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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第二章 東大陸編
36/137

36 使役魔物

 迷宮に潜り始めてから一時間。

 それだけの時間でトモヤ達はフィーネス大迷宮10階層に辿り着いていた。

 下に行けば行くほど魔物が強くなるという構造上、上階層の方が冒険者の数は多くなり、魔物も狩り尽くされてしまう。

 それ故に、トモヤ達は1桁階層を無視し真っ先に10階層まで降りてきたのだ。

 ここなら冒険者の数も少なくなるし、ルナリアでも戦える魔物が多くいる。


 終焉樹内部は不思議な構造をしていた。

 漆黒の地面、漆黒の壁。だというのに通路などは光に満ち視界は明瞭である。

 終焉樹が内包する魔力の関わりがどうのこうだのという説明をリーネから聞いてはいたが、トモヤが深い理解を得ることは出来なかった。

 この世界の知識や常識は、どうやらトモヤではなくリーネの領分のようだった。


 そんなこんなで、細かい話はなしにして。

 ルナリア育成計画を絶賛開催中なのであった。



「ホーリーボール! ホーリービーム! ホーリーパンチ!」


 光の球体が、光の線が、光のパンチが魔物を打ち抜いていく。

 光のパンチって何だろうってトモヤは思った。

 無論、ルナリアが神聖魔法をその拳に纏わせて放った一撃である。

 一番攻撃力が高かったのも気になるところだった。


「トモヤたおせたよ!」

「その言い方だとまるで俺を倒したみたいだけど。うん、よくやった」


 トモヤの前にまで駆け寄って来たルナリアの頭を優しく撫でる。

 既にルナリアの神聖魔法はLv2にまで上昇した。

 それに加え、Cランク冒険者に匹敵するほどの魔力ステータスによって神聖魔法の威力はさらに高まる。

 Dランク上位の魔物までなら、問題なく倒せるようになっていた。


「うん、神聖魔法は滞りなく使えるようになったようだな。なら次はこちらも試してみよう」


 そういってリーネが取り出したのは二枚の魔法紙だった。

 召喚魔法陣が描かれている。


「結局、この前はノームが現れたおかげで召喚魔法を正しく検証することができなかったからな。ここらでもう一度試しておいてもいいだろう」

「……たしかにそうだな。ルナ、できるか?」

「うん! 任せて!」


 力強くそう応え、ルナリアは地面に開いた二枚の魔法紙の上に手を乗せる。

 そんな彼女のそばで、リーネは諭すように告げる。


「前回とは違い、今回は直接戦力になる魔物を呼んでみよう。自分の力になってくれる存在を願うんだ」

「……やってみるね」


 ルナリアは目を閉じ集中する。

 数十秒をかけ、じっくりと魔力を注ぎ込む。

 すると魔法紙は眩い光を放ち――次の瞬間、そこには二体の魔物が現れた。


「グォー!」

「ぴーぴー」


 その巨体を茶色の毛並みで覆い、巨大な牙を携えたイノシシの魔物・《ラッシュボア》――Cランク上位指定。

 小さな身体に色鮮やかな虹色の羽毛を纏う鳥の魔物・《レインボーバード》――Cランク中位指定。

 ラッシュボアはルナリアのそばに寄り添い、レインボーバードはルナリアの肩に乗る。どうやら気性の荒い魔物達ではないようだ。

 その様子を見てトモヤが一安心していると、その横でリーネは満足気に頷く。


「呼び出す魔物のランクもなかなか。相性も良さそうだ――うん、悪くない。初めての召喚にしては優れているんじゃないか」


 ナチュラルにノームを呼び出したときのことを召喚回数からはぶいているリーネだったが、トモヤもその方針には文句がなかったので気にしないことにした。

 魔物を召喚することに成功した今、問題はきちんとその魔物達を使役できるかどうかだ。


「ルナ、その魔物達と意思疎通はできるのか?」

「うん、できるよ! こっちの子はシュアって言うんだって! 『俺様の牙に貫けないものはないぜ! 任せやがれ! ひゃっはー!』って言ってるよ」

「キャラ付けが凄い」


 想定をはるかに超えた返答に呆然としていると、続いてルナリアは肩に乗るレインボーバードに視線を向ける。


「それでこっちはボーバーだって! 『わたくしの華麗な舞に見とれぬオスは一人たりともいなくてよ!』って言ってる! なに言ってるのかわかんない!」

「そいつキャラと名前ちょっと噛み合ってないけど大丈夫なのか? それとルナの感想、案外辛辣なんだけど……」


 トモヤの否定的なツッコミが癇に障ったのか(そもそも言葉の意味が通じているのかすら怪しいが)、ラッシュボアのシュアとレインボーバードのボーバーが気に食わないとばかりに、トモヤに向けて嫌がらせをしてきた。

 シュアはその巨大な牙でトモヤをつつき、ボーバーはトモヤの目の前で華麗に舞った。

 シュアはともかく、ボーバーが何をしたいのかトモヤには全く分からなかった。

 ルナリアはその光景を楽しそうに眺めていた。


 そんな風にわちゃわちゃとしているトモヤ達のそばで、リーネは感心した表情を浮かべていた。


「これは驚いたな。ルナはそこまで深く使役魔物の思考を読み取ることが出来るのか。通常はうっすらと感情が分かる程度だと聞いていたが」

「そんなに凄いのか?」

「凄すぎる、と言ってもいいレベルだな、うん」

「私、すごいの?」

「リーネ曰くそうみたいだな。さすがルナだ」

「えへへ、うれしいな!」


 ルナリアを褒めたたえるトモヤとリーネに賛同する様に、シュアとボーバーがそれぞれ鳴き声をあげる。

 全員がただの親バカと化していた。


「よし、そろそろ先に進むか」


 パーティが三人と二体になったトモヤ達は、さらに迷宮を下り始めた。

 その途中で、召喚した魔物達がどの程度戦えるのかを確かめながら。



 二時間後、トモヤ達は30階層に到着した。

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