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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第三章 北大陸編
64/137

64 海龍

 トモヤに胸や体を押し付けるようにして眠るリーネに、トモヤの背中に体全体を密着させて幸せそうに寝息を立てるルナリア。

 こんな時間がずっと続けばいい。

 そんなトモヤの願いは、次の瞬間に打ち切られることになった。


「――――ッ、これは!?」


 鈍重な破砕音――脳の髄まで浸透してくるかのような、何かが脆くも壊れゆく音が響く。

 その音に付随するように帆船は激しい揺れを見せ、周囲の海が大きく波打つ。

 船が岩礁がんしょうにぶつかり座礁でもしたのか。そんな風に思える出来事だった。

 

 となると一大事だ――何が一大事かというと、その船の揺れによって一層強くリーネの胸がトモヤに押し付けられたことである。

 胸の柔らかな感覚がトモヤを襲う。 


(死ぬ、死ぬ、死ぬ! なんかこう、いろんな意味で死ぬ!)


 咄嗟にトモヤは心の中でそんな風に叫ぶ。 


「マズイ! これはッ、リヴァイアサンが襲ってきたよ!」


 ――そんな彼のもとに、誰かの焦ったような声が届く。

 いや、誰かではない、ヴェールだ。

 この船を護衛しているAランクパーティ《水辺の灼熱者》のリーダーの。


 甲板の中央に視線を向けると、そこにはビキニアーマーの様な服装をした四人の女性がいた。

 四人共に別の方を向き、何かに備えるようにそれぞれの武器を構えている。

 いったい何を――そう思った瞬間、“それ”は現れた。


「なん……だ、あれ……?」


 思わずトモヤは目を疑った。

 船の外の海面から伸びるように姿を現したのは、陽光に照らされ輝く青色の鱗を持つ、丸い面に、縦に鋭く伸びる筒状の何かだった。そう、それはまるで蛇の胴のような形をしていた。

 ただしその大きさが異常だった。面は直径が4メートル程はある。先端にかけて少しずつ細くなり、尖っていく。長さに関しては一部しか海の外に出ていないため正確には測ることが出来ない。だが、海面からその先端までの長さだけで7メートルは軽くあった。

 蛇の胴というよりはむしろ、龍の体から尾にかけての部分――龍尾りゅうびとでも評した方が正しいのかもしれない。

 

「喰らいな! ファイアブラスト!」


 そんな龍尾に目掛けて、ヴェールは両手を伸ばし魔法を放つ。

 巨大な爆裂音と共に放たれる炎の塊は、猛烈な勢いで怪物に迫っていき――接触する直前、その龍尾は凄まじい反応を見せ炎の塊を躱した。

 その際に龍尾の一部が力強く海面に叩き付けられ、盛大に水しぶきが上がる。粒の大きな水滴が、甲板全体に降り注ぐ。


「チッ、まさかこんなところで、この怪物に出くわすとはね」


 自分の攻撃が躱された光景を眺めながら、ヴェールは悔しそうに舌打ちする。

 その後、周りにいる他のパーティメンバーと顔を合わせ、覚悟を決めたかのように頷いた。


(……あの表情は)


 彼女達のその覚悟を決めた表情を見て、トモヤはどこか嫌な予感がした。

 自分を抱きしめたまま眠り続けるリーネとルナリアを、惜しみ深くも体から引き離し、ヴェールたちのもとへ向かう――


「……私も行く」

「リーネ?」


 立ち上がったトモヤと同時に、まるでタイミングを見計らったかのように――いや、リーネともあろう者があれだけの爆音を聞いて目覚めないとは思えない。

 恐らくは本当にトモヤの行動に合わせて、リーネはそう告げた。緊急事態であることだけは把握している様子だ。

 ……その割には、不思議と顔が赤く染まっているが。


「……トモヤ、添い寝の件はまた後で話す、話します。今は、この危機をどうにかするのが優先だと思う、思います」

「……了解。そんじゃ、行くか」


 トモヤとリーネは気まずい空気を感じながらも、いったん問題を保留にしヴェールのもとに駆け出した。リーネの不思議な口調にツッコまなかったトモヤの判断は英断と言えるだろう。

 念のため、いまだ眠り続けているルナリアにはスキル防壁をかけておく。


「どうかしたんですか?」

「アンタ達は……」

「知っての通り俺達も冒険者です、戦えます。事情を聞かせてください」

「あ、ああ、そうだね。ならすまないが協力してもらおうか……といっても見た通りさ、リヴァイアサンが出たんだ。一旦は撃退したが、たぶんすぐにでもまた襲ってくるだろうね」


