132 一緒につくろう アンリ編
『61 激闘の予感』を読んでからこの回を読むと面白くなるかもしれないし、ならないかもしれない。
「アンリ! これ、どうするの?」
さらさらとした白銀の髪を小さく揺らし、深い海のような碧眼を持つ少女の名はルナリア。
言わずとも知れた、トモヤにとって特別な存在。
「あ、それはね、次にこれを入れて混ぜるの。お願いしてもいい、ルナちゃん?」
「うん、任せて!」
調理用のヘラを手に持ったままルナリアに指示を送る、青色の髪を二つ結びにした可愛らしい少女の名はアンリ。
かつてトモヤ達が立ち寄ったフィーネス国にある宿屋の一人娘で、特にルナリアと意気投合し何度か一緒に料理を作っていたほどの仲だ。
今回に至っても例にもれず、二人は楽しそうに調理をしている。
その光景をキッチン前のテーブルに座りながら見ているのがトモヤと、そして――
「……ふっ、やはり無垢なる少女が努力する様は尊く美しい。そうは思わないか、同士よ」
「誰が同士だ。ていうか何でお前がいる」
――金髪の爽やか系イケメン、金聖のエルトであった。
覚えている人は覚えているかもしれない。かつてユミリアンテ公国にて、トモヤと鎬を削った史上最大のライバルである。
違う。
そんな風に混乱してしまうくらい、トモヤにとって理解できない状況だった。
そもそもトモヤは誕生日会にエルトを誘った覚えはなかった。
なのにエルトはいつの間にかそこにいた。
恐ろしい。何か見えざる力が働いているようにしか思えない。
さらにエルトは昨日のトモヤとルナリアの会話から、トモヤが自分の同士であると思ったらしい。
つまりはトモヤをロリコンだと思っているのだ。
反論しなければならなかった。
トモヤはロリコンではない。ただ純粋にルナリアを愛しているだけだ。
ただルナリアの風になびく白銀の髪を、透き通るような青色の瞳を、ふっくらとした可愛らしいほっぺたを、元気に飛び跳ねる様を、明るく話す様を、太陽のように明るい笑みを、夜空に浮かぶ月のような優しさを心から愛しているだけだ。
「くっ、あまりの尊さに涙が溢れてきた。ここは一旦退かせてもらおう」
他人が聞けばロリコン認定どころではすまないようなことを心の中で主張している途中、エルトはどこかに消えていった。
その直後、ルナリアとアンリが料理の乗ったお皿を持ってやってくる。
「おまたせ、トモヤ! できたよっ!」
「どうぞトモヤさん!」
「ありがとう、ルナ、アンリ」
「どういたしまして、だよっ!」
「はい! あ、そういえばここにいたもう一人の方はどこに行ったんでしょう? 一応あの方の分も作ったんですが」
「そこに置いといてくれ。たぶんそのうち帰ってきて喜んで食べるはずだ」
ルナリアとアンリが作っていたのは、パンケーキのようだ。
綺麗な焼け目に目を引かれ、甘い香りが食欲を湧き立たせてくれる。
さっそくナイフとフォークを持つ。
「それじゃさっそくだけど、頂きます」
「めしあがれっ!」
「美味しく出来ていたらいいんですけれど……」
ワクワク顔のルナリアと、緊張した様子のアンリの視線を受けながら、一口サイズに切って食べる。
ふんわり食感が楽しく、噛むごとに優しい甘みが口いっぱいに広がっていく。
生地に工夫がしてあるのか、普通に食べるよりもふわふわなように感じた。
「うん、美味い!」
「でしょー!」
「本当ですか、トモヤさん? よかったです」
二人は満足そうに笑った後、自分たちの分を食べ始める。
三人で舌鼓を打ちながら食事は進んでいった。
そして食べ終えた後。
ルナリアはトモヤの膝に乗り、隣の椅子にアンリが座った状態で会話は続く。
「それにしても、本当に美味かった。アンリの腕も上がってるんじゃないか?」
「えへへ、そう言っていただけると嬉しいです。実はお店の方でも、私が作った物を売ってもいいと言われるようになってきたんです」
「そうなのか? すごいな」
「いえ、まだほんの少しメニューだけですから! でもやっぱりお客様に喜んでもらえたらすっごく嬉しいんです。頑張ろう、って気持ちになりますから」
そう言うアンリからは、自分の仕事を誇りに思う者の意思が感じられた。
それを聞いたルナリアがぱあっと目を輝かせる。
「そっか、すごいねアンリ! じゃあ、他にもいっぱいつくれるの?」
「ありがとうルナちゃん。うん、練習中のも含めたら色々とね」
「じゃあ、いっしょにつくろ!」
「うん、そうだね」
楽しそうに話す二人の様子を見てほっこりする。
すると、扉の開く音が飛び込んでくる。
アンリはそちらに視線を向けると、嬉しそうに笑う。
「リーネさん!」
「アンリか。ふむ、今はルナと一緒に料理でもしていたのか」
「そうです! あ、えっとえっと、よかったらこれ、冷めてますけどどうぞ!」
「ありがとう。頂こう」
アンリからリーネに渡されたのは、エルトのために置いていたはずのパンケーキだった。
いつまで経っても帰ってこないから仕方ない。
パンケーキはリーネさんが美味しく頂きました。
「うん、美味い。しかしこうなってくると、アンリが作る他の料理も気になってくるな」
「あ、それでしたら夕飯もぜひ、私に作らせてください!」
「お願いしてもいいのか?」
「もちろんです!」
「ねえアンリ、わたしも手伝うよっ!」
「うん、ルナちゃん、一緒に頑張ろうね!」
三人が楽しそうに話し合う光景を眺めていると、アンリが恐る恐るといった風にトモヤを見る。
「あの……もしよかったらトモヤさんも、食べてくれますか?」
どうしてか、少し不安そうに尋ねてくるアンリに、力強く答える。
「もちろんだ。楽しみにしてるぞ、アンリ」
その答えに、アンリは満面の笑みを浮かべる。
「――はい! 腕によりをかけて作りますね! トモヤさん、リーネさん!」




