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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第三章 北大陸編
60/137

60 大天使が降臨した

 翌日、昼前。

 トモヤは自分が泊っている宿屋から少し離れた道端で一人立ち呆けていた。

 というのも、ルナリアが一緒に宿屋から出るのではなく待ち合わせをしたいと申したからだ。どうやら彼女の中のデート像を実行に移したかったらしく、それにトモヤも付き合うことにした。


「おまたせっ、トモヤ!」


 などと考えていると、聞き慣れた少女の声が鼓膜を震わした。トモヤはゆっくりとそちらに視線を向け――そして言葉を失った。


 昨日のようなフードのついたローブではない。ひざ下でふりふりと揺れる可愛らしいフリルのついた、純白のワンピース風の衣装をルナリアは着ていた。ルナリアの純真さと可愛らしさが滲み出るかのような服装だった。

 二本の黒色の角については、赤色のリボンをつけることによって隠している……のだが、それによってさらにルナリアに活発な印象を抱くことができ――


「――ああ煩わしい。これは言葉で言い表せるような次元じゃない! ……が、とりあえず一言だけ。ルナ、めちゃくちゃ似合ってる」

「えへへ~、ありがと! リーネにこーでぃねーと? 手伝ってもらったんだ!」

「ああ、そういうことか。どうりで俺の見たことのない服を着ていると思った」

「うんっ、このまえリーネと買ったんだよ!」


 昨日はあれほど「むむむ~」と唸り、今日の朝もまだ「むむ~」と唸っていたリーネも、トモヤではなくルナリアには優しく協力してくれているらしい。間接的にはトモヤへの協力と言うこともできるかもしれないが。

 これは帰ったときには「む~」程度に怒りが収まっているかもしれないな、と思うトモヤだった。


「……トモヤ、手!」

「ん? ああ」


 見ると、ルナリアが可愛らしく右手をトモヤに差し伸べている姿があった。迷わず左手でぎゅっと握ると、ルナリアはえへへぇと嬉しそうな笑みを零す。


「それじゃ、いこっ!」

「おう」


 そんな風にして、トモヤとルナリアのデートが始まった。




 海が近いためか、潮風の独特な香りが鼻腔をくすぐる。

 多種多様な種族に、それにあった店が広がる雑多な街並みを、トモヤとルナリアは手を繋ぎながら楽しそうに歩いていた。


「みて、トモヤ! これ、すごいよ!」

「……たしかに、凄いな」


 ルナリアが指差したのは、とある出店で売られている魚の串焼き……ただ、そのサイズが異常だった。魚は優にトモヤの大きさを超えており、串に関してはもはやただの槍だ。

 誰が買って食べるのか、全くわからない程だった。


「おっ、嬢ちゃんに兄ちゃん、お目が高い。食ってかないか?」


 少し離れたところから眺めていると、店主に気付かれそう勧められる。


「い、いや、さすがにこのサイズはちょっと……」

「ああ、これはただの客引き用だ。たまに大食いの冒険者とかが競って食うこともあるけどな……ほれ、こっちに普通のサイズもあるよ」


 そういって店主が指差した店の少し奥には、一般的なサイズの串焼きが置いてあった。


「まあ、それなら食べれるか……ルナ、食ってみるか?」

「うん、食べてみたい!」

「了解。二つお願いします」

「まいど!」


 銅貨と二本の串焼きを交換し、そのうちの一本をルナリアに手渡す。

 食べる前にはもちろんお馴染みの。


「「いただきます」」


 二人で同時にそう言ってから、トモヤは手に持つそれをかじった。パリパリな皮に、白身魚に似たしっかりとした肉厚のある中身。噛み締めるごとに旨味のつまった脂が溢れてくる絶品だった。


「おいしい!」


 ルナリアもたいへん満足したように、一口食べて目を輝かせた後に続けてもぐもぐと食べ続けていく。


「ははっ、いい食べっぷりだな嬢ちゃん。そんなに旨そうに食ってもらえりゃこっちとしても嬉しいぜ。兄ちゃんたちは、兄妹か何かか?」

「えっと、まあそんなところです」

「……むぅ」


 特に本当のことを説明する必要はないかと頷いたトモヤだったが、それを聞いたルナリアはぷくぅっと頬を膨らませていた。ただし、串焼きを食べ過ぎて口の中がいっぱいになっているだけの可能性もある。


(どちらにしても可愛い。はい解決)


