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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第三章 北大陸編
77/137

77 爆発

トモヤ「シンシアとシアって名前似てるなぁ」

 翌日、早朝。

 盛大な音花火が上がる。

 そして、収穫祭が始まった。


「……リーネとルナは、まだ帰ってきてないのか」


 トモヤは賑わいを見せる街並みを歩きながら、何気なくそう呟いた。

 リーネたちの二人ならば、急げば一日足らずで往復できそうな気もするが。フラーゼのもとでゆっくりと休んでいるのかもしれない。

 特に心配はしていなかった。


 おもむろに、辺りを見渡す。

 エルフ族を筆頭に、ドワーフ族、人族、獣族がなどが数多くいる。

 新鮮な野菜や果実を用いた料理を出す出店に、弓を用いての射的屋、そして仮装大会など、様々な催し物で混雑していた。

 さすがにトモヤ一人であれこれと楽しもうとは考えられないが。リーネたちが今日中に帰って来たら、それから遊ぼうと考えていた。


「さて、と。俺はどうするか……」


 本来なら今日もシアのもとに行き勝負を仕掛けるつもりだったが、残念なことに昨日、盛大に拒絶されてしまった。

 そんなわけで、世界樹にまで行くことはでき――


「――! そういや、勝負を仕掛けるなって言われただけで、来るなとは言われてないよな」


 ――不意に、トモヤは天才ストーカー的発想を思いついた。


(いや、さすがにそれはちょっとアレだな……)


 キャラ崩壊どころか、犯罪者一歩手前の行為になってしまう。

 実行に移すわけにはいかないだろう。

 ここは素直に別の手段を探すべきだ。


『私の額の傷について……ですか?』


 そう。あの日、メルリィから話を聞いて、この胸に抱いた決意を現実のものとするために――


「――――なん、だ?」


 ――瞬間、背筋に言いようも知れぬ寒気が走る。

 それは、この世界に来てからときおり感じる、嫌な何かが近付いているときの兆候であった。

 ステータスとは違う、トモヤが日常を過ごしていく中で手に入れた力。


 しかし、だとするなら、一体どのような脅威が迫ってきているというのか。

 何らかの災害? 他種族によるいざこざ? もしくは強力な魔物が現れる?

 分からないが、取れる対策自体はある。


「索敵Lv∞発動」


 何か異常がないか確かめるべく、索敵スキルを使用し、トモヤを中心に対象範囲を拡大していく。

 まず感じるのは、エルフの国セルバヒューレにいる様々な種族の気配。特に異変などは見つからない。さらに拡大し、町を取り囲む森や山にまでその範囲を広げていくと、徐々に魔物などの気配が増えてくる。

 その中の一つに、トモヤは違和感を抱いた。


 気配の中に一つ、おかしいものがあった。

 人族でも魔物でもない。その中間にあるかのような存在。人族、エルフ族、獣族が白で、魔物が黒だとするなら、それはまさに禍々しい灰色。

 灰色の“何か”は、ある一点に向けて凄まじい速度で移動していた。

 その先にあるのは――世界樹ユグドラシル。


「ッ、シア!」


 得体も知れない何かが、世界樹にいるシアに向かっている。

 その事実を理解すると、トモヤは反射的に地面を強く蹴り、全力で駆け出した。



 ◇◆◇



 世界樹の守り人として、シアはどんな日であろうと例外なく世界樹に出向き、日の出る間は警護に務めている。収穫祭が執り行われる今日であったとしても、それは例外ではなかった。

 しかし、それは決して命に代えてでも世界樹を守りたいからだとか、そんな崇高な理由からではない。過去に残る一つの後悔。それを清算する方法を未だ得ず、ただただ求め続けての行動であった。


「ふー」


 いまいち集中ができず、弓を下ろすとシアは小さく息を吐いた。

 狙った的を射抜けてはいるが、精神状態から細かい動作までを含めれば完璧とは言い難い。

 ダメだ。もっとしっかり意識を高めなけば。そうしないと、自分はまた同じ間違いを犯すことになる。


(……そういえば。今日は、彼が来ない)


