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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第二章 東大陸編
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47 共同作業

 終焉樹暴走事件が過ぎ去った夜、トモヤ達が滞在する宿屋の一階の食堂。

 そこにはトモヤや数多くの常連がおり、かつてないほどの緊張感に満ちていた。


「ルナちゃん、そこの野菜とって!」

「うん、どうぞ、アンリ!」


 厨房でわちゃわちゃとする少女二人を、誰もがハラハラとしながら眺めていた。

 ズーヘンは物理的な怪我などは負っていないものの、いつ自分が死んでもおかしくない状況に居続けたことによる精神的疲労はかなりのもので、アンリや妻レイナから絶対安静を言い渡されたのだ。

 その結果、メイン料理はアンリと、そして何故か自ら立候補したルナリアが作ることになった。

 つまり今日この場所で――アンリとルナリアによる初めての共同作業が行われているのだった。




「「できた!」」


 厨房からそんな嬉しそうな声が聞こえてくると、テーブルに座るトモヤ達はつい歓声を上げそうになっていた。割合的に30代程度の男性が多く、自分の娘の頑張りを眺めるような目をしていたのだ。何故かトモヤもその一員だった。


 出来たとは叫んだものの、それはまず第一陣のぶんだけだったらしい。

 30人ほど客がいる中、まずルナリアとアンリが5人分ずつ、計10人分のお皿を積んだお盆を持ってゆっくりと歩を進めてきた。

 その料理がいったい誰のもとに渡るのか。謎の緊張感が場を支配する。

 だが人々の希望の思いもむなしく――


「食べて、トモヤ!」

「どうぞ、トモヤさん!」


 ルナリアとアンリの両名が、トモヤの座るテーブルに来てお盆を差し出した。

 ルナリアの元には少しだけ焦げ目のついたオムレツが、アンリの元には美しくふんわりとしたオムレツが置かれていた。

 途中までは協力して調理しているように見えたが、卵を焼くところからは別々だったのだろう。見た目はともかくとして、両方から食欲をそそる香りがし、鼻腔を通っていく。

 ちなみに隣のテーブルに座るズーヘンは「あ、あれ? アンリ、俺の方に来るんじゃ……?」と呟いていたがトモヤには何も聞こえなかった。本当の本当だ。


「あ、ありがとう」


 ルナリアはともかくアンリまで自分のところに来るとは思っていなかったトモヤは、少しだけ驚きながらも皿を横に回していく。

 その途中、自分が食べる分はルナリアとアンリのどちらにするべきか葛藤する。二人の期待の込められた視線が痛い。


「両方食べちゃっても構いませんよ。どんどん続いて作っちゃいますから」


 助け舟をくれたのは、アンリの母親であるレイラだった。トモヤや、隣に座るリーネの前に焼き立てのパンを置いて行く。

 アンリの見た目から察するに年齢は30を超えているだろうが、20代前半にも見えるほど若々しい容貌で、青髪のポニーテールが揺れる様子がとても魅力的な女性だ。


「分かりました、それじゃあいただきます」


 ルナリア、アンリ、そして他の常連たちの嫉妬の視線に耐えながら、トモヤは早速オムレツを食べることにした。

 まずはルナリアのから。ナイフを入れ、フォークでぱくりと口に放り込む。

 少しだけ焦げており固い部分があるものの、卵の深い旨味はしっかりと残っており、中に入っている野菜の食感と合わさって、しっかりと美味しいオムレツと呼ぶことの出来る味だった。


「うん、うまい」

「やった! うれしいな!」

「と、トモヤさん! こっちも食べてください!」

「はい」


 急かされるまま、次はアンリの作ったオムレツにナイフを入れる。こちらはふんわりと柔らかい。口に入れると卵がとろけるようで、確かに料理人の娘だというのも納得のいく、満足できる一品だった。


「うん、アンリのもうまいな」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 トモヤが心から思った感想を伝えると、二人は嬉しそうに顔を合わせながら厨房へと戻っていった。

