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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第四章 中央大陸編
93/137

93 羞恥

「さあ、できたぞ」


 待つこと十数分、ハングリーバードを幾つかの部位に分けてガンガンと焼いたものが皿に乗って運ばれてくる。何とも豪快な一品。これがリーネの作る料理なのだ。

 味付けも塩コショウなどと言った簡単な調味料のみ。

 色々と勇気はいるが、とりあえずは実食だ。


「いただきます」


 言って、トモヤはさっそく幾つかに切り分けられたうちの一つに手を伸ばす。

 ほんの少し黒色に焦げた跡があるが、この程度なら問題ない。口に含む。

 歯が皮に触れると、カリッという音が響き、じゅぅっと脂が口の中に飛び込んでくる。

 そのままぷりっと柔らかな肉を歯で裂き、何度も噛み締めるとその度にシンプルながらも十分な旨味が口いっぱいに広がる。


 今日の火加減は最適だったようだ。


「よし、うまい」

「そうか、それはよかった。しかし何故よし、なんだ?」

「リーネ、作ってくれてありがとな」

「う、うむ、どういたしましてだ……それで何故、よし」


 リーネの調理法は何かと大胆なため、焼き過ぎや生焼けの時がよくある。

 焼き過ぎの際は表面が黒焦げになっているため分かりやすいが、生焼けかどうかは食ってみなくては分からないのだ。

 その点、今日のはなかなかいい塩梅だった。用意したパンとも合う。


 トモヤ達はそのまま、満足いく食事を終えるのだった。


「ふー、食った食った。のど乾いたな」


 ゆったりとくつろぎながらトモヤがそう零すと、シアが反応する。


「そう言うと思ってた。はい、どうぞ」


 言って、シアは既に飲み物の入った四人分のカップを差し出してくる。


「ありがとう、シア――マテ」

「むっ」


 そのカップを受け取りいざ飲もうとした時、トモヤの第六感が反応した。

 “ああ、今回はそのパターンだ”と。


 その証拠に、トモヤのカップに入った飲み物の色と、他の三人の色が違う。

 彼女達のは紅茶が入っているため茶色だが、トモヤのだけは何故か群青色に濁っていた。

 動きを止めたトモヤに対し、シアは気まずそうな表情で明後日の視線を向けていた。


「シア、これはなんだ?」

「……お茶」

「群青色のか?」

「うん、そう」

「へー、そうなのか」


 シアがそういう以上、それは真実なのだろう。

 仲間を疑う訳にもいかない。

 だから決して疑う訳ではないのだが、トモヤはお茶に鑑定を使用してみた。


【アロンティー(睡眠薬入り)】


「睡眠薬入ってるんだけど……」


 それを聞いたシアはふぅと溜め息を吐いた後、真面目な顔でトモヤを見て一言。


「バレたなら、仕方ない。それは私が入れた」

「だろうな」

「驚かない、の?」

「うん、そりゃな……」


 驚かないのにも理由がある。

 何故なら……


「だってもう、これで十回目だし……」


 つまりはそういうことだった。

 トモヤはずっと、シアを勘違いしていた。

 この少女、思っていた以上に恋愛ごとに対して……間違った方向に積極的だったのだ。


 その積極性の結果の一つが、この睡眠薬だ。


「で、なんでこんなことしたんだ?」

「トモヤが寝てる間に、私を好きになってもらえるように、色々としようかな」

「その色々の中身が非常に気になるがその前に、よくそれを張本人の前で言えたな」

「我慢、してるだけ。本当は恥ずかしい。私、恥ずかしがり屋だから」

「そもそも恥ずかしがり屋はそんなことしないからな!?」


 耐え切れず、思わず全力でツッコんでしまう。

 だってそうだろう、どこの世界に相手を睡眠薬で眠らせて、その間に色仕掛けだかなんだかをしようとする恥ずかしがり屋がいるというのだ!


 確かに、シアは以前言っていた。

 例えトモヤがリーネに対して好意を抱いていようと、関係ない。

 それでもシアを好きになってもらえるように努力すると。

 しかし、これはさすがに努力の方向性が間違えているとしか思えなかった。


 テントがトモヤとルナリア、リーネとシアの組み合わせになったのもそうだ。

 一度トモヤとシアが同じテントで眠ることになった時、とんでもないことをしてきたのだ。

 忘れたくても忘れられない衝撃的な思い出。

 その出来事は結果としてリーネ達にもバレ、それ以来俺とシアは同じテントで眠らないことになった。

 加えてリーネがシアを監視するため、今の形に落ち着いたのである。


 それ以来、トモヤが夜に眠っている時にシアが仕掛けてくることはなくなった。

 その代わりに始まったのが、この睡眠薬作戦である。

 最初はそんなことを始めたシアを見て、リーネも顔を赤くして怒っていたのだが。


「ルナ、あの二人は気にせず私達は食事を進めよう。そうだ、果物も出そうか」

「うん、食べたい!」


 シアの常習犯っぷり、そして一度も成功せずに失敗し続けるのを見続けたせいか、今となってはこの有り様である。

 まるでトモヤとシアのやりとりが背景かのようだ。


 そもそもシアには悪いが、前提から間違っているのだ。

 トモヤの体は自分を危機に追いやる睡眠薬すら拒絶する。

 そうなる以上、睡眠薬の効果はなく、シアもそれを理解しているはずだ。

 それなのにどうして、ここまでこの作戦を続けるのか。

 考えるうちに、トモヤは一つの考えに至った。


 トモヤが睡眠薬を拒絶する以上、その効き目は表れない。ならもし効き目が表れた時、それは睡眠薬……ひいてはシアを拒絶しないことに繋がる。

 彼女は恥ずかしがり屋だ。

 直接トモヤに自分のことをどう思っているのか尋ねるのが恥ずかしく、回りくどくトモヤの気持ちを確かめようとしてるのであれば、それはそれで可愛いのではないのだろうか。


 まあ、睡眠薬を使っている時点で可愛いも何もないが。


 ちなみに睡眠薬の提供者はシア曰く、フラーゼだったりする。

 今度文句を言おう。

 そう、トモヤは一人心の中で呟くのだった。

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