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第27章 贈り物 2


(ブリトリアン王太子視点)


 辺境地にいる時、僕はいつも辺境伯の三姉弟と共に過ごしていた。

 アスティリアはエリスティア夫人同様に面倒見が良くて姉御肌だった。

 初めて逢った時からどちらが年上なのかわからなかったが、それはその後何年経っても変わらなかった。

 やはり一人っ子の自分と違って弟や従弟や騎士団の子供達の世話をしてきたからだろうか。

 

 僕は世話になっているお礼だと言って、彼女の誕生日や、お祝い事がある度に贈り物をした。

 僕は王都にいる時は城の外へ出ることはなかった。それ故に、贈り物は辺境伯へ行く行程で立ち寄る地方の店で、珍しいものや彼女が好きそうな品を探して選んだ。

 本当はかわいいドレスやネックレス、そして指輪を贈りたかったが、婚約者でもないのにそんなものを選ぶ訳にはいかなかった。

 そこでいつもは可愛らしい小物などを買っていた。オルゴールや手鏡やポーチなどを。


 しかし、アスティリアの十三歳の誕生日が近付いてきたある日、辺境の地へ向かう途中で、僕は鉱山で有名なとある町に立ち寄った。

 その時、たまたまあるジュエリーショップのウィンドーに飾られてあった髪飾りに目が入った。

 オレンジ色の花が三つ横並びになっていて、とても華やかで愛らしかった。

 そして焦げ茶色の髪によく似合うと直感的に感じた。だから僕は躊躇うこともなくそれを購入した。アスティリアの誕生日の贈り物にしようと。

 

 ドレスやネックレス、そして指輪……それらを贈るのはマナーというかモラル違反だろうが、髪飾りなら問題ないに違いない、無理矢理にそう正当化した。僕達は名前呼びを許し合った仲なのだからと。

 

 箱を開けた時、アスティリアは目を見開き、一瞬僕に返しそうな仕草をしたので、僕はすぐさまこう言った。

 

「ここへ来る途中の街でたまたま見つけたんだ。その髪飾りを見つけた瞬間にアスティリアの顔が浮かんでね、凄く似合うと思ったんだ。君のために作られたんだって感じたんだ。

(このオレンジの花の飾りを着けたら、チョコレート色のアスティリアのキレイな髪に絶対に似合う、すっごく可愛いい)

 だから、その髪飾りのためにも是非受取ってもらいたい」

 

 アスティリアは瞠目した後、頬を染めながら箱を胸元で抱き締めて、

 

「ありがとうございます。とても嬉しいです。大切にしますね」

 

 と言って僕のプレゼントを受け入れてくれたので、僕は嬉しくて舞い上がりそうになった。

 その後、僕が辺境伯家を訪れる度に、オレンジの花の髪飾りを着けてくれていた。

 

「あの髪飾りは姉様のお気に入りなんですよ。でもとても大切にしているから、特別な時にしか着けないのです。

 それにしても殿下ってセンスがありますよね。姉様によく似合っていますよ」

 

 アスティリアのすぐ下の弟クリストフが僕の知らないことを教えてくれた。


「センスなんてないよ。本当に見た瞬間に君の姉上に似合うと思っただけなのだから。

 アクセサリーなんかを贈ったら、婚約者に申し訳ないとは思ったのだけれどね」

 

「婚約者? 殿下は何を言っているのですか? 姉様には婚約者なんていないですよ」

 

 クリストフが本当に驚いたようにこう言ったので、僕の方こそ驚いた。

 確かに辺境伯家に通い出して三年ほど経っていたが、ディズベル=オークウット公爵令息のことが話の話題に上がったことは一度もなった。

 もちろん鉢合わせしたことも。

 だけど、以前は何度も婚約したいという申請書類を出していたじゃないか。

 それを国王である父上が全て却下していたわけだが、それが国王の思い込みだとわかって、今後は二度とそんなことはしないと両家に告げたはずだ。

 だからアスティリアとオークウット公爵令息はとうの昔に婚約を結んでいると思っていたのだ。

 

「ディズベル様はこの三年間一度もここへは来ていませんよ。プレゼントはたまに送ってきますが、それはいつも王都の有名な菓子店のもので、しかも半分以上腐っていて食べられませんでしたよ。

 菓子が腐るほどここは辺境なんだという嫌味ですかね? 普通五日以上かかる場所へ食べ物を送りますか? せめて瓶詰めか乾物にしてくれればいいのに。

 というより、なんで令嬢に対する贈り物に食べ物ばかり選ぶのですかね?

