第14章 上に立つ者
(アスティリア視点)
『自然豊かなホーズボルト辺境地で気分転換しませんか?』
と私が手紙を出したら、一週間後にそれに応じたいという返事が届いた。
『監禁される! 復讐される!』
私からの手紙に当然陛下は大反対したらしい。
『このまま王宮に居たら、ブリトリアンは永久に貴方と目を合わせてはくれませんよ。それでもいいのですか?
ブリトリアンはアスティリア嬢の言う通り、一度王宮を出て心身をリハビリしなければなりません。
とは言え、王太子の身の安全を考えると、どこでもいいわけではありません。
ガースン=ホーズボルト閣下と辺境騎士団ならば、命を賭しても王太子を守ってくれるでしょう』
『王太子がいると知られて帝国が攻め入ってきたらどうする?』
『今、帝国との関係はガースン=ホーズボルト辺境伯夫妻のおかげで良好です。それにブリトリアンは当然隠密で行かせます。
陛下がブリトリアンとこのままの関係で構わないのでしたら、私はこれ以上何も言いませんけれど』
どうやら王妃殿下のこの一言で陛下の許可は下りたたらしい。
それにしても、この辺境の地まで、馬車だと途中で休み休みしながら通常五日はかかる。
まだ体力がもどらない王太子殿下には辛いだろうと、少しだけ体を整えておいて欲しいと手紙に書いたら、予想外のことが起きた。
なんと王太子殿下がやたらハッスルして体を鍛え始めたらしい。
しかもノーマン様に指導してもらっているという。間もなくこの国の宰相様になる方に?どうしてまた?
えっ、ブリトリアン殿下って、幼い頃からノーマン様に憧れていた? そりゃあそうだよね。ノーマン様ってパーフェクトだもの。
私のお父様とオークウット公爵様と国王陛下の良いところだけプラスしたみたいな?
文武両道のイケメン痩せマッチョ。冷静沈着で正義感溢れていて超真面目。
欠点をいえば完璧過ぎて、人から妬まれやすいこと? 嫌だよね、男の嫉妬。女より醜いよ。
特に私は人の感情が見える特殊能力があるから、そういう後ろ向きで、人を引きずり落とそうとする汚らわしい感情見ると吐き気を催すのよね。だから、ノーマン様とお会いする時はできるだけ他人がいない所にしている。
それにしても、ブリトリアン殿下って、ノーマン様みたいな完璧な人間を目指しているのか。まあそうか、将来の国王だものね。
でも国王になるのなら、ノーマン様の教えだけじゃ、駄目なような気がするわ。
だって、清濁併せ呑むような人間でないと最終決定を出すトップにはなっていけないと、辺境騎士団の副団長さんが言っていたもの。
でもあまりにも抽象的過ぎてよく分からなかったから、わたしはこう聞いてみたの。
「それって、お父様みたいな人?」
って。そうしたら副団長さんは少し困った顔で小さくこう呟いていたわ。
「団長というより、参謀閣下ですかね?」
聞こえましたよ。私は目だけじゃなくて耳もいいんですからね。
参謀閣下ってお母様の通称ですよね。辺境騎士団の言わば隠語。彼らは誰もお母様を夫人とか奥様とは呼ばない。
そりゃそうよね。屋敷の奥なんかで大人しくしていないもの。
なるほど。お母様って、さすが王妃に望まれただけあるわね。
おそらく王妃になっていたら、今の王妃殿下のように駄目夫である国王の尻を叩いて、国政を進めていたのだろう。
王宮で感じたように二人は似たタイプなのでしょう。見た感じは大分ちがうけど。
でも、さすがに王妃殿下がブリトリアン殿下に清濁の濁の方を教えるわけにはいかないわよね。
ここは一つお母様が教えるべきじゃないかな? 国王陛下では無理そうだし。
いや、免疫がない王太子殿下に、いきなりお母様が本性を丸出して指導したら衝撃が大き過ぎるかしらん?
とすると、お母様のミニ版の私の出番かな?
まあ、本来一度しか会ったことのない王太子殿下のことを私がそこまで心配する必要はない。婚約もお断りしたし。
だけどあの金銀メッシュの髪にオッドアイを持つ、まるで地上に誤って落ちてきた天使みたいな殿下を見た時、あまりにも儚げに揺らめいていて、何故か守ってあげなくちゃと思ってしまった。
殿下は私より二つ年上で知識量も半端ない。おそらくかなり頭のいい人なのだろうと、話をしていて思った。
でもそれに精神と体力が伴っていない。一歩間違えたらどうしようもない暗闇に落ちてしまいそうで、何故か私は不安になったのだ。
弟が二人いる私は完全にお節介なオカン気質。騎士団の団員の子供達の面倒もみているし。
だから、王太子殿下も弟みたいに思えて心配になってしまうのだろうと私は思った。
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