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85 激闘のにらめっこ

神界の章は後回しということで、一つ。


【注意】今話の取り扱いについて。

・一人称になっています。

・メタ発言があります。

それでも構わないという方だけお進みください。

 この世界は嫌いだ。

 いつだって思い通りに事は回らない。

 何気ない幸せを、不条理が容易く俺から奪っていく。


「ふざけるなよ……」


 喉から低く怒りに包まれた声が漏れる。

 それは誰にともなく呟いた言葉だったのだが、目の前にいる少女は目ざとく反応する。


「ふざけてるのはそっち。私は悪くない。意味不明な自分ルールを押し付けたのは、トモヤの方」

「……なんだと?」


 透き通るセルリアンブルーの髪に深い蒼眸を持つシアは、冷たく俺を睨み付けるだけ。

 俺とシアの視線が交わされ、お互いに納得のいかない感情をぶつけ合う。


 そして。


「トモヤ、シア。もう、はじめてもいいの?」


 そんな俺達の横で、様子を窺うようなルナの姿があった。


「いいよ」

「おーけー」


 ルナの言葉に、俺達は同時に頷く。


「えへへ、それじゃ、にらめっこかいしだよっ!」


 かくして。

 選手:トモヤVSシア

 審判:ルナリア

 第一回にらめっこ対戦が行われることとなった。


 何故このような状況になったのか。

 まずはそこからご覧ください。



 ◇◆◇



 それは、ルーラースライムを討伐してから数日後のことである。

 昼食時、エトランジュ家の食卓には俺、シア、メルリィ、ルナの四人がいた。

 シアの両親は仕事関係で外に出ており、リーネは日課である修練に行っている。どうやらフラーゼはリーネについていっているようだった。


「皆様、できましたよ。お姉さまのリクエストで、今日のメイン料理はサイコロステーキです」

「「「わーい」」」


 そういってメルリィが運んできた大皿の上には、美味しそうなサイコロステーキが大量に乗っていた。

 続けて彼女はパン、スープ、サラダを持ってくる。

 ちなみに俺が料理や配膳を手伝わないのは、メルリィがそれらを自分の仕事だと言い張ったためである。

 ホントホント、オレ、ウソツカナイ。


 何はともあれ、メルリィが座るのを待ってから、四人で同時に。


「「「いただきます」」」


 既にお馴染みとなったそんな言葉を口にして、俺達は食事を開始した。

 なんか声が一人分少なかった気がするが気のせいだ。

 それにしてもシアさん、もう口の中がサイコロステーキでいっぱいになってるんだけどなんでかな、俺にはよくわかんないや。

 君はいっぱい食べるフレンズなんだね!


