134 三姉妹、揃い踏み エトランジュ編
メルリィ編とお知らせしていましたが、話の展開上エトランジュ編と銘打った方が合っている気がしたので変更させていただきました。
その分話は膨らんでいます。どうぞお楽しみください!
「んー、結構疲れたな。そろそろ寝るか」
フラーゼと共に魔道具作成に励むこと数時間。
彼女が満足いく試作品を幾つか作れたところで、今日はお開きになった。
その際、フラーゼがトモヤに対し「べ、べべ別に、この後トモヤさんがアタシの部屋に来ちゃってもいいんすよ……っていない!?」とかなんとかと叫んでいた気がするが、内容が分からなかったためその場を退散することにしておいた。
自室へと戻る途中、ふとトモヤはあることを思い出す。
「そういえばメルリィは何でシアを呼びに来たんだろ? せっかくだし尋ねてみるか」
普段シアの寝室などに単独突入すれば何が待っているか分からないが、今回はメルリィと同室のため急に襲い掛かられたりすることはないはずだ……だよな?
少々不安に感じながらも、トモヤはシアたちの寝室を目指す。
既に寝ているようならば、そのまま自室に戻ればいいと考えるトモヤだったが。
「もう一度聞かせて、なぜここにいる」
「ふふっ、何度でも言ってあげるわ。嫌がろうと逃げられようと、地の底まで追ってあげる!」
部屋の中から緊張感に満ちたシアの声と、聞きなれない声がする。
メルリィのものではないということだけは分かった。
「まさか侵入者でもいるのか? おい、俺だ! 中で何があった!?」
無断で女性の寝室に入る訳にもいかず、確認のため扉の外から問いを投げかける。
もしもの際には力ずくで突入する覚悟はあったが、今回はそのような状況ではなかったらしい。
ガチャリという音と共に扉が開かれ、ひょこっと頭が出てくる。
深い青色の髪と瞳を持った可愛らしい少女、メルリィだ。
「お義兄さま?」
「うっ、その呼び方まだ続いてたのか。まあそれはいい、中はどうなってるんだ?」
中を覗いてみると、そこには想像を超える光景が存在していた。
輝くセルリアンブルーの長髪を靡かせる、落ち着いた雰囲気が特徴的な少女シア。
トモヤが驚いたのは、彼女の前にいる人物についてだった。
シアとメルリィの髪色のちょうど中間程度の青さの髪を肩甲骨辺りまで伸ばし、理知的な瞳がシアに向けられている。
小さな笑みが浮かべられたその容姿はシアにそっくりで、彼女があと何年かすればこうなるんじゃないかと思ってしまう程に大人びている。
目に映る情報をまとめると、彼女の正体が何者か見極めるのは容易だった。
いつの日か話を聞いた、シアとメルリィの姉、マーレだろう。
しかしトモヤが驚いたのは、そんな彼女を見た覚えがあったからだ。
それは――
「フィーネス国にいた、店員さん?」
終焉樹を攻略後、アンリと共に入った店にいた、よくわからない言動が印象に残っている女性。
その女性はトモヤに視線を向けると、驚いたように目を見開いた。
「貴方がトモヤね。まさかシアの彼氏が、あんな小さな女の子とデートするようなロリコンさんだったなんて……」
「待て、何を言ってるんだお前は」
聞き流せない言葉が幾つも聞こえた気がする。
色々と混沌の中にある部屋の中で、シアが小さくため息を吐いた。
「はあ、姉とトモヤを会わせたくはなかったのに……まだ私とトモヤは付き合っていない。まあそれも時間の問題だけど。何度言えば分かるの」
「あ、あはは。どうなるんでしょうね、これ」
そんなシアの背中を撫でながら、メルリィも困ったようにそう呟いた。
この場で一番の常識人であるメルリィにそんな反応をされてしまうとはと、戦々恐々とするトモヤだった。
それから数分後。
エトランジュ三姉妹からこの状況に至る過程を事細やかに聞くことになった。
メルリィがブラストスライムに襲われ、シアがトラウマを負うことになったあの日。
マーレは一人ルーラースライムの存在に気付き、単独で戦闘を挑み勝利した。
あれほどの強敵を倒したことにトモヤが驚いていると、マーレは得意げに鼻を高くした。
「なるほど。強いんだな、マーレ」
「あら、そうかしら? 自分ではそんなに強いとは思ってないんだけど、そこまで言われちゃうか~いや~まあ、悪い気はしないけど? けど?」
「本音を一ミリも隠せてない謙遜だ……」
もっと褒めて褒めて! という感情が手に取るように分かる。
マーレは調子に乗ったのか、続けて告げる。
「まあ確かに、弱くはないのかもしれないわね。ふふっ。あの国にいたトモヤなら終焉樹の難易度を知ってるかもしれないけど、私は単独で七十階層までいけちゃったからね」
「は、はぁ……」
「といっても、そこまで褒められたものじゃないかもしれないけどね。終焉樹でちょっとした事件が起きたの覚えてる? あの時最下層に取り込まれた中の一人がダンジョンボスを倒しちゃったみたいだからね。さすがに私でもそれは難しいかなーって。あら、顔色が悪いけどどうしたの?」
