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第18章 心を読む方法


(アスティリア視点)


『こんな野蛮な辺境伯の娘に、王都一お洒落な店の帽子を贈るだなんて、母上も無駄なお金を使うよな。似合うわけがないじゃないか。

 こんな田舎者には、ちょっと珍しいお菓子でもあげておけば大喜びするのにさ。

 父上も母上もどうかしている。こんな下品な田舎者が公爵夫人になれるわけがないじゃないか。

 というか王家の血を引く高貴で優秀なこの僕と、平民みたいに農作業や鶏のせわなんかをする令嬢なんかが釣り合うわけがないじゃないか。自分でいうのもなんだが月とスッポンだろう?』



 エッ! なに? こんな下品な田舎者なんて、公爵夫人にはなれないですって! 冗談じゃないわ。誰が公爵夫人になりたいって言ったのよ! 

 確かにオークウット公爵夫人のことは好きだけど、ディズベル様の奥さんになりたいなんて考えたことは一度もないわ。昔は大切な幼なじみだと思っていたけれど、近頃は顔も見たくないくらいに嫌いになっていたし。

 釣り合わないですって! それはこっちのセリフよ。騎士団長の息子のくせに剣の修練もまともにやらない、怠け者の意気地なしなんて。大体二つも年下の女の子に勝ちを譲れなんて言う男が私に相応しいわけがないじゃない。死んでもお断りよ。

 

 思わずそう叫びそうになったけれど、そこをグッと堪えたわ。

 私はそれまではディズベル様のことは親類みたいに思っていたから地を出していただけだ。だけど公の場では、もうちゃんと感情を抑えることも、作った微笑みを浮かべることもできるのよ。

 何せ私は、お母様から直接にスパルタ教育を施されていたのだから。

 

 生まれて初めてのギフトの発動で、ディズベル様の本性を見てしまい、かなりのショックを受けた私だったけれど、それでも無表情を貫けたわ。まあ笑顔を作るのは無理だったので、後でお母様に叱られたけれど、自分で自分を褒めてやりたいわ。

 

 

 そうそう。

 オークウット公爵様親子を含めたあの私の十歳の誕生パーティーでは、もうディズベル様とは口もききたくなかったので、お父様に甘える振りをして、今朝礼拝堂で聞いた新たに仲間になった子達の悩みについて相談をした。

 

 緑を育てるギフトを授かって、緑の手の持ち主になったベンのお父さんが、酒乱で毎晩のように彼のお母さんを殴るということ。

 雨降りのギフト持ちになったアンのお姉さんが、冒険者の男に付き纏われて怖がっていること。

 

 するとそれを聞いたお父様は、すぐに対処するから心配はいらないよと約束してくれた。

 見かけは厳つい熊のような風貌だけれど、フェミニストのお父様は女性を辛い目に遭わせる男には容赦しないのだ。

 

 

 私の十歳の誕生日は、悲喜こもごも本当に色々なことがあって、とても印象深いものになったのだ。

 

 

 ✽✽✽

 

 

 そしてあれから四年振りにディズベル=オークウット公爵令息がやって来たのだ。

 私にとってディズベル様は懐かしい幼なじみどころか、既にいけ好かない知人に過ぎなかった。

 婚約だなんて、そんな馬鹿馬鹿しい話もあったなあと思えるくらいに。そして陛下にその話を却下してもらえて本当に良かったと、私は陛下に深く感謝しているのだ。

 今度改めて陛下にお礼の手紙を書こうかなんて考えていたら、またディズベル様の二種類の言葉が少しズレて聞こえてきた。

 

「ア、アスティリア嬢、ずいぶんと綺麗になったね」

 

『まさかこんなに綺麗になっているとは思わなかった。こんなことなら、もっと早くここに来れば良かったな』

 

「今度王都の僕の屋敷においでよ。そして一緒に街を回ろうよ。今流行りの芝居を見たり、人気の雑貨屋をのぞいたり、美味しいもの食べたり、おしゃれなカフェへ行ったり。こっちにはない素敵な場所がいっぱいあるから」

 

『四年前のアスティリアのままだったら、絶対に彼女は公爵夫人になんてなれないと思っていた。だから婚約破棄ができないのなら、学園の入学前に彼女をうちへ呼び寄せて、厳しく躾け直そうと思っていたのだが、もうその必要はなくなったな。

 だけど僕の方がこのど田舎まで来るのは面倒だから、やっぱり彼女を呼び寄せた方が楽だよな。それに今の彼女なら、僕の婚約者として連れ回しても恥ずかしくないしね』

 

 

 私を躾けるために公爵家に呼び寄せるつもりだった?