 他の方の分の調理も順調に終え、誰もが彼女達の料理に満足して食事を終えるのだった。



 ◇◆◇



 宿の二階、トモヤ達が借りている部屋に、トモヤとリーネの二人がいた。

 ルナリアは、調理する中で気の合ったらしいアンリの部屋に泊まっているのだ。


「「お疲れさま」」


 今日一日の働きをを労う言葉を交わし、トモヤとリーネは手に持ったカップを掲げた。

 中にはエルニアーチ家から譲り受けた茶葉を使用した紅茶が入っている。

 上品な香りを堪能しつつ、ゆっくりと飲んでいく。


(それにしても、同室に男女二人はなぁ……)


 カップを傾けながら、トモヤはちらりとリーネの様子を窺う。

 二人は既に風呂に入った後であり、リーネは腕や脚の肌が露出した動きやすい寝間着を身に纏っていた。風呂上がりのせいか普段より艶のある赤色の長髪に視線を奪われる。

 当然これまでに何度か目にしたことのある格好だが、ルナリアのいない二人きりという状況も相まって、不思議とトモヤはいつものように落ち着きを得ることができなかった。


「私とトモヤが出会ってからまだ少ししか経っていないのに、いろいろなことがあった気がするな」


 気まずさを感じるトモヤの前で、リーネが小さくそう零した。

 会話のタネさえ与えてくれたら、トモヤもきちんと対応することができる。


「そうだな。レッドドラゴン討伐から始まって、ルナたちとも出会って……こうして終焉樹まで攻略して」

「うん、そう言われてみれば、私達はフィーネス大迷宮を攻略したんだな。これはなかなか……いや、歴史に名を残してもおかしくないくらいに凄いことだぞ」

「そうなのか? まあ、数万年前から発見されてて今まで未攻略だったっていうくらいだしな……本当にあんな方法で攻略してしまってよかったのかな」

「過ぎたことをどうこう考えても仕方ないさ」


 そこで一度言葉を切り、リーネはごくりと紅茶を飲み込んだ。

 話は過去から未来のことに変わる。


「それでトモヤ、トレントからもらった終焉樹の核だが、アレをどうやって剣にするか検討はついているのか?」

「いや、それが微妙なんだ。錬成スキルを使えば好きな形に作り変えることが出来ると思うんだけど、どんな形にするのが一番いいのかが分からなくてな。そこら辺は専門家の話を聞いてから実行に移した方が良さそうだ」

「そうか、ならこれからの旅の目的とも合致するな。北大陸アルスナには優れた鍛冶師が多くいる。色々な人から話を聞くことが出来るだろう」

「そうだな……何も、焦る必要はないか」


 リーネの提案を聞いて、トモヤはうんと頷いた。

 これからトモヤ達はさらに旅をする。

 その時、トモヤの隣にはリーネやルナリアがいてくれる。

 悩み事などは、ゆっくりと話し合って解決していけばいい。


 コツンと、リーネは飲み切ったカップをテーブルに置いた。


「そろそろいい時間だな。眠ろうか、トモヤ……っ、別に一緒のベッドでという意味ではないぞ!?」

「聞いてない聞いてない」


 何故か一人で勝手に自爆するリーネを見ながら、トモヤもカップを傾け最後の一滴まで紅茶を飲み干す。

 飲み終えたカップをテーブルに置き、二人はベッドにまで移動する。

 ベッドは隣り合って置かれているものの、せめてもの礼儀としてトモヤはリーネの反対側を向いて眠る。


「おやすみ、リーネ。また明日」

「ああ、おやすみトモヤ」


 最後に二人はそう言い残し、ゆっくりと眠りに落ちていく。

 これからも続く明るい未来に希望を抱きながら。

第二章終了!

次回はお馴染み(にする予定の)神界回です。

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◇『ステータス・オール∞』3巻の表紙です。
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