 リヴァイアサン――先程トモヤが見た龍尾りゅうびを持つ本体のことだろう。

 全容を見ることはできなかったが、今もまだこの船の近くにいるらしい。


「アンタ達、さっきの爆音は聞いたかい? アレでこの船の一部が破損したみたいなんだよ。多分底の部分だね。今はまだなんとか進めてるけど、もう一発喰らえば間違いなく沈没するね」

「なら、今すぐ倒さないといけないですね」

「はぁ? 何を言ってるんだい。リヴァイアサンはSランク魔物だよ。私達で倒すだなんてふかの――」

「グルルゥゥゥァァアアアアア!!!」

「ッ!? きたね!」


 瞬間、獣の咆哮が辺り一帯を木霊する。

 誰もが同時に、その音がした船の外に視線を向ける。

 すると、そこには先程と同じく青色の鱗を纏う胴体と――その先に、今回に限っては巨大な頭が存在していた。

 これまた青色の鱗で包まれたゴツゴツとしたフィルムに、鋭い金色の眼光を持つ頭。ついさっきトモヤはその怪物の一部を見て龍の尾のようだと思ったが、その顔に関してもまさに龍の頭というべき様相だった。


 鑑定自動発動。

 《リヴァイアサン》――Sランク上位指定。

 ランクが測定不能であったフィーネスを除いて、トモヤがこの世界に来てから出会った中で一番強い魔物といってもよい。


 とは言っても、決してトモヤの敵になるという訳ではない。

 創造発動――剣を手に、振るう。


「空斬!」


 放たれた一振りの斬撃。

 それはリヴァイアサンの首を切り落としてしまうはずだ。

 そう思ったトモヤの予想を裏切るように、リヴァイアサンは驚異的な反応で身をよじる――が、完全に回避することはできなかったらしく、斬撃によって切り落とされた青色の鱗が勢いよく船の上に落ちてくる。

 しかし大したダメージにはなっておらず、当然トドメには至らない。危険を感じたのか、リヴァイアサンは再び海の中にその身を沈めていく。


「驚いたな、まさか躱されるとは」

「リヴァイアサンの鱗は魔力感知能力にたけているんだよ。むしろ鱗だけでも切り落としたことが私としては衝撃的さ……とは言えこれで理解しただろう。私達じゃアレを倒すのは不可能さ……ま、心配しなさんな。しんがりだけはこの《水辺の灼熱者》が務めてやるからね」


 そう言って、ヴェールは再び仲間達に視線を向ける。

 すると、他の三人の女性達は同時に笑い……甲板の端にまで歩いて行く。

 その行為としんがりという言葉から、彼女達が何をするつもりなのかトモヤには察しがついた。


「いや、その必要はない」

「は?」


 だからこそ、トモヤは迷わずそう告げた。

 ヴェールは驚いたように目を丸くする。


「何を言ってるんだい……アンタの攻撃が通じないのはたった今見ただろう? 誰かが足止めしている間に船ごと逃げるのが一番頭のいい作戦なんだよ。それともまさか……アンタが囮になるとでも言うつもりかい?」

「そのどっちでもない……リーネ、一応この船の護衛は任せた」

「うむ、了解した」

「なっ、アンタら、いったい何を……」


 トモヤは手に持つ剣をリーネに預け、甲板の端にまで歩いて行く。しんがりになろうとしていた女性達を追い抜き、そこから海を見下ろした。

 ここから魔法をリヴァイアサンに向けて放つことはできない。船まで巻き込まれてしまうかもしれないからだ。

 相変わらず、万能に見えて不便な力……とは言え手段がないわけでもない。


 その手段とは当然――――


「直接、ぶん殴る――!」

「なっ、おいアンタ!」


 ヴェールの声を背に受けながらトモヤは船から体を投げ出す。

 どぷんという水が跳ねる音と共に、海の中にその身を沈めていく。


(……視界が狭い)


 海の中は決して透明度が高くはなかった。そこでトモヤはスキル千里眼を使用し視力を高める。

 急速に広がっていく視界。その中で、トモヤは“それ”を見た。


(……でかいな)


 船からほんの十数メートルほど離れた海中に、リヴァイアサンは攻撃するタイミングを見計らっているかのように存在していた。バカみたいな長さ、200メートル程もありそうな胴体が円状に渦巻いていた。