 親類でも婚約者でないのに、なに勝手なことを考えているのよ。何様のつもり?

 それに私を連れ回すって、私をアクセサリーの一部とでも思っているのかしら。腹が立つわ。

 

「それにしてもそのワンピース、とても素敵だね。どこで購入したんだい? それ、今王都で流行っている店の服だよね」

 

『何故こんな僻地に住んでいるくせに、王都で人気の店の服をなんて着られるんだ? どうやって手に入れたんだろう。

 そういや髪飾りもブローチもかなり洒落(しゃれ)ているよな。あれ、絶対に王都の品だろう』

 

「君の着ているワンピース、とっても素敵だね。よく似合っている。どこで買い求めたんだい?」

 

『ようやく言葉が一つになった。疲れたわ。同時に同じ二つの声を聴き分けて内容を把握するのは本当に大変。至難の業よ。しかも、今回は心の声を聞くために、大嫌いなディズベル様の目を見続けなければならなかったし』


 私は四年前に人の心を読めるギフトを女神様から授かった。しかし当然全ての人の心が同時に読めるわけではない。もしそんなことができたら情報過多で頭も心も壊れてしまうわ。

 試行錯誤の結果、人の心を聞くためにはその相手の目を、最初に三十秒以上見つめ続けなければならいことが分かった。たかが三十秒、されど三十秒。瞬きもしないで三十秒見続けるのは結構きついし、涙目になってしまうこともある。そしてこの見つめるという行為がとても危険なのだ。


「お嬢様、心を読むときは気を付けて下さいね。うるうるした涙目で見つめたら、相手が好意を持たれていると勘違いしますからね。特に男性の場合は年齢に関係ないなく要注意ですよ。お嬢様はお顔が整い過ぎて大人びて見えますからね」


 ギフトを授かったばかりの頃、変なおじさんにストーカーをされた私は、事件解決後に牧師様にこう言われてゾッとした。

 確かにそのおじさんは私に誘惑されたと喚いていたわ。当時十歳だった私が、どうしてお父様よりずっと年上のおじさんに好意を持っているだなんて、そんな馬鹿な勘違いをしたのかそれが不思議だった。しかし、それは私のうるうる涙目のせいだったのか。


 そもそも何故私がそのおじさんを見つめていたのかというと、レストランの隣の席に座っていたそのおじさんが連れていた女の子が、酷く怯えているように見えたから。本当はその子の心の声を知りたかったのだが、彼女はずっと俯いていたために目を合わせられなかったのだ。

 ところがおじさんの心の声は私には意味不明だった。ただただ気持ち悪かっただけだった。だから、結局わたしはそのおじさんのことを人には上手く説明することができず、何もできなかった。


 しかし結局私のストーカー行為で捕まり取り調べを受けた結果、そのおじさんは特殊な性癖を持つ変態で、しかも人身売買を斡旋する悪党だったことがわかった。そしてそのまま逮捕され、多くの子供たちが解放された。子供達が無事助かったことにホッとするも、自分も危険な状況だったことを知ってゾッとした。

 その上私があんな変態おじさんに好意を持っていると誤解されていたのかと思うと、腹立たしくて気持ちが悪かった。

 だからそれ以降人の心を読むときは最善の注意をしたわ。

 そう。私は嫌いな人や嫌われてもいいと思う男の人の心を読む時は、眉間を寄せて睨み付けるように相手の目を見ることにしたのだ。もちろん心の中を読んで問題なしと判断した場合は、ちゃんと謝罪をしたり言い訳をしてごまかしてはいるけれど。



 そして今回の四年振りのディズベル様の再会。当然私は彼に嫌われてもいいと思っている。というより私が好意を持っていると絶対に勘違いされたくはない。

 だから私はずっと彼らに塩対応をしていた。アルカイックスマイルを浮かべ、冷めた目でディズベル様達を見つめていた。そして彼らの心の声を聞いていたのだった。

 




 読んで下さってありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 騎士団長の息子なのに剣の訓練もせず、頭の中は王都の流行ばかり。 これが後継者でいいのか、公爵。 しっかり者の嫁をもらって実務はそちらに任せる目論見なのでしょうか。 [一言] 片方の承諾…
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