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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第三章 北大陸編
71/137

71 悲しい結末

「それじゃ、そろそろ出発するか」


 翌日早朝。

 荷物をまとめ終え、一日だけ泊まった宿屋の外に出るとトモヤはそう呟く。


「ああ」

「おー!」


 リーネはこくりと。

 ルナリアは元気よく片手をあげて応える。


「ほら、フードがずれてるぞ」

「んぅー」


 今日のルナリアはリボンでなく、フードのついた服装だ。

 角に引っかかっているのか変な形になっていたため、トモヤがその形を正してやると、ルナリアはくすぐったそうに声を漏らす。

 終わると、ちょっとだけ恥ずかしそうにえへへぇと笑って言った。


「ありがとっ、トモヤ!」

「…………」

「? また、くしゃくしゃになっちゃうよ?」

「――はっ! すまん、ルナ。つい」


 無意識のうちにルナリアの頭をフード越しに撫でていることに気付いたトモヤは、謝りながら改めてくしゃくしゃになったフードを丁寧に被せ直す。

 その途中で、ルナリアの首にかけられたネックレスに視線がいく。

 こちらに関しては、既にリヴァイアサンの鱗を用いて、魔力感知の性質の付与が行われた後である。

 ふと、視線を横いるリーネに向ける。


「……? どうかしたのか?」

「いや、リーネもネックレスつけてくれてるんだなと思って」

「君とルナから貰ったものだ。当然だろう」


 彼女の胸元では、緑色の宝石が輝いている。

 燃えるような赤色の長髪と見事に調和していた。

 そう、ルナリアとリーネについては、ネックレスはきちんと似合っているため問題ない。


 問題があるとすれば……トモヤがつけているピンク色のそれだった。

 ついでということで、これもフラーゼによって細工をしてもらったのだ。


「これ、確実に俺に似合ってないよな……」


 片手でいじりながら、そっと零す。


「ううん、ばっちりだよっ!」

「そんなことはないだろう」


 その呟きを、ルナリアとリーネはすぐに否定する。

 二人は顔を合わせると、なぜか微笑み合っていた。

 なぜそんなことをしているのかトモヤには分からなかったが、ひとまず二人の言葉を信じてこのままかけておくことにした。


(……そういえば)


 思えば、ピンク色と言えば赤色と白色を混ぜて生み出される色だ。

 そう考えると、これはもしかして――

 いや、考え過ぎだろう。トモヤはそう結論付けた。

 だってそもそも、このネックレスを買ったとき、そこにリーネはいなかったのだから。


「ところでフラーゼはどこに行ったんだ? 見送りに来てくれる話だったよな」

「たしかに遅いな。何かあったのだろうか……むっ」


 会話の途中、ばたばたとした足音が聞こえてくる。

 そちらに向くと、フラーゼが少しだけ焦った様子で駆けてきていた。


「皆さん、お待たせしました!」

「どうしたんだ、そんなに慌てて」

「それが……大変な話を聞いてきたんっす!」

「大変な話?」


 表情からするに、あまりいい話でないようだ。

 深呼吸をして呼吸を落ち着けたあと、フラーゼは言った。


「はいっす。皆さんがこれから向かうグエルド鉱山、そこでロックドラゴンが目撃されたみたいっす」

「ロックドラ……」

「ロックドラゴンだと!?」


 トモヤの問いより早く、リーネが叫ぶ。

 視線で説明を求めると、彼女はこくりと頷く。


「ロックドラゴンとは、本来なら西大陸ドラグナに生息している、その名の通り体を岩石に覆われたドラゴンなのだが……その性質が厄介でな」

「体に纏う岩石を、周りにある石の色や岩の性質に同化させることができるんです。この性質のせいで、どこにいるか分からず不意打ちをかけられてやられる冒険者も多くいるっすね」

