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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第三章 北大陸編
80/137

80 黒幕

「シア、よく聞け。メルリィを助けるのはお前だ。お前じゃないと駄目なんだ」


 トモヤは真剣な眼差しでそう告げると、一本の矢と共に弓をシアに伸ばす。

 その流れのまま受け取ると、手にずっしりとした重みがかかる。

 トモヤが創造のスキルで簡単に創り上げたその弓は不思議とシアの手によく馴染む。

 その事実に加えて、先ほど彼が弓術のスキルを使用してブラストスライムを倒したことを思い出し、シアの中に言いようも知れぬ感情が浮かび上がってきた。


「……どうして」


 ぎゅっと弓を握り締めながら、シアは静かに零す。


「どうして、私にそんなこと、言うの……? 貴方が、貴方が助ければいい! メルリィも、皆も!」


 一度口に出してしまえば、後は自然と漏れ出すばかりだった。


「私が何年もかけて信頼を築き上げてきた武器と同じ物を簡単に創り上げて! 私とは比べ物にならない程の弓術のスキルも持っていて! そんな貴方なら、メルリィ達を助けるなんて簡単! そのはず!」

「…………」

「――ずっと、馬鹿にしていたの?」


 思い出したのは、ここ数日の勝負についてだった。

 今だからこそ分かる。トモヤの本当の実力なら、たかだか5000メートル離れた場所にある的を射抜くのなんて容易いはずだ。

 けれど彼が的を射抜くことができたのはたったの一回だけだった。


「私に勝負を仕掛けてきて、なのに本気は出さなくて……ずっと貴方は、心の中で私を笑っていた。そうでしょ?」

「違う、そうじゃない」

「何が違うの……? だってそれ以外に、理由なんて何もないは――」

「俺はただ、お前のことをもっとよく知りたかっただけだ」

「――え?」


 一瞬、何を言われたのか全く分からなかった。

 そんなことお構いなしにとトモヤは続ける。


「本当は初めから知ってたんだ。お前が何でミューテーションスキルを――いや、弓術のスキルすらも使わないのか。メルリィから、初めて出会った日の夜に聞いていた」

「…………」

「だから俺も弓術のスキルを使わず、ステータスもお前と同じ数値に変動させ勝負を挑んだ。それは決してお前を馬鹿にしたかったからじゃない。お前と同じ条件で勝負することによって、お前の覚悟の強さと……そしてこれまでの努力を知りたかったからだ」

「……そんな」


 そんなことを言われてしまっては、自分が何を言うべきなのか分からなかった。

 トモヤの言葉が嘘でないことは目と声から分かる。

 けれど、だとするなら彼は、何故そこまでしてまでシアのことを知ろうとしたのだろうか。


「いつの日だったか、俺は言ったはずだ。俺がどれだけ強力なステータスを持っていようと、それだけでは叶えられないことはきっとあって。お前だってそうだったんだろ。空間飛射という強力なスキルを持ちながら大きな失敗をして、後悔をして――それでも努力し続けたんだろ? そしてその成果を俺は見てきた。お前ならきっと、いや必ず、俺にはできないことを成し遂げられるはずだ」

「――――」


 空間飛射を使わなくなってから。

 一切のスキルを使わず、自分の身一つで弓を引き続けた。

 最初は失敗してばかりで、それでも頑張り続けて。

 そうして今日までやってきた。


「だからこそもう一度だけ言う――シア、メルリィを助けるのはお前だ、お前じゃなければ駄目なんだ。三年前の失敗を乗り越えるために、努力し続けたんだろ? その全てはこの瞬間のためにあったんじゃないのか?」


 その頑張りの末に辿り着いた場所がここなのだと、そうトモヤは告げる。


「…………」


 ああ、きっとその通りだ。

 もう二度と間違えないように、ただそれだけを考えてここまで来たのだ。

 今ここで過去を乗り越えなければ、その全てが無駄になる。


 ぎゅっと弓を力強く握り締める。

 周りの注目を浴びる中、構える。

 狙うはブラストスライムの中にある赤色の核。

 それを射抜くことだけに集中しなければならないこの状況で、しかしシアの視界の端に今もまだ苦しむメルリィの姿が映った。

 時間がない。早く助けなければならない。


「……怖い」


 それは分かっている。なのにどうしてもそれ以上先に進めなかった。

 あの日の光景が脳裏にフラッシュバックする。

 それだけじゃない。たった数分前にアレより小さなブラストスライムにだって自分は立ち向かうことができなかった。


「怖いよ」


 本当に自分は成長したのだろうか。

 メルリィを助ける力を持っているのだろうか。

 そんな不安が浮かび上がった瞬間、弓を握る手は震えだし狙いは定まらなくなって――


「大丈夫だ」


 ――その手を握ってくれる人がいた。


 シアの左手の上に、そっとトモヤの右手が添えられる。

 気が付けば彼の顔はすぐ傍にあって、自信に満ちた表情でシアを見つめていた。


「シア、お前ならできる」

「……けど、もしまた失敗したら」

「その時は俺が全部まとめて何とかしてやる。だから大丈夫だ」

「……なに、それ」


 自分でできないからシアに任せると言ったり。

 そのくせもしもの時は自分でどうにかしてみせると宣言したり。

 一貫性のない言葉。その場しのぎで言っているとしか思えない。


(なのに、不思議)


 心の中から、今まで抱いていた不安が消えていく。

 トモヤの言葉を信じてしいる自分がいる。

 理由は分からない。けど、きっとそれでいいんだと思えた。


 だから挑む。

 今度こそ間違えないように。

 メルリィを助けるために。

 そして、トモヤの期待に応えるために――


(――座標、固定)