 その場に腰を下ろし休憩しながら、ふとシアは一人の青年を思い出していた。


 トモヤ・ユメサキ。

 ここいらでは珍しい黒髪黒目の男性だ。

 彼は自分だけの武器を欲し、それを創るためにシアの持つミューテーションスキル・空間飛射が必要だと言ってやってきた。少し、癇に障った。


 この国に住む人間で、シアにミューテーションスキルについての話題を振るものはいない。三年前の事件とその結末、つまりシアが空間飛射を使わなくなった理由を誰もが知っているからだ。

 だというのに、彼はどこまでも強引に土足でシアの心に踏み込もうとした。だから拒絶した。そんな彼のことが嫌いになったから――と、いうわけではない。


 むしろ逆だ。シアは楽しかったのだ、彼と過ごす時間が。

 けれどそれと同時に分からないことがある。どうして彼は自分に積極的に近づいて来ようとするのか。何度も行った勝負の結果から、彼がシアに敵わないことは重々承知のはずだ。

 さらに、彼と過ごしていく中で、シアの中にある一つの後悔が薄れていくのも感じていた。これはいけないことだと自分を律し、そうして拒絶するに至ったのだ。

 

 なのに、今日彼がここにいないことに一抹の寂しさを感じている。

 不思議なものだ。自分がそんな風に思えるだなんて、考えたこともなかった。

 この想いとは、いったい――


「――――ッ、何か、くる」


 ――ピクリと、シアの長い耳が微かな嫌な音を捉え揺れた。

 望んでもいない、ここにいるのにふさわしくない禍々しい存在が迫っている。

 狙いはなんだ。世界樹を傷付け生み出される魔力に悪影響を及ぼそうとしているのか、それとも。


「ひとまず、対処」


 考えるのは後だ。

 これまでにも、この森や近くの山から魔物が襲いに来ることは多々あった。

 並大抵の魔物では世界樹にかすり傷一つ与えることはできないため、ゆっくりと対応すればよかった。

 しかし今回の敵は気配からして、並大抵とは一線を画すほどの力を持つものであると分かる。

 急がなければならない。


 枝を蹴り、身を投げ出す。

 4000メートル上空からの落下だが、風魔法を駆使すれば問題ない。

 空中に浮かびながら弓を構え、目標へと標準を――


「――――え?」


 言葉も、思考も、同時に失った。

 嫌な気配をした場所、そこには一体の小さな生命体があった。

 先ほど感じた脅威とは思えぬほどに、その姿は弱々しい。

 けれどもシアにとって、“それ”は最悪の敵と言えた。


 鋼にも似た、ギラつくような銀色かつ透明感のあるフォルム。内側には小さな赤色の核がある。

 流動性の素材を丸め、子供一人にすら及ばぬほどの小さな一つの球体と為し、草花が生え茂る大地を呑み込みながら、のそのそと進んでいる。

 ゆっくりと世界樹に向かってくるそれに向けてシアが矢を放ったなら、一瞬のうちにでも討伐は成功し、この場の安全は保障されるだろう。


 けれども、そうはならなかった。

 その敵――ブラストスライムと呼ばれる魔物を見た瞬間、シアの脳裏に嫌な記憶が蘇ったからだ。

 茨が脳を締め付けるがごとく、遥か過去の後悔がシアに襲う。


「あっ、ああっ……」


 気が付かない間に握力は落ち、手から弓がするりと滑り落ちていく。

 風魔法の使用も掻き消され、空中で体勢を整えることさえ敵わない。

 不意に、ブラストスライムと視線が合う。目がないはずの魔物であるにもかかわらず、シアにはそう感じられた。

 このまま自分は勢いよく地面に落下するのだと、混乱した頭でおぼろげにそう思い――


「――――シアッ!」


 ――その声が聞こえたのは、その瞬間だった。


 一つの人影が、遠くから猛烈な速度でやってくる。

 トモヤは空から落ちてくるシアと、その落下地点にいる魔物を見比べると、一瞬で判断を終え速度をさらに一段階上げた。