「さらに、純粋に岩石で体を守っているため防御力も非常に高い……並の攻撃では通じないと思っておいた方がいい。その証拠に、ランクもSだ」

「……そんな敵がいるのか」


 リーネとフラーゼの緊張感に満ちた説明を聞いたトモヤは、強い警戒心を抱いていた。


「……トモヤ」


 ルナリアも、恐れたようにトモヤの腕の裾を掴む。


「のどかわいた」

「どうぞ」


 違った、喉が渇いただけだった。

 異空庫から水筒をとりだし渡すと、ごくごくと飲んでいた。

 緊張感の欠片もない。可愛い。


 ――この無垢な少女を守らなければならない。

 トモヤは、そう強く思った。


「情報、ありがとう。じゃ、行ってくるよ」

「はい、お気をつけて」


 フラーゼに見送られて、今度こそトモヤ達は出発した。

 リーネの剣が創り上げられた頃にはまた戻ってくる予定なので、すぐにまた出会える。

 だからこそ、今は先のことを考えなければならない。


 ロックドラゴン。

 その魔物がどれだけ強力であろうとも、今の自分たちなら勝てる。

 そう、トモヤは信じていた――――



 ◇◆◇



「まいどあり! 確かにロックドラゴンを買い取らせてもらったよ!」


 エルフの国に辿り着いたトモヤ達はまず、旅の途中で倒したロックドラゴンを売却していた。

 その身に纏う岩石は防具などに利用されるのだ。

 岩石の奥にある肉は量が少ないながらも絶品らしい――が、食生活の違いのせいかこちらは買い取ってもらえなかった。異空庫の中に保存していく。

 エルフ族は基本的に菜食主義らしい。中には例外もいるらしいが。


「がっぽりがっぽり」


 受け取った大量の金貨を袋にいれ、異空庫の中に放り込む。

 その様子を眺めながら、リーネが呆れたように言った。


「なあトモヤ、私は思っていなかったんだ。昔は私が空間斬火を使用しない限り手も足も出なかったロックドラゴンを、あんな風に倒す者がいるなんて……」

「……いい天気だな」

「こら、話を逸らすな」


 誤魔化そうとすると、つい怒られてしまう。

 ふと、トモヤは数時間前のことを思い出していた。



 ◇◆◇



『うお、凄いな。こんなでかい石を持ち上げれるぞ』


 鉱山を歩く途中、トモヤは両手を広げても端から端に届かないくらいの大きさの石を、おもむろに持ち上げていた。

 ステータスの凄さを改めて実感していたのだ。

 しかし、一度いい気になればもっと試したくなるのが人間というもので……


『どれくらいまでなら持ち上げられるのかな。おっ、これなんてどうだ』


 そこでトモヤは、周りにある中で一際大きな岩石に目をつけた。形も少しだけ歪な気がするが、気にせずそれを片手で掴み――ぐっと持ち上げた。


『おっ、この大きさでもいけるのか――え?』

『なっ』

『ふえっ?』


 そこでトモヤは違和感に気付いた。

 トモヤはあくまで巨大な岩石を持ち上げたに過ぎない。

 にもかかわらず、彼の手の上にあるのは“山”だった。


 というか、ロックドラゴンだった。

 鉱山と同化しており色なども一緒だったので、先ほどまで気付かなかったのだ。

 今は鉱山と離れたことから色が元に戻っていき――不意に、その体の一部分に目が出てくる。

 ぎろりと、トモヤの方を睨んだ。


『うわぁぁああああ!』


 反射的にトモヤはロックドラゴンを力強く振り下ろした。

 鉱山の一部は大きく凹み、ロックドラゴンは弾けて死んだ。

 悲しい結末だった。



 ◇◆◇



「泣ける」

「いや、まったく泣けないが」

「何言ってんだリーネ、こんな感動的な話を聞いてそんな淡泊な反応……ルナも感動したよな?」

「ちょっと何ゆってるのかわかんない」

「がはっ!」


 まさかのルナリアによる否定。

 トモヤのメンタルに5000兆のダメージ。


「そんなことより、早く移動するべきだろう。」

「そうだった。シアって奴の所に行かなくちゃな」


 トモヤは復活した。

 メンタルHPもまた∞だった。


「あの……」


 不意に、ちょんちょんと、トモヤの腕に感覚があった。

 ルナリアだろうか。しかし彼女は前でリーネと仲良く手を繋いで歩いている。

 とすれば一体、誰が――


「あの、少しよろしいですか?」

「……えっと、君は」


 振り向くと、そこには一人の幼い少女がいた。

 年齢としては12か13といったところだろうか。

 エルフ族特有の先の尖った耳が特徴的だ。

 濃い青色の髪を肩まで伸ばす、とても可愛らしい容姿。

 ただ、その額には一つの大きな傷があった。

 だからと言って魅力が減るというわけでは決してないが。


「私はメルリィ・エトランジュと申します。メルリィで構いません」

「俺はトモヤ・ユメサキだ。トモヤでいい」

「では、トモヤ様と」

「様……?」


 まさかの呼び方に驚くが、それにツッコむより先に訊いておかなければならないことがあった。


「それでメルリィ、何か用事があるのか?」

「ああ、そうでした。いま、シアという名前を口にしませんでしたか?」

「したけど……もしかして、何か知っているのか?」

「はい、シアは私の姉です。よろしければお姉さまの元までご案内いたしましょうか?」

「……姉妹か。けどいいのか? 俺たちみたいな見ず知らずの人にそんな申し出をして」

「はい、もちろんです。皆さんがお姉さまに危害を与えるような方には見えませんから。実は私、見る目があるんですよ」


 いつの日かのリーネと同じような言葉を言うメルリィ。

 そこに、いつまで待っても付いてこないトモヤに気付いたのか、二つの影が戻ってくる。


「どうしたんだトモヤ、急に止まったりして」

「はじめまして、ルナリアだよっ」

「はい、メルリィです」


 質問を投げかけてくるリーネと、その間に挨拶を交わし一瞬で仲良くなっているルナリアとメルリィ。

 トモヤはメルリィがシアの妹であり、シアの元まで案内してくれることを二人に伝える。


「なるほど、そういうことか。私はリーネだ。よろしく頼む、メルリィ」

「はい、よろしくお願いしますね、リーネ様!」

「様……?」


 さっきのトモヤと同じような反応をリーネが取った後、四人でシアの元に向かうことになった。

次回、ようやく。

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