 馬鹿にしているとしか言えませんよ。そんな女性を蔑ろにする男性となんて婚約するわけがないじゃないですか。

 ですから、姉上はフリーなので、殿下は何も気にせずに、好きな物を贈って下さって結構ですよ。

 もちろん贈り物を要求しているわけではないので、その辺は誤解しないでください。

 姉様も贅沢品は好みませんから」

 

「ああ、わかっているよ」

 

 思いも寄らない事実を知った僕は舞い上がりそうになった。

 しかし、それを悟られないように気を引き締めながら、素晴らしい情報をくれたクリストフに自分の持っていた万年筆を贈ると、彼は酷く恐縮しながらも嬉しそうに笑った。

 

 それ以降、僕はクリストフからアスティリアの情報を色々と得られるようになり、彼女の好みや趣味に合わせた贈り物ができるようになり、喜んでもらえるようになった。

 

 それにしても、オークウット公爵令息はアスティリアのことをどう考えているのだろう。せっかく婚約者になれる資格があったのに、それを放棄するだなんて。僕には到底信じられないことだった。

 そして、四年も彼女を放置していたくせに、彼は学園に入学する直前にアスティリアに婚約を申し込んで振られたと知って絶句した。えっ? 今さらどうしてと。

 しかも断られたにもかかわらず、彼がその後もアスティリアとやり直したがっていると聞いて、怒りを通り越して心底呆れた。

 学園入学後に優秀な成績をとり、アスティリアに相応しい人間になれたら、もう一度告白できる資格を与えて欲しいだなんて、なんて自分勝手なのだろう。

 彼の頑張りはあくまでも彼自身のためだろう。それは彼女にはなんの関係もない。非常に腹が立った。


 しかし、入学後にディズベルがトップテンに入ることはなかった。僕達の学年は例年になく非常に優秀な人間が多かったからだ。

 とはいえ、彼は諦めずにそれ以後も頑張っていたし、総合力でいえばかなり優秀だった。それは認めざるを得なかった。

 それにアスティリアを諦めろと責め立てて、彼がやけになってやる気をなくしては勿体ないとも思った。せっかく彼は頑張っているのだから。

 だから、僕はディズベルに対して何かを言うつもりなどなかった。

 ただ、同級生達と初恋の話で盛り上がった時、ディズベルもアスティリアの話を語った後で、彼女とやり直したいと言ったので、僕は初めて彼に自分の考えを告げた。

 

「僕は姉や妹もいないので、女性の心理はよくわからない。それに僕自身も初恋の人を諦められないでいるのだから、みんなのようにディズベル君に諦めた方がいいとは言えない。

 だけど、相手のために自分は頑張っているという考えは止めた方がいいと思う。

 だって相手が君にそうして欲しいと望んでいるわけじゃないのだから。あくまでも君がその初恋の相手に振り向いて欲しくて頑張っているだけなのだろう?

 僕も初恋の女性に相応しくありたいと思って日々努力しているけど、それは結局自分の為にしていることだと自覚しているよ。

 だから、最終的に彼女に選ばれなくても僕の努力が無駄になることはないと思っている」

 

 と。

 それは僕の本音だった。

 ディズベルは仰天していた。そしてその後、何か思うことがあったのか、彼は何故か吹っ切れた表情をするようになった。

 

 元々ディズベルとは生徒会で一緒に仕事をする仲だったが、その後、何故かやたら彼に懐かれるようになったのだった。


 読んで下さってありがとうございました!

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