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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第二章 東大陸編
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27 白神子美少女成長記

 トモヤの氷魔法がグラウンドリザードの群れを一蹴した。

 その光景を目の当たりにした皆は暫く間抜けな表情を浮かべていたが、我に戻った者から歓声を上げ始める。


「すげー! 瞬殺じゃねぇか!」

「グラウンドリザードの群れを一撃で倒すなんて見たことねーぜ!」

「何あの氷の塊! 凄すぎるわ!」


 誰もがトモヤの活躍を褒めたたえ、わいわいと騒ぐ。

 そんな中、やはりというべきかルナリアが一番嬉しそうな顔でトモヤのお腹に抱き着いてくる。

 彼女は綺麗な碧眼をトモヤに向けていった。


「かっこよかったよ! トモヤ!」

「……そうか」


 クールを装おうとしつつも、実際は傍から見ても丸わかりなほどに表情を緩めながらトモヤはルナリアの頭を撫でた。

 白銀の髪をすくようにして撫でるとルナリアは、んーと嬉しそうな声を漏らしていた。ふと、それを隣からリーネが羨ましそうに眺めているのにトモヤは気付く。

 だが、トモヤとルナリアのどちらに対する視線なのかは分からなかった。

 ルナリアの頭を撫でたいだけの可能性が高い。


「そうだ! みんなのケガ治さなくちゃ!」


 ルナリアはそう言ってトモヤから離れると、怪我を負った冒険者たちのもとに駆け寄っていく。

 幼い少女の存在に皆は驚くが、彼女が治癒魔法の使い手だと分かり納得した表情を浮かべていた。

 なんだか孫に向けるような視線の者もいる。

 そこでふとトモヤは気付いた。


「なあリーネ、ルナってあんな怪我も治せたっけ?」

「ん? いや、先ほど試したときは無理だったはずだな」


 ルナリアはかすり傷だけでなく、なんと骨折などの大怪我をした者まで治していた。

 なぜ突然そんなことが可能なのだろうか。そう考える中でトモヤの頭にその可能性が浮かぶ。


「まさか」


 小さく呟き、トモヤはルナリアに鑑定を使用した。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 ルナリア 12歳 女 レベル:38

