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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第三章 北大陸編
74/137

74 守り人

 その後、夕食は滞りなく進んでいった。

 客側のトモヤ達ですら気を休めるほどに、優しく大らかな雰囲気の一家だった。

 その後、簡単に体を水で流すだけの風呂を借り、後は眠るだけとなったのだが――


「――どうして、こうなった」


 トモヤは、目の前に広がる寝室と、その真ん中にぽつんと敷かれた布団を視界に収めてそう呟いた。

 布団は一組しか敷かれていない。眠るのがトモヤ一人であれば、それも問題はなかったのだが……


「私が知りたい」


 トモヤの隣にいるシアは、おもむろにそう応える。

 水で洗った長い髪は完全に乾いてはおらず、潤いを保ったまま扇情的に靡く。

 体にフィットした寝間着が、さらに彼女の魅力を向上させていた。


 そう、ここはトモヤにあてがわれた寝室ではなく、普段からシアが過ごす自室なのだ。先ほどうっかりトモヤがシアに会いに来たと零してしまったが最後。あの瞬間に、この結末は決定していた。

 つまり、オーラルとメーアの策略により、風呂を出たトモヤはあれよあれよと言う間にこの部屋に連れて来られたのである。

 ちなみにリーネとルナリアは、数年前に故郷を飛び出したシアの姉の部屋が空いているということで、そちらに泊まるらしい。


「悪いな、俺がオーラルさんたちにきちんとした説明をできなかったせいでこんなことになって」

「……いい、気にしない。明日も早い。私はもう、眠る」


 シアはそう答えると、颯爽と布団に寝転ぶ。

 まるで、この状況に対する不満自体はあまりないかのようだ。

 とはいえ、さすがにトモヤもその後に続くわけにはいかない。

 

 そこで、トモヤは異空庫を発動した。普段の旅の途中で眠るときに使う布団を中から取り出し、シアから離れた場所に敷く。


「いま、何をしたの?」


 その様子を見ていたらしいシアが、そう尋ねてくる。


「異空庫のスキルで、中から布団を取り出したんだよ。さすがに同じ布団で眠るわけにはいかないだろ」

「……たしかに。それもそう、かもしれない」


 その説明で納得してくれたようなので、トモヤも布団に横になった。

 布団は別々とはいえ、出会ったばかりの美少女と同じ部屋で眠るという状況に、トモヤの心臓がばくばくと跳ねる。

 いくらリーネたちと一緒に寝る日々が続こうとも、そう簡単に慣れることはないのだ。


「……どうして」


 そんなことを考えていると、不意に隣からそんな声がした。


「なんだ?」

「質問、いい?」

「いいけど」


 特に断る理由もなかったため、そう答える。


「どうしてあなたは、剣が欲しいの?」

「……どういう意味だ?」


 剣――とは、トモヤがシアに話した、終焉樹の核を変形させて作ろうとしている物のことだろう。

 そうであることは分かっても、どうしてそんな質問をするのかについては、トモヤには分からなかった。


「簡単な話。私には、あなたに武器は必要ないように思える。リヴァイアサンやロックドラゴンを倒せ、終焉樹大迷宮も攻略できるほどの実力があって、異空庫のように便利なスキルも持っていて……どうしてあなたは、さらなる力を求めるの?」

「…………」

「今のあなたのままで、十分、したいこと、叶えたいこと、何でもできるように、私には思える」

「……そうだな」


 一つ一つ、頭の中で丁寧に言葉を選びながら、その答えを考える。

 いつものように、剣は格好よくて、男の憧れだから……そう答えるのは簡単だろう。

 けれども、シアが求めている答えはそれとは違うものな気がした。

 何より、彼女の声が真剣だったから。


「……別に、何でもできるってことはないだろ」

「……?」


 思考の末にトモヤが辿り着いたのは、そんな答えだった。


「たしかに俺には力がある。ステータス的にいえば、誰も敵う者がいないほどのな……けど、それだけじゃできないことは山ほどあるんだ」

「ある、の?」

「ああ。お前の持つミューテーションスキルなんかが顕著な例だろ。俺の持つ力じゃ、その事象を実現することはできない」


 他にも、たくさんのできないことがある。

 旅をする上で必要な知識はリーネに頼ってばかりだし、フィーネス国で盗賊団から子供たちを救った時、結局その後の世話に関してはクレアたちに頼ってしまったし、ルナリアは天使だし、可愛いし、癒しだし。

 トモヤにできないことは数えきれないほどあって、それを助けてくれるたくさんの人に支えられてここまでやってきた。

 だからこそ、思うのだ。


「たしかに、俺の持つ力でこれまでの戦いはどうにかなってきた……けれど、それはあくまで過去の話だ。これからの未来に、いつどうなるかなんて誰にも分からない。だから今のうちに、できることは全部やっておこうって思うんだ」