 まあ、いい。

 まずはメインであるサイコロステーキを一口。

 すると、ジューシーな肉汁と芳醇な旨味が口の中いっぱいに広がってくる。

 うん、美味い。


「美味い」

「本当ですか、ありがとうございます、お兄さま。ルナリア様やお姉さまはどうですか?」

「おいしいよ!」

「もぐもぐ……ごくん。美味しい。それといただきます」

「言うタイミング……」


 テキトーにつっこんでから、ふと気付く。


「ルナ、口元にソースがついてるぞ」

「ほんとっ? とって、トモヤ!」

「……む」


 言って、ルナは目を閉じながら、んーと口元を前に出す。

 あまりの可愛らしさに吐血しそうになるが、必死に耐えながら創造で生み出したハンカチで拭ってやる。


「んっ、ありがと、トモヤ!」

「どういたしまして」


 さあ、食事に戻ろう。


 それにしても本当に美味い。

 ただ、俺は美味しい物を最後に食うタイプなのだ。

 まずはサラダやスープを食し、また食べるとしよう。


 そう、この時俺がこう考えてしまったのが、悲劇の始まりだった。



「おい待てこらシア」

「もぐもぐ……ひゃに?」

「口の中の物を呑み込んでから話しなさい」

「ごくん。分かった」

「って違う」


 うっかり行儀の注意だけで終わりそうになったが、本題はそこじゃない。


「お前、一人でどんだけ食ってるんだ」


 俺達の前に置かれた大皿の上には、既にサイコロステーキが数個しか残っていなかった。

 まだ俺、数個しか食べてないんだけど。

 決して大食いなわけではないけれど、これだけじゃ全然食い足りない。


 なんて考えている間も、ほいほいとシアはサイコロステーキを口の中に放り込んでいく。


「ステイ」


 最後の一つにフォークを伸ばそうとしたところで、俺はなんとかシアの腕を捕まえる。


「ふざけるなよ。それは俺のだ、てかこれまで食った俺の分も返して」

「むり。そもそも一人何個だとか、そんなルールはなかった」

「いや、普通は他の人の分まで残しとくもんだろ」

「は?」

「あぁん?」


 俺とシアはガンを飛ばし合いお互いの考えを主張する。

 しかしどれだけの時間が経とうと、俺もシアも引くことはない。


「いいだろう、残り一つを賭けて勝負だ、シア」

「望む、ところっ!」


 こんな風にして、俺とシアの決闘が火蓋を切った。


「二人とも、けんかはめっ、だよ!」

「違う、ルナ。これは喧嘩じゃない。男と男の勝負だ」

「その通り。これは男と男の……ん?」

「ならしょうがないねっ!」

「というわけで審判を頼む」

「りょうかいだよっ!」

「少し待って。何かおかしいところが、あった気が――まあ、いっか」



 ◇◆◇



 という訳である。

 そういう深い事情があるんだ。

 分かってくれ。


 そんな風にして勝負が始まった。


 ルールは簡単。相手を笑わせればいい。

 通常と違う部分に関しては、言葉も有りという点くらいか。

 言葉なしだと描写が難しいから仕方ない。


 そして開始してから数十秒、俺とシアは睨み合うばかりで当然どちらとも笑う気配はない。


 仕方ない、先手は俺だ。

 シアだけでなく他の二人にも見られた状況なのが恥ずかしいが、早速勝負を仕掛ける。


 残像、という現象がある。

 本来は光などの強い刺激を見た後、光が消えてもその光景が暫く見え続けることを指す。

 しかし創作物などでは、あまりに早く動くために人間の姿などがその場に残っているかのように見えるという意味もあるのだ。


 俺はその現象を利用する。

 人が笑うのは、予想していなかったシュールな光景が突如として目の前に現れた時!

 超人的な身体能力と、残像という現象を利用すればそれは可能となる。

 ――――攻撃ステータス一千万、からのッ!


「千手観音」


 自分でもちょっと理解できないくらいの速度で両手を動かす!

 そしてその結果! まるで俺の背には数十数百の腕が生えたかのような光景が浮かび――――


 ビリっ。


「あっ」


 その動きに耐えられなかったのか俺の上着が爆散し、見事に上半身裸となった。


「ぶはっ!」


 しかし名誉の負傷というべきか。

 服が破けたことが新たなシュールさを生み出したらしい。

 俺は見事笑わせることに成功した――――


「お、お兄さま!? 突然なんて格好になってるんですか!?」


 ――――観客であるメルリィを。

 笑っちゃうのお前なのかよ。


 メルリィ、脱落!


 メルリィはショックのあまりか、立ち上がり去っていった。


「ふえっ?」

「ふむ、ふむ」


 ちなみにルナは何が起きているのか分からないといった様子で首を傾げ、シアは吟味するような視線を向けてきていた。

 えっ、何これ羞恥プレイ?

 まあ何はともあれ、作戦は失敗だ。

 恥を忍んだ一撃が無駄に終わった。

 さあ、次はどんな策で挑も――――


「ッ!」


 瞬間、悪寒が走る。

 殺気にも似た何かが俺に襲い掛かる。

 これはいった――ッ!?


「しまっ」


 そこで俺は悪寒の正体に気付く。

 おもむろに、俺の前でシアの両腕が動き始めているのだ。


 思い出す。

 人が笑うにはシュールさが重要だと俺は考えた。

 だけど通常の傾向として、人は緊張感から解き放たれ安堵した瞬間に笑いやすくなるのだ。

 そして今の俺は、渾身のネタがすべり落ち込みつつも次のネタを考え始め、少しリラックスしている状態――見事に一致する。


(まさか、このタイミングを狙っていたというのか!?)