 ――射抜く。


「――――空間飛射」


 瞬間、目標に大きな動きがあった。

 ブラストスライムの内部が激しく流動し、その影響によって核の場所が大きく移動する。

 それだけではない、何の因果か先ほどまで核のあった場所にメルリィの体が流れていく。

 けれど、もう空間飛射の発動を止めることはできない。

 このままでは間違えてメルリィを射抜いてしまうどころか、核を破壊することすらできず爆発を引き起こしてしまうことすら有り得る。


(大丈夫)


 そんな状況にあって、シアは動揺することはなかった。

 どれだけ風が吹こうと雨が振ろうと、一日すら修練を怠ることはなかった。

 どんな状況であろうと一切のスキルを使用することなく的を射抜き続けた。


 その日々に比べたら。

 核の流れを見抜くことなど容易い――


「――――矢射」


 ――故に、シアは迷うことなくそのまま矢を放った。

 その刹那、矢はその場から消える。

 空間飛射の能力によって矢は空間そのものを超越し、そして。


 今度こそ、ブラストスライムの核のみを貫いた。


「やっ……」


 消滅していくブラストスライムを見て喜びの声が漏れそうになるが、今がそんな悠長なことをしていられる状況ではないことを思い出す。

 ブラストスライムが消えたことにより、取り込まれていた人々が空から勢いよく落下していく。

 当然、その中にはメルリィも含まれていた。


「メルリィ!」


 それを認識した瞬間、シアは弓を投げ捨てると反射的に駆け出した。

 自身の優れたステータスを利用し、森の中を颯爽と駆けていく。

 しかしギリギリ落下に間に合いそうにない。


「エアレシーブ」


 故に、シアはその場から風魔法を使用した。

 風のクッションが人々を受け止めると、そのままゆっくりと地面に下ろす。

 そして、自分達が助かったことを理解し驚いている人々の間を走り抜けていく。

 その目指す先は、当然決まっていて。


「っ! お姉さ――」

「メルリィ!」

「きゃっ」


 シアの姿を見て嬉しそうに笑顔を浮かべるメルリィをそのまま抱き締めた。

 腕の中にメルリィの存在を感じ、彼女が無事だということを実感する。


「無事で、よかった」

「お姉さま……」

「あの日、私は間違えたから。メルリィを傷付けたから。また間違えたらどうしようって、ずっと不安に思ってた」

「……私は無事ですよ。お姉さまが助けてくれたからです」

「うん……うんっ。無事で……本当に、よかった!」


 それから、メルリィは優しく何度もシアの頭を撫でてくれた。

 メルリィを助けた張本人が、それも姉であるシアが慰められているという不思議な光景。

 けれどこの場にシア達を馬鹿にする者は誰一人として存在しなかった。


 そう、その中にはきっと彼も……


「……?」


 不意に、その違和感に気付いた。

 近くにトモヤの姿が見当たらない。

 そもそも彼ならばブラストスライムが消滅した瞬間にシアより早く人々を助けることができたはずだ。

 メルリィを最後までシア一人の力で助けさせようと考えたのかもしれないが、それにしたってもうこの場にはいていいはずだ。


 一体どうしたのだろうか。

 全てが解決したはずの状況の中で、シアの胸中にはそんな疑問が浮かび上がっていた。



 ◇◆◇



「――――さて、ここからが本番だ」


 ブラストスライムが消滅してシアが駆け出すのを見届けると、トモヤは敏捷ステータス∞と防壁のスキルを解除した。

 一応の備え、というよりは賭けを実行せずに済んでよかったというところだ。

 失敗したらうっかり世界が滅んでしまうところだった。


 そんなことを考えながら、トモヤはさっと身を翻した。

 そして町とは反対の世界樹の方向に歩き出す。


 そもそもどうしてトモヤが収穫祭の途中に世界樹のもとに向かったのか。

 それは索敵のスキルで不可解な気配を感じ取ったからだ。

 人々が白で魔物が黒とするなら、それは禍々しい灰色。

 ブラストスライムは当然、ただの黒でしかない。


 では、その灰色の気配は一体何だったのか。

 それが今、トモヤの目の前に現れる。


「……お前は」


 世界樹の麓、そこには一人の人間が立っていた。

 顔をフードで隠しているため容姿を窺うことはできない。

 分かるのはその手に大きな赤色の果実を持っているということ。

 確かアレは、世界樹の上に生えている世界樹の果実だ。

 世界樹が生成する魔力をふんだんに蓄えた、一般人が一口齧っただけで魔力超過になってしまうと言う。


 もっとも、そんなことに構っていられる余裕はない。

 その存在がこうして目の前に現れた以上、トモヤには訊かなければならない。


「答えろ」


 つい高圧的な口調になってしまうのも気にせず、トモヤは言った。


「今回のブラストスライムの騒動――いや、今回だけじゃない。三年前の事件も含めて、その黒幕はお前だな」


 その問いに対して。

 彼女は口元を歪ませ、にっと笑った。

トモヤ「次回、ギャグ回(に俺がする。そろそろふざけたい)」


~登場人物による今話の反省など~

シア「クールキャラなのに動揺してしまった。申し訳ない」

トモヤ「俺がシアとイチャついてる時、周りの人達どう思ってたんだろ。やっぱり早くブラストスライム倒せよ! って感じだったのかな。申し訳ない」

周りの人々「こ、こいつが最近町で噂になってたシアちゃんの彼氏か……!」

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