 職業:白神子

 攻撃:1050

 防御:1260

 敏捷:1200

 魔力:4500

 魔攻:3200

 魔防:3480

 スキル:治癒魔法Lv3・召喚魔法Lv2・神聖魔法Lv1・隠蔽Lv1・神格召喚


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「え、えぇー」


 それは、トモヤがこの世界に来てから一番の驚きと言ってもよかった。

 100体以上のBランク魔物を倒した影響か、ルナリアのレベルが途轍もなく上がっていた。

 治癒魔法に至ってはLv3だ。効果が強まっている理由を納得した。


「どうしたんだ、急に変な声を漏らして」

「実はな……」


 きょとんとするリーネにいま見た結果を伝えると、彼女は少しの呆然とした表情のあと笑みを浮かべた。


「ははっ、そうか。つまりこの一日でルナはレベルが30も上がったんだな。うん、それはいい。ルナの戦力向上の課題に関しては順調じゃないか」

「そうだな。けどステータス的にはもう少しレベルを上げたいところだけどな」


 以前から分かっていたことだが、ルナリアはレベルに対してステータスが低い。

 彼女の安全をもっとしっかりと保障できる段階にまで引き上げたいとトモヤは考えていた。


「そのためには、もっと魔物討伐とかも頑張らないとな」


 そう言って、トモヤは腰から剣を抜き、誰もいないところに向けてカッコつけるように何気なく素振りを行い――


「……あ?」


 ポキリと、その刀身が折れる様を目にした。



 剣を振るう際の力が高すぎる。

 刀身が折れた理由はそんなところだろうとリーネは推測していた。

 今後、金貨20枚を超える名剣を買っても同じことになるだろうともトモヤに告げていた。


 それを聞いたトモヤはしょんぼりとしていた。

 別に剣がなくても正直、戦闘時に困ることはない。

 むしろいつ折れるかどうか分からない剣で戦う方が危険だ。

 トモヤが剣を扱いたいというのは、ファンタジー作品を見たことのある者なら誰もが一度は抱く、純粋な剣への憧れによるものだ。


「だいじょうぶ、トモヤ? どこか痛いの?」

「天使だ……」

「? まぞくだよ?」


 落ち込むトモヤに対して、ルナリアは必死に背伸びをしてトモヤの頭を撫でていた。彼女の優しさがトモヤの心を完全に満たす。

 リーネはその光景をどこか呆れたように眺めていた。


 ルナリアに頭を撫でられるうちに、トモヤはようやく諦めがつくようになった。

 そうだ、自分は何を考えているのか。目の前にいるこの少女を守ることを何よりの優先事項にすべきだろうと自分自身に告げる。


 そんな中、これまで無言を保っていたその少女が動いた。


「ひ・ら・め・い・たぁぁぁあああああ!」

「うわっ」


 これまで静かだったはずのノームは、茶色のツインテールをぶんぶん振り回して飛び跳ねていた。

 周りから奇異の視線を集めているが気にした様子はない。

 ちなみに揺れる程の胸はなかった。


「ねえねえちょっと聞いてよ! いいこと思い付いたんだよ!」

「……なんだよ」

「うーわそんな邪険な反応しちゃって。ルナリアちゃんのレベルアップのために効率的で、さらにあなたが使っても壊れないような剣を作れる素材がある場所を教えてあげようと思ったのに!」

「っ、本当か?」


 それが本当の話ならトモヤとしても気になるところだった。

 その問いに対してノームはうんうんと頷き、言った。


「フィーネス大迷宮――そこに、あなた達の求める物があるよ。だからちょっくら攻略してきてくれないかな? かな?」


 それはトモヤにとって聞き覚えのない単語だった。


「フィーネス大迷宮……リーネ、知ってるか?」

「当然だ。むしろトモヤが知らないことの方が驚きだが……世界樹ユグドラシルと対となる、終焉樹しゅうえんじゅフィーネスによって生み出された迷宮のことだ」

「終焉樹」


 何だか中二心をくすぐられる名前だった。

 詳しい話は後にすると言った後、リーネはノームに向き合う。


「しかし、なぜ貴女はフィーネス大迷宮を攻略しろと? あの迷宮に現れる魔物は強力でルナのレベルアップには最適かもしれないが、武器の素材が取れるという話は聞いたことがない」

「それはね~、その素材があるのは迷宮の最深部だからだね! まだ誰も攻略したことのない迷宮だから知らなくて当然だよ!」

「それなのにどうして、貴女はそこに素材があることを知って……ん?」

「ふえっ?」


 リーネとノームが言葉を止め素っ頓狂な声を上げるのには理由があった。

 突然、ノームの足元に白色に輝く魔法陣が出現したからだ。

 少し呆然とした後、ノームははっと表情を変える。


「これ強制送還のやつ!? うっそなんで私の居場所がバレたのー!?」


 叫んでいる間にも、彼女の身体は少しずつ魔法陣から放たれる光に包まれる。

 一瞬は助けようと思ったトモヤが手を差し伸べようとするが――


「あーあ、絶対に仕事サボったの怒られるやつだこれ! またエルトラさんに変なコスプレさせられるやつだ!」


 ――セリフの内容が少し興味深かったので手を引いた。


「え、なに、お前これからコスプレさせられるのか?」

「そうなると思うよ経験的に!」


 どんな経験だ、というツッコミは何とか抑える。

 ノームの表情には諦めの色はあるものの絶望に似たものはない。

 それらを含めたノームの反応から、この魔法陣が彼女に敵対的なものでないとは理解できた。

 そして。


「じゃあそういうことだから今回は私は帰らせてもらうね! ただフィーネス大迷宮を攻略することだけは忘れないで! いいことあるから絶対ファイトだよ! あとルナリアちゃんまた会おうね!」


 畳みかけるようにノームは最後にそう言い残し、魔法陣と共に姿を消した。

 その場に取り残されたトモヤ達の間には気まずい雰囲気が流れる。


「その、何ていうか……」

「うん、不思議な方だったな、色々な意味で」


 ノームに対して誰もが抱くであろう評価を下すトモヤとリーネ。

 そんな二人の横で、ルナリアだけが楽しそうに言った。


「楽しい人だったね!」

「……ん?」


 どうやら、ルナリアはノームのことを気に入ったらしい。

 そういえば、とトモヤは思い出す。

 ルナリアが召喚魔法を扱う前に、たしか彼女は“一緒にいて楽しい人”に来てほしいと言っていたような。

 奇しくも、彼女の願いは叶えられたようであった。


 ただ、トモヤは最後に一言。


「世界神エルトラ……か。色々と、聞き逃したかもな」


 誰にも聞こえないほど小さな声で、そう呟くのだった。

ファーネス大迷宮の説明はもう少し後にします。


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