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第13章 王妃からの手紙  

 ヒロインの親世代の話が複雑過ぎるせいか、着地点が見えにくいという感想を頂きました。

 書いていて作者も困惑……テンプレてんこ盛りにした結果ですかね。

 この話、親世代は色々残念な人達が多いのですが、彼らと比べると、子供達は皆飛び抜けた才能を持っていながらも、思考はいたってマトモで、普通に青春、恋愛していきます。つまり純愛物語になります。

 そして親世代が反省……というオチとなります。

 今後も引き続き読んで頂けると嬉しいです!


 (アスティリア視点)

 

 王都から戻って十日後、ノーマン様経由で王妃殿下から私宛に手紙が届いた。

 

「お母様、王妃殿下からお手紙を頂きました」

 

 そう言って私はお母様に王妃様からの手紙を見せた。

 

 高貴な薄い青紫色の封筒だ。この色を出すのはとても難しいらしく、余程高貴な身分の方でないとこのレターセットは入手できないらしい。

 いつもキョウチクトウの桃色の花のスタンプが押されているので、名前が記載されていなくても差出人は一目瞭然。


「お印が押してあったらたとえお名前がなくても、妃殿下のものだと疑われてしまうのではないですか? いくらノーマン様経由だとしても」


 この前、ずっと感じていた疑問をお母様に尋ねた。するとお母様は昔届いたお茶会の招待状(国王陛下が勝手に出したもの)を私に見せてこう言った。


「イーリス王妃殿下のお印は青い薔薇よ。妃殿下のイメージでしょう? 清楚で可憐でお淑やか、それでいて気品があって。

 でも普段の彼女は本性を隠しているでしょう? 妃殿下はご自分の素顔をご存じの方だけに、このキョウチクトウの花のスタンプを押しているのよ」


「ああ、そういうことですか。確かに妃殿下のイメージは青系ですが、ご性格はどちらかというと暖色系ですものね。言われてみれば桃色の可愛らしいこのお花は妃殿下によく似ていますね」


 私がこう言うとお母様は眉間を少し寄せて微笑んだ。これはお母様が『残念ちゃん』の私を見る時の顔だ。どうやら私の推測は外れていたようだ。


 しかし外れていて当然だと思ったわ。キョウチクトウに強い毒性があるなんて知らなかったもの。

 花、葉、枝、根、果実、全ての部位に毒があって、しかも葉っぱを腐葉土にしても、枝を燃やしても毒を出す植物だなんて。

 旅行先でキョウチクトウの花を見たことはあったけれど、あれは湿地帯に生えている植物で、乾燥気味なホーズボルトでは馴染みがないんだもの。


「自分を苦しめたり、追い出したり、殺したりした者は、たとえ死んでも絶対に許さない。彼女はこのスタンプでそれを表明しているのよ」


 怖い、怖すぎる。王妃殿下もキョウチクトウも。


 お母様は時々私を『残念ちゃん』と呼ぶが、私は『残念ちゃん』で結構だ。これから先も絶対にお母様達のようにはなれないし、なりたくもないもの。お母様を溺愛しているお父様には申し訳ないけれど。


 この前王妃殿下とお母様から、国王陛下にこれ以上係わりたくなかったら悪女になれと言われた。そこで自分なりに奮闘したとは思うのだが、結局悪役に徹することはできなかった。

 だって私にはわかったんだもの。このまま私が悪女を演じ切ったら、王太子殿下は壊れてしまうって。お母様が国王陛下との関係を断ち切りたいのはよくわかるけど、私と今の王太子殿下には全く関係ないことだわ。あの時殿下に言ったことは自分にも当てはまることだったのだ。


 甘いといくらなじられようと、私は王太子殿下を闇落ちなどさせたくはなかった。生意気だけど、王妃殿下だけでは殿下をこちら側に留まらせることはできないと、直感的に感じたのだ。

 王族だろうが貴族だろうが平民だろうが、強くないと生き抜けない社会なんておかしいじゃない。


 お節介なんてその場しのぎにしかならいっていつもお母様に叱られるけれど、その場をしのげたら、違う展開が開けるかもしれないじゃない。

 その未来は誰にも否定できはしないわ。お母様だってそうだったでしょ?と言ってやりたい。まあ怖いので言わないけれど、決して言いなりになるつもりはないのだ。

 私は『残念ちゃん』を貫くわ。



 王妃殿下からの手紙の内容は、まあ予想通りだった。

 真実を知ったブリトリアン王太子は一時部屋に引きこもってしまったらしい。そりゃあそうだろう。

 

 大人だった王太子(現国王陛下)だって、魅了を解くのに一年弱かかり、その後真実を知って、再び意識を飛ばした。

 そしてそこからようやく正常に戻ったのはその二年後で、ブリトリアン殿下が既に片言を喋り始めていたという。

 そう簡単に立ち直れるわけがない……と思っていたのだが。

 

 手紙を読み続けてみると、意外なことに、ブリトリアン王太子の引きこもりは一週間程だったという。

 もちろん未だに元気がなくて、父親の国王とはまだ顔を合わせられない状態のままだそうだが。まあ、それは仕方ないよね。陛下にはお気の毒だが。

 

 お母様の過去の経緯を聞いた時、私は国王陛下が大嫌いになって、いつか大きなざまぁをしてやりたいと思った。でも私がそう思っても当然よね。


『簡単に人を信じるな! 世の中を斜に構えて見ろ! 男に頼らずとも一人で生きていけるようにしろ!』

 

 まともな貴族のご婦人が、自分の子供にこんなことを普通言う? しかもその一方で正統な淑女教育を施しながらよ?

 自分は夫に愛し愛されて幸せなくせになんてことを教えるのだと、その矛盾にずっと悩んでいた。今回お母様の過去を知ってようやく納得できたけど。

 これまでドラマチックな人生を生きてきたお母様からすると、子供には平凡な幸せを掴んでもらいたいと思いつつも、世の中いつ何が起きるかわからないから、その心構えを早くからしておけと言いたかったのでしょう。

 特にここは帝国との国境にある辺境の地で、いつ何が起こるかわからないから。

 それでもやっぱりやり過ぎだと思う。そしてお母様がこんな考えをするようになったのは、国王陛下のせい。だから私が国王陛下を憎んだって仕方ないでしょ?


 しかし実際に会ってあの落ち込んでいる陛下の様子を見たら、なんとなく可哀想になってしまった。 

 十年一昔というし、もう十二年も経っているのだからもう嫌わなくてもいいか、なんて。

 お母様も溜まったものを私のおかげで発散できて清々したと言っていたし。

 私も大概お人好しだ。と言うか、まあ、陛下のことはこの際どうでもいい。


 取りあえず、王太子殿下は危険状態からは脱したというわけね。良かったわ。

 引きこもりも終わったということだし、いつものお節介を発動しましょう。

 私は王妃殿下の手紙を読んで、この前から考えていた()()()()()()()をお母様とお父様にすることにしたのだった。


 読んで下さってありがとうございました!

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