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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第四章 中央大陸編
97/137

97 作戦開始

 アグロスが語った話。

 それを聞き、トモヤ達は大いに驚愕することとなった。

 自分の理解が間違えていないかどうか確かめるためにも、その内容を繰り返す。


「つまりまとめると、この先にあるデッケっていう町に魔族の集団が襲撃してきて、女子供のみを捕え残りの男達を町の外に追いやる。そして彼女達を返してほしければ、他に代わりとなる者を連れてこい、と。そう言っていたのか」

「……ああ、その通りだ。奴らが何を目的としているのかまでは分からんが、女子供だけを捕えているのだ。“最悪の事態”も想定しておくべきだろう……その中には私の娘や、ここにいる者たちの家族も含まれているのだ」

「なるほど、な」


 今度こそ、完全に理解できた。

 アグロス達がトモヤ達を襲った理由。それは身代わりとしての価値を、リーネ達に見出したからだろう。

 その作戦が成功すれば、リーネ達がどんなことになるのかを分かった上で。


「ふー」


 当然、そのような行いを許すことはできない。

 トモヤにとって大切な人を傷付けようとした者に、慈悲をかけてやる筋合いなど一欠けらとて存在しない。


 けれど。


「……トモヤ」


 ぎゅっと、小さな両手が、トモヤの右手を包む。

 見ると、そこには不安気な表情でトモヤを見上げるルナリアの姿があった。


「ルナ」


 分かっていると。

 そう伝えるために、空いた左手でゆっくりとその頭を撫でる。

 はじめから分かっていたことだ。この少女が願うことなど。


 だから。


「んじゃ、行くか」

「……は?」


 決意し告げた言葉を、しかしアグロスは理解できないとばかりに首を傾げた。


「いや、だからデッケにだよ。もともと俺達が目指してたのもその町だからな」

「それは、つまり?」

「助けてやる」


 振り返り、小さく笑うリーネ、シア、そして最後にルナリアを見た後に、もう一度トモヤは告げた。


「乗り掛かった舟だ。お前達はともかく、そこに捕われた人々に罪はない」


 そして何より、ルナリアの期待を裏切ることなどできるはずがない、だから。


「俺達が、お前達の家族を助けてやる。だから、より詳細な情報を教えろ。お前達の処遇に関して考えるのはその後だ」


 しばらくの静寂。

 だが、トモヤの発言の意図を理解できた瞬間、アグロス達は再び頭を下げ、


「感謝する! 本当に、ありがとう……!」


 揃って、礼を告げるのだった。



 ◇◆◇



「トモヤ、ありがとっ」

「いきなりどうしたんだ、ルナ」


 デッケに向かう途中。

 御者台でトモヤに横に座るルナリアが、小さく微笑みながらそう呟いた。

 ルナリアから礼を言われる特別な理由などないように感じたトモヤは、その訳を彼女に尋ねる。

 すると、ルナリアは優しい笑顔をトモヤに向ける。


「えっとね、うれしかったんだよ。トモヤが、みんなをたすけるって言ってくれて」

「……そうか」

「うん!」


 頷き、身を寄せてくるルナリアの頭を撫でながら、トモヤはそっと後ろに振り返った。

 アグロス達は、急遽付け足した荷台の中に無理やり詰め込んでいる。

 圧倒的実力差をその身で理解した以上、余計なことはしないと思う。

 そもそも彼らが、トモヤ達に助けを求めた側なのだから。


 ラピドゥスは進む。

 車輪が大地の上を周り鳴らす音を耳にしながら、これからの行動について、間違えのないように深く思考する。


 魔族の集団――総勢20余名に侵略されたというデッケまでは、あと少しだ。

 アグロス曰く、その魔族たちは非常に強力な存在だとか。

 なんでも、魔族が侵略した際に、アグロスを含めた数百人が防衛に向かったらしいが、その際には誰一人討伐することはできず、全員が敗北し……中には死者も出たらしい。


 その後、アグロス達は降伏するも女子供を人質に取られ、返してほしければ代わりの者を連れてこいと言われた。

 人口密度の低い中央大陸で、そんな者を見つけられる可能性は低い。

 そこで残された者達は数十の集団に分かれ、汚名を背負って生きていくことを覚悟し、行動を開始したのだとか……その集団の中の一つが、アグロス達だったという訳だ。

