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91 それぞれの想い


 ◇◆◇


 ――――それが、あの日にあったことの全てだ。


 あの後、町に戻ったトモヤはリーネ達に、シアが旅の仲間になりたいと言っていることを伝えた。

 予想通り、リーネとルナリアはその提案に快く賛同してくれた。

 どちらかと言えば、問題はメルリィや次に世界樹の守り人になる者達の方にあったのだが、そっちに関してはシアが何とか説得することができたらしい。

 ちなみに、シアの両親であるオーラルとメーアは反対するどころか、トモヤに対して娘をよろしくお願いしますと頭を下げてきた。

 ……あの出来事があった以上、無下にする訳にもいかず、なんだか微妙な返答になったことを覚えている。


 何故、リーネとルナリアについての話をしたすぐ後の今になって、あの日のことを思い出しているのか。

 その原因は、きっと分かっている。

 ルナリアの心にあと一歩踏み出せないのも、シアの告白に即答できなかったのも……そもそもトモヤがまだリーネに想いを伝えられていない理由も、全てはその一点に帰結する。


 ずっと目を逸らし続けていることがある。

 それを解決しないことには、トモヤの心を縛り付ける鎖がとけることはない。


「……戻るか」


 立ち上がり、踵を返す。

 いま考えても答えが出ないことに、時間をかけても仕方がない。

 だから、トモヤはただ彼女達のもとに戻ると決めた。



 その現実と向き合わなければならない時がすぐ近くに迫っていることを、この時のトモヤはまだ知る由はなかった。



 ◇◆◇



 場所は代わり、フレアロード王国の王城、玉座の間。

 玉座には国王フレッドが深く腰掛けており、その横には鎧に身を包む側近と、一冊の本を持つ宰相が佇んでいる。

 後ろには、豪奢なドレスを着た女王も立っている。


 そして何より、玉座の前には、片膝をつけて頭を下げる“四名の若者”がいた。


「汝らをここに呼び出してから早くも100日を過ぎ、ようやくこの時がきた」


 フレッドは玉座から立ち上がり、力強く叫ぶ。


「数多の迷宮を攻略し、武器を手に入れ、力を得た汝らになら任せられる! 魔王討伐の悲願、見事果たしてみせよ!」


 そして、


「ええ、必ず。僕達が成し遂げて見せます」


 四人の若者のうち、美しい茶髪を持つ男性――九重優ここのえゆうは静かに応えた。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 九重優 18歳 男 レベル:100

 職業:勇者

 攻撃:1000000

 防御:1000000

 敏捷:1000000

 魔力:1000000

 魔攻:1000000

 魔防:1000000

 スキル:言語理解・全属性魔法Lv15・剣術Lv15・魔力操作Lv15・魔力回復Lv15・自動治癒Lv15・神器適正Lv10・英雄化Lv10


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


(……夢前)


 ユウはその態勢のまま、心の中だけで呟く。


(“今度こそ”、僕が――――)


 その願いを。



 一度は違えてしまった二人の道が、再び交わる日は近い。



 ◇◆◇



「やはり、こうなってしまうのかい」


 再び場所は代わり神界。真っ白な空間に唯一存在する椅子に腰掛け、主神エルトラは目の前に浮かぶ二つの映像を眺めていた。


 そこに映る二人の青年の考えを知ってしまえば、思わずそう呟かずにはいられなかった。


 この世に運命など存在しない。

 世界を統べるエルトラがそう告げる以上、それは絶対の理だ。

 だけどそれでも世界とは不思議なもので、起こるはずないと思っていた事象ほど、呆気なく現実になってしまうものなのだ。


 こうなってしまった以上、もうエルトラに止める術はない。

 未来を見届けるしかできない。

 だからこそ、せめてもと願う。


 どんな結末に至ろうとも。

 きっと君達にとって、救いあるものになってほしいと――――

NEXT 『第四章 中央大陸編』

トモヤ&ルナリア編

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