 迷うことなく、その拳をブラストスライムに向けて振るう。


「っ、だめ!」


 急速な意識の再浮上を感じながら、咄嗟にシアはそう叫んだ。

 あれはただのスライムではない。ブラストスライムは“敵意ある者が”自分に触れた瞬間、その相手を巻き込み。


「……あっ」


 恐れていた結果が訪れた。

 トモヤの拳がブラストスライムを貫いた瞬間、盛大に爆発が起きる。

 耳を劈くような爆音と、土砂を巻き上げるような爆風が発生する。

 粉塵によってトモヤたちの姿が消える。

 けれども、ブラストスライムの爆発に巻き込まれえてしまった後の結果など考えるまでもない――


「よっと。無事かシア」

「……ふえ?」


 ――気が付けば、シアの体はトモヤの腕の中にあった。

 お姫様抱っこの体勢だ。

 今の一瞬の間に、いったい何が……


「念のため、事前に防壁を使用しておいてよかった」

「……防壁?」


 聞き覚えがある、敵からの攻撃などから身を守るスキルだ。

 そうか、それで爆発に巻き込まれても彼は無事だったのだろう。

 すると、トモヤは自慢げな表情で言う。


「おかげで服が破けずに済んだ。終焉樹の時とは違うんだ。俺だって成長してるんだぜ」


 ちょっと何を言っているのか分からなかった。

 というかまず、この体勢自体がおかしいのではなかろうか。


「せいっ」

「ぐおっ、強引に降りやがって。せっかく助けてやったのに」

「……む」


 無理やりお姫様抱っこから逃げたことに文句を言っているが、言葉とは裏腹にさして不満を抱いている様子ではなかった。

 けれど、シアもそれを聞いて確かに、と心の中で呟く。


 風魔法の操作を失い、勢いのまま落下してきた体をトモヤは難なく受け止めてみせたのだ。リヴァイアサンを倒していたことから彼に相当な実力があることは分かっていたつもりだったが、先ほどの防壁などの咄嗟の判断といい、少し考えを修正する必要があるのかもしれない。


「それで、シア」


 トモヤの呼び声が、シアを思考から呼び戻す。

 顔を上げると、彼は真剣な眼差しでシアを見つめていた。


「なんでお前ともあろう奴が、この程度の魔物に苦戦してたんだ?」


 苦戦、というには戦い自体が始まっていなかったが。

 しかしその言葉はシアの感情を呼び起こすには十分だった。

 そうだ、たしかにさっき自分は、ブラストスライムと相対していたのだ。


「はあっ、はあっ……」


 呼吸が乱れる。今になって、胸中を緊張感が支配する。

 そんなシアの反応を前にして、トモヤは落ち着いたまま言う。


「大丈夫だ、もう倒したんだから焦らなくていい」

「はぁっ……っ」

「それで、よかったらでいい。落ち着いてから、その理由を聞かせてくれないか」


 不思議なことに、彼の言葉はすぅっとシアの胸に染み込んでいった。

 未だに少し混乱しているせいだろうか、強制されたわけでもないにもかかわらず、シアは彼の質問に答えるつもりになっていた。


「……あの魔物を見たら、思い出してしまうから」

「思い出す?」

「そう。私の失敗と、後悔を」


 そうしてシアはゆっくりと、その出来事を語っていくのだった。

トモヤ&ルナリア「ショートコント・わらしべ長者」

ルナリア「はい、トモヤ! そこで拾ったわらだよ!」

トモヤ「ルナからのプレゼントより価値あるものがこの世界にあるとでも? いやない。お礼に城を買ってあげよう」

ルナリア「ううん、そんなものより、トモヤさえいてくれればそれでいいよっ!」

トモヤ「る、ルナ……!」

~完~

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◇『ステータス・オール∞』3巻の表紙です。
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