 その先端には、先程も見た巨大なゴツゴツとした頭があった。自分を倒すべく追撃してきた存在に気付いたのか、鋭い金色の双眼がトモヤに向けられる。


「グルァァアアアアア!!!」

「――――ッ」


 海中であるにも関わらず鈍く響く雄叫びを上げながら、リヴァイアサンはその巨大な口を大きく開ける。鋭く尖る牙に目を奪われていると、その次の瞬間、リヴァイアサンの口から“青色の炎”が放たれる。

 海水すら燃やし尽くす熱量を含んだ一撃――その攻撃に対し、トモヤは迷わず対応した。


(――――――防壁)


 瞬間、トモヤの眼前に展開される透明の壁が、青色の炎の進撃を食い止め、完全に掻き消す。


 さらに、その程度ではトモヤの作戦は終わらない。


(――拡大)


 防壁の展開規模を拡大。前方、放射状に透明の壁の防衛範囲は広がっていき――途中からは逆に一点に集まるように収縮していく。

 これによって生み出されたのは、直径百メートルにも及ぶ巨大な透明の球体だ。

 海水ごと、リヴァイアサンの体をまるごと全て閉じ込めることに成功した。


(よし、これで一応は大丈夫か)


 それを確認し、トモヤは安堵の息を吐く。


 防壁の展開方法には二つの種類がある。

 一つは対象展開。普段、ルナリアなどに使用するのはこちらだ。対象者を守りつつ、その者の動きに合わせて自由自在に移動する。

 もう一つが範囲展開。対フィーネス戦において、トモヤとフィーネス閉じ込めたのがこちらだ。一時間が経過、もしくは術者が解除しない限り絶対に打ち破られることはない。つまり、その内部で何が起ころうと外部に被害が広がることはない。


 その二つのうち、今回使用したのが後者の範囲展開だ。

 球体内に閉じ込められたリヴァイアサンはこれから一時間、その中から逃げることはできない。

 その間に船は十分な距離を進み、この化物から逃げることが出来るだろう。


(けれど、それじゃあ根本的な解決にはならないか)


 自分達の次に北大陸に向かう船はおそらくこの付近を通る。その時、このリヴァイアサンがいれば恐らくその船は沈没してしまうだろう。

 そうならないために今のトモヤに出来る事。それは単純、いまここでリヴァイアサンを倒すこと。


(防壁、一部解除)


 目の前の透明な壁のうち、自分の腕を入れられるだけのスペースだけ防壁を解除する。途端に空気、もしくは魔力の流れの変化を察知したのか、その穴に向けてリヴァイアサンが向かってくる。


 だが、もう遅い。


(スキル・重力魔法――派生・圧縮魔法Lv∞)


 そして、心の中で叫んだ。


(グラビティプレス!)


 瞬間、形容し難いほどの絶大なエネルギーが防壁内を駆け巡り、そのまま中心に向け圧縮されていく。

 風船から空気が抜けて縮んでいく様が一番イメージとしては近いだろうか。ただし、今回は空気だけでなく、そこに存在する固体・液体までもが例外なく巻き込まれていく。

 つまりはリヴァイアサンの体と海水だ。


 圧縮、圧縮、圧縮――トモヤが指定した座標上の一点に向け、どこまでも圧縮されていく。

 リヴァイアサンの胴体は次々と弾け飛び数十数百の破片へと分裂し、それでも留まることのない圧縮によって、最期は断末魔をあげることすら許されず、ぷすんという間抜けな音と共にその体は跡形残らず完全に消滅した。


 ――――完全勝利だ。


 そうして生じた真空地帯に、トモヤの前にある小さな穴から海水や空気が流れ込んでいくのを確認した後、彼はそのまま海面に向け泳いでいく。


「ぷはぁ!」


 数十秒ぶりの空気を肺いっぱいに吸い込むように、海面から頭を出したトモヤは盛大に息をつぐ。


「トモヤ!」

「……本当に、倒しちまったのかい?」


 少し離れた位置に移動している船の上から、リーネがぐっと親指を立て、ヴェールや他の三人は目の前の光景が信じられないかのような表情を浮かべていた。

 ルナリアは多分まだ寝ている。


「勝ち!」


 そんな訳で、トモヤもその場でサムズアップを返した。

おそらく今ごろ読者の皆様は、そういえばこの作品に戦闘要素あったなぁ……と思っているはず。最近イチャイチャしすぎていた……!

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― 新着の感想 ―
[一言] これは戦闘ではない虐殺だ
[一言] ヴェールの言葉「私達じゃアレを倒すのは不可能さ……ま、安心しなさんな。しんがりだけはこの《水辺の灼熱者》が務めてやるからね」 この中の「安心しなさんな」これもおかしいです。
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