第29章 生徒会室でのやり取り
(アスティリア視点)
まさかブリトリアン様がディズベル=オークウット公爵令息とオースティン=ベンティガ伯爵令息を引き連れて生徒会の勧誘にやってくるとは思わなかった。
女子は勧誘されたことがないと聞いていたし、そもそも彼らは私とは距離を取って知らぬ振りをすると思っていたからだ。
オースティン様は宰相ノーマン=ベンティガ伯爵のご子息だ。父親譲りの黒髪緑眼で理知的な青年だった。
勧誘の説明もほぼ彼一人がしていた。まあ、殿下と公子様は私に話しかけ辛いから黙っていたのだろうが。
何故わざわざ人前で話しかけてきたのかと思ったら、オースティン様は本気で我が国の男女差別をなくそうと思っていることがわかった。
そしてブリトリアン様とディズベル様は私に邪な思いを抱く男子生徒から、私を守りたいと思っていることがわかった。
同じ生徒会メンバーとしてなら、堂々と側で守ることができると考えているみたいだった。
守るってなによ!と一瞬ムッときたものの、殿下ができるだけ私の側にいたいという心の声が聞こえてきたので無下にはできなくなった。
考えてみれば、ブリトリアン様は学園を卒業したら成人王族として公務に励むことになり、逢うのも容易ではなくなるだろう。
ただでさえ私達の家は因縁があるのだから。それならせめてこの一年だけでも彼の側にいたいなと私も思った。
それにそもそもブリトリアン様やディズベル様達が卒業するまでのあと十か月間、彼らと知らぬ存ぜぬを貫くのも正直面倒だと思ったので、結局私は素直に了承した。
そして、それは正解だったわ。
優秀な人材が集まっている王立学園の中でも、特にえり抜きばかりで構成された生徒会のメンバーとの活動はとても有意義だった。
そしてそんな彼らから別の優秀な人材を紹介されて、人の輪が段々と広がっていくことはとても楽しかった。
クラスの友人達からは、あんな素敵な貴公子ばかりに囲まれて羨ましいと言われた。
何でも二級上の殿下達の学年は稀に見る優秀な人物の当たり年なのだそうで、周りから羨望の目で見られているらしい。
まあ、私から言わせてもらえば、生徒会のメンバーはともかく、彼らのお仲間は優秀な人材の集まりというより、単なる変わり者の集団としか思えない。
そしてそんな彼らが自由に出入りしている生徒会室は、まさしく珍獣の溜り場って感じだと思った。
確かに一芸には優れているが、その分他のところの能力が足りない、バランスの悪い人達としか思えなかったのだ。
もちろんそんな彼らを否定するわけではないが、たとえ一芸に秀でていなくてもバランスがいい人達と比べると、トータルすれば双方大した違いはないのではないかと思った。
そして一番凄い人物とは、そんな彼らを適材適所で上手く使っている生徒会長だと私は思う。これは決して惚れた欲目などではなく。
そういえば、生徒会に入って一月くらい経った頃、スペシャルな同級生に対して少し卑屈になっているように見えたディズベル様に、何気なくこう話しかけたことがあった。
「あの方達は確かに色々と素晴らしい発想で思いもよらないアイディアを出して下さるので、本当に助かリますよね。
でも、それをどうやって実現するのかそのプロセスまでは配慮して下さらないのが困りものですよね。ただこちらに丸投げするだけなのですから。
彼らがどんなに素晴らしいアイディアを出しても、それをどうやって実現させていくかを統括的に判断して計画を立てられるディズベル様のような方がいないと、結局宝の持ち腐れですよね」
と。すると彼は一瞬驚いた顔をしてから、まるで目から鱗が落ちたようにすっきりした顔をした。
そしてその後彼は何故か自信に溢れた明るい表情をするようになったのだった。
そんなことがあった一月後。ブリトリアン様と私、それからオースティン様は、ディズベル様から思いがけない告白をされた。
まあ思いがけないと言っても、二年以上も前から私が知っている内容ではあったのだが……
そう。オークウット公爵のクーデター計画の話だ。
もちろんうちはオークウット公爵家との縁談を断っているし、今後もその話を受ける気もないのでその計画はとうの昔に頓挫していると思っていたのだけれど。
ディズベル様がまだ私を思ってくれていることは分かっている。しかしどうやら告白する気は失せたらしい。
ブリトリアン様の携帯している護衛用の剣が我が家の贈った物だと勘付いて、殿下と私が既に内々で婚約していると思い込んでいるみたいだった。
確かに殿下は私を思ってくれているみたいだし、私も殿下が好きだ。
しかし私達が婚約するなんてあり得ない。たとえ王家が許可しようとも。
私がブリトリアン様に一目惚れをしていて、それが自分の初恋なのだと気付いたのは、殿下が辺境地での鍛錬に初参加して、怪我をして太腿から血を流しているのを見た時だった。本当に鈍すぎるわ。
訓練で怪我人が出るなんて日常茶飯事のことだったのに、ブリトリアン様が怪我をして気を失っている姿を目にした私はパニックを起こした。
そして、お父様や副団長の向こう脛を思い切り蹴り上げていた。
いくら混乱していたとはいえ、まさか対戦相手のギフト仲間の男の子を怒るわけにはいかなかったから。
それにしても、向こう脛が男の人のとっての二番目の弱点だったなんて後で知ったわ。この国最強と呼ばれている巨漢二人がのた打ち回っていたのだからそれは本当だったみたい。
あの時私は、ブリトリアン様が大好きで大切な人なのだと気付いたのだ。
そして死なないでと、止める周りの人達を無視して殿下の体を揺さぶっていたら、殿下がパチリと目を開けて、泣きながらあの宣言をしたのよね。
「今の僕はまるで赤子のように自分では何もできない情けない奴です。年下の子にいともあっさりと気絶させられるなんて。
でも、毎日訓練して、絶対にここで一番強い人間になってみせる。どんなに時間がかかったとしても」
あれにはお父様を始めとする辺境騎士団の人達だけでなく、私もグッときて、微力ながらも殿下のために協力したいと思ったのよね。
そしてそれ以降ずっと殿下を叱咤激励してきたわ。
本当はもっと可愛らしく優しく応援したかったけれど、どうせ実らない恋だもの。あえて甘い雰囲気にならないようにしたわ。
私はただ殿下にとって役に立つ友人ポジションを得ようとした。
彼に利益をもたらす友人だと周りから評価を得られれば、互いに結婚しても家族同士で長いお付き合いができると思ったの。
切ないわぁ。
もっともそのうち殿下も私のことを思ってくれていることがわかったけれど。そして私と同じことを考えているって。
陛下とお母様のことを考えると、絶対に私達は結ばれることはないって。たとえ王家が許可しようとも。
それなのに父親の計画を告白したディズベル様は、オースティン様と共に、私達にとんでもない提案をしてきたのだった。
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