 シアが後手に回った理由を、俺はようやく理解した。

 まさかコイツがこんな天才だったとは!

 けどもう手遅れだ。

 俺が身構えるよりも早く、シアの攻撃が放たれる!


 そしてシアは両手で自分の顔を挟み込むようにして、唇を突き出しながら言った。


「ひょっとこ」


 まさしくひょっとこだった。


「…………」


 しかし、当の俺はなんとも言えない表情でシアを見つめていた。

 いや、だってこれ、何というか。


「おもしろいっていうか、ただ可愛いだけだぞ」

「てれる」


 率直な俺の感想に、シアは少し顔を赤らめていた。

 美少女が変顔しても、個人的にはそう思う。

 ていうか何で異世界の人間がひょっとこを知ってるんだろう。

 というかそれを言うなら、そもそも千手観音からしてそうか。

 こ、これがメタ空間ということか……!


 閑話休題。

 いや、閑話の章が終わる訳ではないが。


 こうして一度目の攻防が終わる。

 結果として俺とシアはまだ笑っていない。


 というかどうしよう。

 想像以上に低レベルな戦いになっている気がしする。

 俺も裸になっちゃったし、ここは痛み分けにしておくべきだろうか。


「……君達はいったい何をしているんだ」

「とととトモヤさんが裸です! 裸ですよリーネさん!」

「なぜそれを私に言うんだ……」


 すると、聞き慣れた二人の声がする。

 リーネ達が修練から帰ってきたようだ。

 ……うん、そうだ。

 拮抗した状況を変えるための手を思い付いた。


「という訳だリーネ、次の審判はお前だ」

「……なに?」


 審判が変われば空気が変わる。

 つまりはそういうことだ。

 どういうことだ……?


 さあ、気を取り直してラウンド2だ!

 今度こそ、俺はシアに負けてやるものか――


「あっ、リーネ様にフラーゼ様もお帰りになられていたんですね。追加分がそろそろできあがるのでお待ちください」

「――ん?」


 ――と思った矢先、メルリィから気になる言葉が聞こえてくる。

 すると、彼女は大量のサイコロステーキが乗った皿を二枚運んでくる。

 ……ん?


「はい、こちらがリーネ様たちの分、こちらがお姉さま達のお代わりの分ですよ」

「あ、あれぇ?」


 思い返してみれば、そもそもにらめっこが始まった理由はサイコロステーキが足りないことだった。

 メルリィは笑いに耐え切れず席を立ったのだと思っていたが、まさか追加分を作るためだったとは。

 原因を根本から排除しようとするとは、とんだ策士だ。


 まあ、何はともあれ。

 これで無事解決だ。

 もう俺とシアが争う必要はない。


 そう思いながら、俺はシアのいる顔を向け――――


「よし、仲直りだシア。これからは喧嘩せず仲良く食べようじゃな――」

「ひょっとこ」

「ぶふぉっ!」


 ――――ひょっとこになっているシアの顔を見て、思わず噴き出した。


「何が何だか分からないが……シアの勝ちで」

「だねっ!」


 そんな俺を見て、結局二人で審判をしていたリーネとルナが俺の敗北を告げる。

 フラーゼは未だに俺の上半身裸を真剣な表情で眺めている。

 なんだこいつ。


「ふふ、私の勝ち」


 そのままシアは両腕を腰に当て胸(無い)を張ると、優越感に満ちた表情でそう告げた。

 その姿を見て俺は一つの答えに辿り着く。


「シア、お前、まさかはじめから……」

「そう。既に私は、お肉なんてどうでもよかった。というかもうお腹いっぱいだった。私はただトモヤに勝ちたかったから勝負を受けた……ただそれだけ。シアちゃんからは以上です」

「くそッ、やられたッ! 安堵した瞬間を狙うという技を再度使ってくるなんて想像もしていなかった! ああ認めるよ。シア……お前の、勝ちだ」

「トモヤこそ。手強かった。またいつか戦おう」


 認め合った俺達は、固い握手を交わしお互いに認め合った。


 こんな風にして。

 第一回にらめっこ対戦は幕を閉じた。

 第二回があるかなんて知らない。

 ただ、いい戦いだった……!




 FIN

夢前智也先生の次回作にご期待ください。

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