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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第二章 東大陸編
42/137

42 ∞の威力

 狭い室内全体に燃え盛る炎。

 トレントの体が消滅したことを確認し、リーネは剣を鞘に戻した。

 同時に炎も消し去る。発動と解除はリーネの意識によって行われるのだ。


 それらの一連の動作を終えた後、リーネは身体をトモヤが走り去った方に向けた。


「トモヤ、私は勝ったぞ。君は……」


 あの先にトモヤやズーヘンを含めた冒険者達。

 そしてトモヤが恐れた何かがあるのだろう。

 そう思った瞬間――


『はっ、俺様を倒したところで、この先にいる“アレ”には勝てる訳ねぇ』

「――――」


 ――それはトレントの声だった。


(おかしい。奴は完全に消滅させたはず……残留思念か何かか?)


 リーネが深く考える時間を与えることなく、その声は再度響く。


『所詮、俺様はこの終焉樹の力の一部をこの身に取り込んだに過ぎねぇ……けど、アレは違う。アレの存在は“終焉樹そのもの”だ。アレと戦うっつうことはつまり、終焉樹が数百万年かけて呑み込んできた魔力を……人族、魔族、それ以外の生物共の歴史を相手にするのも同然だ!』


 そして最後に、命を失ったはずのトレントはこう告げた。


『アレに敵う人間なんざ……この世界には、一人として存在しねぇよ』


 瞬間。

 ドゴォン! という轟音とともに、終焉樹全体が激しく揺れ動いた。

 音、そして揺れの発信源はリーネが視線を向ける先だ。


「ッ、トモヤ!?」


 何が起きたのか。トレントの声に構っている暇はない。

 急速に生じた不安を取り除くため、リーネは駆け出した。

 狭い通路に入りしばらく走ると壁が立ちはだかる――いや、穴が生じていた。

 その穴は乱暴に開かれていた。

 恐らく、先に行ったトモヤがぶん殴って生み出したものだろう。

 リーネは迷わずその穴に飛び込んだ。




「…………え?」




 その瞬間、リーネは思わず言葉を失った。

 そこに広がる光景を信じることが出来なかった。

 開かれた大きな空間。その中心に“彼”は立っていた。


「トモ、ヤ……?」


 自分でも驚くような覇気を失った声で、リーネは彼の名を呼んだ。



 ◇◆◇



 ――トレントの対応をリーネに任せたすぐ後。

 トモヤは自分のすべきことだけを考え真っ直ぐ駆け出していた。

 狭い通路の先には漆黒の壁が立ちはだかる。

 ズーヘン達がいるのはこの先だ。


「吹き飛べ!」


 叫び、攻撃ステータス・1千万に改変を行いぶん殴る。

 盛大な破砕音と共に壁に大きな穴が生じた。

 そのまま向こう側に飛び込む。


 千里眼で見るのと、直接見るのでは何もかも違っていた。

 直径200メートル程の円形の空間。

 天井は高く、30メートルにも至る。

 他の階層の高さが10メートルもないのに比べれば差は歴然だ。

 尤も、トモヤが何よりも目を奪われたのは空間そのものではなかった。


 その中心に佇む巨大な生命体――のような何か。

 巨大な漆黒の蔦や根が絡まり合い、一個体と化している。

 その歪な有り様は日本にも生えるアカシデの幹によく似ていた。


 しかし、大きさは比べ物にならない。

 なんせ、この空間の8割を埋め尽くすほどである。

 縦幅、横幅150メートル、高さ25メートルといったところだろうか。

 見上げても全容を窺うことが出来ない。

 そして、なんとその怪物は今もなお成長を続けている。

 地面に根を張り、終焉樹から魔力供給を受けているのだ。


 鑑定を発動。

 その結果にトモヤは目を大きく見開いた。

 名称・《フィーネス》――ランク・測定不能。

 終焉樹自体と同じ名……つまり終焉樹そのものが魔物と化したのだろうか?