 その話を聞いた後、トモヤは他の集団の特徴を聞き千里眼で現在の居場所を突き止め、念話を用いることによって作戦を中断するように命じた。

 トモヤ達が捕らわれた者たちを救い出すと決めた以上、意味のない罪を背負ってほしくなかったからだ。

 最初は疑問に思ったらしい彼らも、アグロスから教えてもらった単語を告げると、納得した様に引き下がった。

 幸いなことに、他の者達はまだ誰とも遭遇できていなかったらしい。


 さあ、これで退路は断たれた。

 ここでトモヤ達の作戦が失敗すれば、彼らから全てが失われることになる。

 そうはさせない。


 そう誓い、ラピドゥスを進めること30分弱。

 トモヤ達は、デッケから一キロ離れた地点にまで辿り着いた。


 さあ、始まりだ。

 心の中でそう呟くと、数分前から既に準備を終えていたリーネとシアの姿を確認し、行動を開始する。


「索敵、千里眼――発動」


 敵の包囲網などに気付かれないように意識しながら、スキルを用いデッケの全体を確かめる。

 町は円形で、そう大きくはない。

 シンシア達と共に過ごしたルガールと比べても、面積は半分以下だ。

 ただ、異常なのはその町にほとんど人がいないことだった。


 いるのは、恐らくはデッケを占領したという魔族の集団の者達だけ。

 防壁もない町の外周に、東西南北に一人ずつの魔族が立っていた。

 彼らはきっと見張りだろう。一度は町から出ていったアグロス達が助けに戻ってこないように注意しているのだ。

 小さいとはいえ、町とは呼べるだけの機能を持つ場所をたった四人で。

 それだけ、彼らの自信が窺える。


 では、20余名いるという残りはどこに。

 そう思いスキルの使用範囲を広げていく。

 数日前の応戦の際に破壊されたであろう建物や道路が続く中、ようやく見つけた。

 そこは、教会にも似た、町の中で一際目立つ巨大な建物。

 その建物の周囲には10名弱の魔族が建っている。

 スキルの範囲を建物の中にも及ばせる。

 するとそこには、800名ほどの女子供が所狭しと集められ、自分達のいる状況を恐れ過ぎたが故か、奇妙な程に騒ぐこともなく静寂を貫いていた。

 さらに、そんな彼女達を見張る十名程の魔族が存在していた。


 トモヤはそこで一旦スキルの使用を止めると、既に準備を終えているリーネとシアに情報を伝える。


「町の人々は、町の中心にある教会に集められている。敵の魔族のうち、十名が教会の中で見張り、さらに十名が教会の外で見張り、最後に四名が町の外周を見張っている」

「なるほど、守りは鉄壁ということか」

「ここから、私が狙う?」

「……そうだな」


 シアの提案は、一見魅力的に思えた。

 確かにシアとトモヤが協力して兆越秘射を使えば、ここからでも十分討伐は可能だろう。

 さすがに今回ばかりは、殺害を恐れる訳にもいかない。

 最悪、ルナリアの目だけは汚さずに済むのなら、その方法も考えようとおもう。


 しかし――


「いや、やっぱりそれは止めておこう。今、俺が考えた作戦でいこうと思うんだが、それでいいか?」

「トモヤがそう言うのなら、それで構わない」

「信じてくれてありがとう、シア」

「惚れた?」

「……すこし?」

「やった」

「ごほん、トモヤ、シア、今はふざける場合じゃないと思うのだが」

「「はい」」


 リーネからの注意を受け、改めて作戦内容を彼女達に告げる。

 それを了承した二人はこくりと頷いた。

 ルナリアとアグロス達に関しては、防壁のスキルだけを使用しこの場に残していく。

 もしものことがないよう、常に千里眼は併用しておくため危険はないだろう。


「よし、それじゃあ始めるか」


 そして、トモヤは最後の合図を告げる。


「作戦内容は、魔族の集団に捕われた人々の救出及び、敵勢力の殲滅――こちらの姿を発見されるまでに、片をつける!」

「ああ!」

「うん」


 そして、トモヤ、リーネ、シアは同時に行動を開始した。


(……勘違いじゃなかったらいいんだが)


 そんな中、トモヤは胸中で不安に思う。

 先ほど、シアの提案を否定した理由。

 それは、さきほど千里眼で教会の様子を窺った時に感じた違和感についてだった。


 それが勘違いであったらよいと、そう願いながら、駆けた。

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◇『ステータス・オール∞』3巻の表紙です。
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