったそうです。親の愛情など感じたことはなかったそうですが、そこまで無情だとは思ってもみなかったと。

 平民になってしまっては辺境伯との縁は諦めるしかないと母はその時点では考えたそうです。

 しかしどうせ遠くに逃げなければならなかったので、辺境伯に一度挨拶をしてから隣国へ向かおうと思ったようです。

 まあ、そこで二人は互いに一目ぼれして、結婚に至ったことはご存じの通りだと思います。

 奇跡的に母は、大いなる軍事力を持つ辺境伯の夫人になれたことで命拾いができたたわけです。

 たとえ王家であっても辺境伯家には手が出せませんもの。

 元々母が犯罪を犯したわけではないし、かと言って今さら婚約破棄を破棄して、元の鞘に戻すというわけにもいかなかったでしょうから。

 それに人徳のあった母は、貴族だけでなく平民にも味方が多かったようですしね。

 母はたまたま王妃殿下がお留守だったので命拾いしたのだそうです。

 もっとも王太子殿下は国王ご夫妻がいない時を狙って婚約破棄をされたのですから、それは当然だったのかもしれませんが。

 それでも母は王太子殿下に感謝しているそうですよ。

 王都から追い払ってくれたこと、実の両親との縁を切ってくれたこと、それに父と巡り合うきっかけをくれたことにも」

 

 ブリトリアン様には私の言葉が嫌味に聞こえたかもしれない。酷いことを言っている自覚はあった。

 誰よりも大切で守りたいと思っているブリトリアン様を苦しめ、貶めていることで、私は言いようのない絶望感というか焦燥感に襲われた。それでも私は言葉を続けた。


 そう。この場ではっきりと嫌われた方が後悔しなくて済むと思ったのだ。

 女官になって側にいたいなんて、未練がましいことを口にした自分が悪いのだから。

 

「ブリトリアン様が誰の腹から生まれたのかなんてことは、今さら王家の長い歴史の上では些細な事なのです。王家の血に間違いはないのですから。

 ブリトリアン様は立派な国王になれますし、その資格があります。ですから、貴方に相応しい女性を娶って、立派な跡継ぎをお作りになって下さい。

 私は辺境の地で少しでもこの国の平和に役に立つように、微力ながらお手伝いをさせて頂こうと想います」

 

 私は涙を必死に堪えてこう言い放ったのだった。




 アリスティリアの母が娘に闇のお妃教育の話をすることができたのは、当然彼女がまだ魔法契約を結んでいなかったからです。

 魔法契約は成人にならないと結べず、エリスティアは卒業式の数日後に契約を結ぶ予定になっていました。

 まあ、たとえ魔法契約を結んでいても、婚約破棄をされていれば毒杯か牢獄行きだったのですから、本当に理不尽な話です。

 エリスティアは本当に危機一髪でした。

 元々べらべらと話すつもりはありませんでしたが、話しては駄目だという圧がなくなっただけで、結婚後ストレスが減ったエリスディアでした。


読んで下さってありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王家の闇あるある~!! 数百年たってイギリス王室の仮腹が判明したこともありますし、ねぇ…。 欧州はともかく、アジアは割とだれの子供でも本家の養子にしたら実子と同じ、本妻が育てたら全部一緒~…
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