「――――!」


 視線をいったん元の高さに戻し、トモヤはようやく彼らの存在に気付いた。

 一見、フィーネスの巨体に隠れて見えない。

 だが部屋の片隅にはズーヘン達、約300名の冒険者が集まっていた。

 今も自分達を覆い尽くすように巨大化していくフィーネスを見て恐怖の表情を浮かべている。


『――――――――――――!!!!!』


 瞬間、耳を劈くような音が鳴り響く。

 それは人や魔物の声というには異様なものだった。

 まるで耳鳴りの音量を何十倍にも増幅させたかのような気味悪さ。

 その音を鳴らしているのは間違いなく、目の前にいるフィーネスだった。


 フィーネスの巨体――幹の部分から枝が生える。

 枝と呼ぶには大きすぎる、仏像の腕のようだ。

 それが突如としてズーヘン達に向けて振るわれる。


「――――危ない!」


 それを見たトモヤは瞬時に駆け出した。

 呆然と佇む冒険者達の前に辿り着くと、小さく拳を溜めて叫んだ。


「1億倍!」


 今回のイメージはステータスではなく、通常状態の1億倍の殴打を浴びせることだった。

 これまでトモヤが経験してきた中では最大の一撃。

 空間が歪むほどの威力でその巨大な腕を吹き飛ばした。


「……む」


 しかし、期待していただけの結果は得られなかった。

 殴打の余波は僅かにフィーネスの巨体の表面を凹ませるに留まる。

 削れたのはたった数メートル程。

 レッドドラゴンならばこれだけで全身を消滅させることができ、先程戦ってきたSランク魔物達でも十分に倒せたにもかかわらずだ。


 目の前にいる怪物の脅威を身に染みて実感する。

 少なくともトレントの数万倍は強い。

 これ以上の威力の攻撃を放つべきか……

 いや、それは殴打の余波などによって周囲にも被害が及ぶ可能性がある。

 では、どうするか――――


 観察も程々。

 視線だけを後ろに向けると、そこにいる冒険者達は突然の援軍に驚いた表情をしていた。

 その中でも真っ先に動いたのは大剣を構えるズーヘンだ。


「ボウズは確かウチの宿にいた……なんでこんなところにいるんだ!? ボウズも蔦に巻き付かれてここまで引きずり落とされたのか!?」

「いえ、地面をぶち抜いて来ました」

「……何言ってんだ?」


 緊張感のある状況にも関わらず、素っ頓狂な反応を見せる。

 トモヤは簡潔に事情を説明することにした。


「アンリのお願いで来たんです。まだ帰ってきていない父を探してほしいって頼まれて」

「……アンリが?」


 こくりと、トモヤが頷く。

 ズーヘンは少し嬉しそうな表情を浮かべた後、はっと我に返る。


「いや、けどもう手遅れだ! 俺達も何とかしようとしてみたが、そこのバケモンにどうやっても傷一つ与えられねぇ! 助かりようがねぇよ!」


 その声に賛同する様に、これまで呆然としていた他の冒険者たちも反応する。


「そうだよ! アイツだけじゃなくて壁だって壊せない。逃げ道すらない! どうしようもないんだよ!」

「あなたは私達より強いみたいだけど、それでもあの怪物の一部を吹き飛ばすしか出来てないのが良い証拠よ! 勝ち目なんてどこにもないのよ!」


 誰一人として、救いが来たことに歓喜する者はいない。

 トモヤがここに辿り着くまでのたった数分間に、それだけの絶望を経験したのだろうか。

 そう考えていると、冒険者の一人が信じられないことを口にする。


「あんなのを相手にするなんて無茶だ! 悪いことは言わねぇ! 俺らだって迷宮に潜るくらいだ、死ぬ覚悟は出来てる! アンタ一人でも逃げられるなら、今すぐここから逃げてくれ――――」

「――――ふざけるな」


 シン、と。

 トモヤの静かな声が、不思議と辺りに響き渡り、誰もが言葉を呑み込んだ。

 空間が凍結したのではないかと錯覚するような状況だった。


 そんな状況の中でトモヤは思う。

 いま彼らは言った。自分達を見捨てて、トモヤに生きろと。

 そんな信じられない内容を――至極当然のように告げた。


 そんなことを、認められるはずがない。


「無茶かどうかは俺が決める。あの怪物を倒すのも、お前らを助けるのもこの俺だ。それだけは誰にだって邪魔させやしない」


 防壁発動。

 ズーヘン達300余名をまとめて包み込む。

 創造発動。

 一振りの剣を生み出す。

 貧困なイメージ力の影響かあまりいい出来ではないが、この瞬間くらいは耐えてくれるだろう。

 剣術、空間魔法を併用発動。

 想像するのはリーネの、美しい戦う姿。


「――――空斬」


 数百の斬撃を同時に放つ。

 たったそれだけで剣は粉々に砕けた。

 目の前のフィーネスはこの空間の地面や壁に根を張っている。

 その接触面を切り離す。

 終焉樹からフィーネスへの魔力供給が断たれる。


「防壁」


 続けて、再び防壁を使用。

 巨大なドーム状に発動する。

 地面や壁、天井に添うように展開していく。

 防壁の内部には、トモヤとフィーネスしか存在しなかった。


 これでもう。

 どれだけの威力の一撃を放とうが、周囲に影響が出ることはない。


『――――――――――――!!!!!』


 魔力供給が断たれ、異常を察した怪物は悲鳴を上げながら行動を開始する。

 体中から数十数百の巨大な枝の腕を生み出し、その全てをトモヤに向けて放つ。

 尋常ならざる殴打の数々を前にして、トモヤは小さく構えて――呟いた。




「攻撃ステータス・∞」




 全てが弾け飛んだ。


 世界すら消滅させる一撃が全てを押し潰していく。

 殴打により生み出された衝撃の奔流は防壁内を際限なく駆け巡り、途方もなく渦巻いていく。

 フィーネスの巨体は一瞬で塵になり――塵は分子に、分子は素粒子に、素粒子はその構成要素たる魔力に――最後には魔力すら存在そのものが消滅する。

 万物が、永久に葬られた。


 その空間内で抗うことの出来る者など誰一人として――否、防御ステータス・∞の持ち主以外には存在しない。


 ――――全てが終わった後に残ったのは、トモヤただ一人。



 こうして、終焉樹内での全ての戦いが幕を閉じた。

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