 気が付いたら異世界に召喚されてることもあるくらいだからな、と、心の中だけで零す。

 加え、何も分からないうちに、この世界の誰よりも強力なステータスを与えられたトモヤだからこそ、自分の発した言葉の重みは理解しているつもりだった。


「……そう。未来の、ため」

「ああ。まあ、あえて答えるならってくらいだけど……こんな答えでいいか?」

「うん……ありがとう、おやすみ」


 一応の納得はしてくれたのだろう。

 シアはその感謝の言葉を最後に、すぅっと眠りについていった。


「すぅ、すぅ」


 ほんの一メートルほど離れた場所から、シアの寝息が聞こえトモヤの鼓膜を震わせる。

 すぐ隣に男がいるというのに、本当に気にしないまま眠ったなと、少しだけトモヤは驚いていた。


(……寝れない)


 そんな状況でゆっくりと眠れるわけがなかった。

 トモヤはいったん体を起こすと、そっと音を立てずに部屋から出る。

 気を紛らわすために夜風にでも当たろうと思ったのだ。

 そのまま、家の外に出る。


「……トモヤ様?」

「メルリィ?」


 すると、月明かり程度の光しかない夜の闇の中にメルリィの姿があった。


「どうしたんだ、こんな時間に外に出て」

「えっと、少し散歩でもと思いまして。トモヤ様はどうなされたんですか?」

「俺も似たような感じだ。シアと同じ部屋だと、少し寝づらくてな」

「ふふっ、そうですか」

「それより、女の子がこんな暗いなか出歩くのは危ないだろ」

「慣れてるから大丈夫ですけど……そうですっ、よろしければトモヤ様もご一緒にいかがですか?」

「そうだな、せっかくだしそうするか」

「本当ですか? うれしいです」


 両手を胸の前で合わせて、本当に嬉しそうに微笑むメルリィ。

 二人はそのまま静けさに満ちた町を歩きだす。

 まるで、昼とは全く違った場所にいるかのようだった。


「静かだな」

「夜はいつもこんな感じですよ。収穫祭が近付けば、もう少し賑やかになるのですが」

「収穫祭?」


 聞き慣れない単語に、トモヤは首を傾げる。


「はい、収穫祭です。年に一度の、食物や果実を手に入れ食べられることに対する感謝を捧げるお祭りが開かれるんです。きっと東大陸にある祭ほどではないかと思いますが、なかなか賑わうんですよ。お店や催し物もあったりします」

「そうなのか、知らなかった……偏見みたいになるけど、俺は前までエルフ族ってもっと閉鎖的な種族だと思ってたんだ。すんなり国境を越えられたこともそうだけど、けっこう開放的なんだな」

「たしかに昔はそういった部分があったらしいですが、私たちが産まれる前、それこそ数千年前から徐々に門戸を開くようになっているようですね。豊穣を祝うだけだった収穫祭にも、その頃から皆が楽しむような内容が組み込まれるようになったと聞いています」

「……なるほどな」


 頭の片隅にあった疑問が次々と解消されていくことに心地よさを感じていると、メルリィは続けて言った。


「そうです。収穫祭は20日後にあるんですが、ぜひトモヤ様たちも参加していってください。リーネ様やルナリア様にも楽しんでいただけるはずです」

「そうだな。じゃあ、そうさせてもらおうかな」


 シアに協力を断られた今、いったん旅の目的は打ち止めになっている。急ぎの用があるわけでもないし、その提案はとても魅力的なものだった。

 トモヤにとっては剣を創ることも重要だが、トモヤたちにとっては何よりもまず旅を楽しむことこそが最重要なのだ。


「……お姉さまも、参加できればいいのですが」


 そんな中、ふとメルリィは気になることを呟いた。


「どういうことだ? シアは収穫祭に参加できないのか?」

「……はい。お姉さまには昼間には世界樹の守り人としての役目がありますから。祭りが一番賑わう昼頃に参加することはできないかと思います」

「世界樹の守り人? そういえばさっき、オーラルさんもそんなこと言ってたな。それってどういう意味なんだ?」

「言葉の通りです。純度の高い魔力を際限なく生み出す世界樹には、様々なよこしまな意志をもって近付こうとする者がたくさんいるんです。そのような不届き者から世界樹を守るために、常にエルフ族から数人が守り人として選出され、交代しながら世界樹を警護しているんです。トモヤ様たちをお姉さまに会わせるために世界樹のもとまで連れて行ったのも、そういう理由からだったんですよ」

「それで、シアは昼間担当ってことか? ちょっと負担が大きすぎるんじゃないのか?」

「そうですね。本来ならば、昼間という区間の中でも時間や日にちでわけ、複数人で警護します……けれどこればかりは、お姉さま本人の意向でもありますので」


 メルリィは悲しそうな表情を浮かべながらそう零す。

 同時に、彼女は無意識にか、右手で額に残る傷をさすっていた。

 その時、ちょっとした疑問がトモヤの頭の中に生じる。


「……なあ、メルリィ、一つだけ訊きたいことがあるんだけどいいか?」

「はい? もちろんです。なんでしょうか」


 許可を頂けたところで、改めてトモヤは言った。


「お前の、その額の傷についてなんだが――――」

今回しんみり気味なので、次回ははちゃめちゃにしてやります。

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