「いや、何というか……」
終焉樹と自分のかかわりについてどう説明しようと悩むトモヤの横で、シアが迷いなく告げる。
「残念だけど、お姉ちゃん。その終焉樹を攻略したのがトモヤ」
「……え?」
「そこで手に入れた核を武器にしたくて、私のもとにきた。お姉ちゃんじゃ、トモヤには勝てない」
「……マジで?」
「マジマジ」
びっくり、と口に出して驚きを露にするマーレに対し、シアは優勢を悟ったのか色々な内容で言葉責めしていく。
それをトモヤとメルリィは二人並んで眺めていた。
「なんだかマーレお姉さまが説明できる状況ではないので、私から続きを話しますね」
「ああ、頼む」
ルーラースライムを無事に倒したマーレだったが、当時のシアの状況などから、自分がセルバヒューレから離れることでシアの自立を図ったらしい。
旅立ちの行先に選んだのが東大陸で、運よく雇ってくれた店のあるフィーネス国に滞在していた。
しかしある時を境にスライム種がよくマーレに襲い掛かってくるようになる。
昔に戦ったルーラースライムを思い出したマーレは嫌な予感がし、急遽セルバヒューレに帰還した。
しかしセルバヒューレに辿り着いた時、全ては片付いた後だった。
マーレに配下のスライム種を遣わしていたルーラースライムは消滅し、シアはトラウマを解消してくれたある男の子についていって村を出たという。
びっくり驚愕しながらも、マーレは安堵と同時に自分がセルバヒューレに戻ってもいいのだということを悟る。
世界樹の守り人にも復帰し悠々自適に暮らしている中、トモヤからメルリィに対し、ルナリアの誕生日会の招待があった。
「本当は一度マーレお姉さまもお誘いしたんです。久々にシアお姉さまにお会いするのはいかがですかって。その時は行かないと返事をされたんですが、何故か今日になって突然現れて……」
曰く『え? だってドッキリの方が嬉しいでしょ♪』とのことらしい。
突然の登場に驚いたメルリィが、シアを呼びに来たのが数時間前の真実だったらしい。
説明を聞き終えたトモヤは、いろいろな意味で頑張ってくれたメルリィに感謝の気持ちを込め、優しく頭を撫でた。
「説明ありがとうメルリィ。すごく分かりやすかったよ」
「と、トモヤお義兄さま!? べ、別に私は誉められたかったわけではな……けど、嬉しいです。ありがとうございます。えへへ」
頬を赤く染め照れながらも、嬉しそうに年齢相応の笑みを零すメルリィ。
そのあまりもの可愛らしさに、思わず頭を撫でる手の動きが早まる。
「お、お義兄さま?」
「はっ! わ、悪い、メルリィが天使すぎてつい」
「分かる」
「分かるわ」
「は、はぁ。天使、ですか……」
俺の感想を聞き、言い合いを止め同時に頷くシアとマーレ。
その様子を見てメルリィは不思議そうにきょとんと首を傾げていた。
ほっこりとした空気の中、突然マーレが立ち上がる。
「さあ、面倒な説明をメルリィがしてくれたところで、トモヤに言いたいことがあるわ」
「はあ」
まさか説明をメルリィにさせるためにシアと言い合いをしてるフリでもしていたのだろうか?
だとしたら随分と策士だ。侮れない。
そんな彼女から一体どんな言葉が出てくるのかと待ち構えていると、マーレは斜め上の発言をする。
「シアはね、人を見る目がある子なの」
「えっ?」
それはトモヤでもマーレでもなく、シアについてだった。
「そんなあの子が好きになったんだもの、私も貴方を認めるわ」
「……お姉ちゃん」
「シアはまだ付き合っていないって言うけど、それも時間の問題よね? というわけでトモヤ、実質、私は貴方のお義姉ちゃんよ。存分に甘えなさい」
「――――」
ほとんど初対面の相手に、何を求められているのだろうか。
認められるのは嬉しいが、戸惑いを隠しきれない。
それにしても、つい最近誰かに似たような言葉を言われたような気がするな……とトモヤが思った瞬間だった。
ガチャリと、扉が開かれる音がする。
「なるほど、新しい姉ですか。そう簡単に認める訳にはいきませんね」
「ふえっ? あっ、トモヤだ!」
トモヤが頭で思い浮かべたからではないだろうが(そう信じたい)、そこには真剣な表情を浮かべるテラリアと、その背中からぴょこっと顔をのぞかせるルナリアがいた(可愛い)。
テラリアは何故か状況を呑み込めているのか、まっすぐマーレのもとに向かう。
そして高らかと宣言する。
「トモヤくんのお義姉ちゃんの座は私のものです。貴女には渡しません!」
「へえ、言うわね。いい度胸よ、気に入ったわ!」
見つめ合う両者(熱い眼差し)。
それをきょとんと首を傾げて眺めるルナリア(可愛い)。
はあと額に手を当てるメルリィ(苦労人)。
いつの間にかトモヤのすぐ横に陣取っているシア(目ざとい)。
かくして混沌と不可解な状況の中、姉大戦が勃発した。