 そう自己完結するトモヤだったが……串焼きを食べ終え、さらに観光を再開してからもルナリアは頬を膨らませて機嫌が悪そうなままだった。

 ただし、手はきちんと繋がれている。


「ルナ~」

「…………つーん」

「い、いや、態度でなんとなく伝わってるし口で言わなくても」

「トモヤ!」

「は、はい」


 ルナリアはその場で反転し、びしっと小さくて可愛らしい手から人差し指をトモヤに向けた。


「今は、デートなの。きょうだいじゃないもん」

「いや、別にそこをこだわる必要は――」

「わかった?」

「――はい」

「なら、よしっ、だよ」


 両手を腰にあて、ルナリアは満足した様にふんすと鼻を鳴らす。

 傍から見たら、立派な大人が幼女の尻に敷かれている風にしか見えない光景だった。現に周りから訝しげな視線がいくつも飛んでくる。

 まあ今くらいいいかと、トモヤはそれらを気にしないことにした。


「んじゃ、改めていこうか、ルナ」

「うん!」


 今は、楽しむことが大優先なのだから。




「トモヤ、ここっ、ここに入ろ!」

「ここは……アクセサリーとかが売ってるのか?」


 ちょっとした飲食店で昼食を食べ終えた後。

 さらに観光を続ける中、トモヤ達が辿り着いたのはアクセサリーなどの小物を取り扱う小さな店だった。

 やはり女の子らしく、ルナリアもこういったものに興味があるのだろうか。そう考えるトモヤにルナリアは言った。


「えっとね、リーネにプレゼントをえらぶんだよ? リーネ、こういうかわいいの好きだから!」

「驚愕の事実」


 ルナリアとリーネは、トモヤの知らないところで親交を深め、お互いの好みも知っているらしかった。

 ちなみに、トモヤはふと、デート中に他の女の話をするなんて! と言わなければならないかなと思ったが、止めておいた。


 ルナリアの勧めるままに二人は中に入っていく。店内には指輪やネックレスなどが並んでいた。安い物から高いものまでピンキリだ。

 その中でルナリアはある一つの商品に目が止まっていた。


「これ、きれい」


 それは小さな宝石がはめ込まれたネックレスだった。色や形が少しずつ違うものが並んでいた。

 金額的にはそれも金貨数枚程度。トモヤにとっては簡単に購入できるくらいの値段だった。そこで、トモヤは迷わず決断した。


「よし、じゃあこれを買おう。リーネだけじゃなくてルナ、お前の分もな」

「……いいの?」

「当然だ。デートなんだから、何かプレゼントがあってもいいだろ?」

「……うん!」


 パァッとエンジェルスマイルを浮かべ、ルナリアは喜びを露わにする。正直、この笑顔を見るためなら金貨どころか聖金貨数百枚を支払ってもよかった。

 というかむしろそれ以上、プライスレスだ。


「ルナにはこれなんか似合うんじゃないか?」


 暫く二人で商品を眺めた後、そう言ってトモヤが掴みあげたのは、ルナリアの瞳と同じ青色で、楕円状の宝石がはめ込まれたネックレスだった。


「わぁ、きれい……うん、それにする!」

「よし、じゃあ決定だ。後はリーネのだけだな」

「えっ? トモヤのもだよ?」

「は? 俺のも?」

「うん、もちろん!」


 ルナリアは迷うことなく頷いて、なんとピンク色のネックレスをトモヤに差し出す。どうやらそれが、トモヤに似合うと思ってルナリアが選んだものらしい。

 色々と葛藤がないこともないが……トモヤは素直に彼女の意思を受け入れることにした。


「じゃあ、俺もそれを買うよ」

「ほんと? やった! 次はリーネのだね!」

「ああ」


 そんな会話をしながら、トモヤとルナリアはあれやこれやと言い合って、リーネに似合うネックレスを探し……最終的に輝く緑色の宝石のネックレスを選んだ。

 合計三つを購入し、トモヤ達はいったん外に出る。


「それじゃルナ、ほら」

「……んっ。わあぁ」


 頭を差し出すルナリアに買ったばかりのネックレスを首につけてあげる。掛け終えた後、ルナリアは自分にかかるそれを見て嬉しそうに顔を綻ばせる。


「ん、似合ってる」

「ありがと!」

「俺の方は……まあ、また今度でいいか。ほら、手」

「うん!」


 その満面の笑みに癒された後、トモヤが手を差し伸べると、ルナリアはそれをぎゅっと握った。

 まだ日は空高くにあり明るいままだが、今日はこのまま宿に戻ることになった。


「じゃあ戻ろうか、ルナ」

「うん! えっとね、トモヤ。今日一日、たのしかったよ」

「……ならよかった」


 一緒に魚の串焼きを食べて、ここにはいないリーネの分のプレゼントを考えて。そんな普段と大して変わらないようなデート内容だったけど、それでもルナリアは楽しんでくれたらしい。


「俺も楽しかったよ、ルナと一緒に観光できて」

「……えへへぇ」


 だからトモヤも素直に自分の思いを伝え、満面の笑みを浮かべるルナリアと共に歩いていった。

 きっとこれから何度でも、こんなデートを出来るだろう。

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