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131 陽だまりの下で シンシア編

 ルナリアの誕生日会の後、トモヤ達はそのまま誕生日会のために建てた建物に泊まった。

 無理を言って連れてきた者たちは、それぞれの都合に合わせて順番に送り返さなくてはいけない。


 そうはいっても皆、久々の再会に喜んでくれているらしい。

 しばらく滞在したいといってくれる者も多かった。

 非常にありがたいことだ。


 そんなこんなで皆が交流を深める中で、トモヤ、リーネ、ルナリア――そしてシンシアの四人は、ゆっくりと談笑しながらお茶を楽しんでいた。


 トモヤはちらりとシンシアに視線を向ける。

 ウェーブした美しい金髪が腰元まで伸ばされ、深い青色の瞳が印象に残る。


「? どうかしましたか、トモヤさん?」


 視線に気付いたシンシアが、首を傾げながら訪ねてくる。

 見ていたことがバレて、少し恥ずかしいとトモヤは思った。


「いや、このメンバーで集まるのも本当に久しぶりだなって」


 トモヤは他に考えていたことをシンシアに告げた。

 この世界に来てまだ右も左も分からなかった時にこの三人に出会って、トモヤはこの世界で生きる意味を見つけることができた。


「そうですね。トモヤさん達が旅に出られてからはもう数ヵ月経っていますから」

「そうか。しかし私は数ヵ月にしては随分と濃い時間を過ごした気がする」

「ふふ、そうですね、リーネさん。きっとトモヤさんと一緒にいれば、退屈な時間なんてないでしょうから」

「うん、確かにシンシアの言う通りだ」


 あははと、楽しそうに笑い合う淑女たち。

 自分が話題に出ていることに気恥ずかしさを感じるトモヤだった。

 逃げるように視線を横に向けると、そこにはケーキを美味しそうに食べるルナリアがいた。

 可愛い。癒される。


「ほらルナ、こっちのも食うか?」

「いいの!? ありがと、トモヤ!」


 ぱあっと満面の笑みを浮かべるルナリアを見て、トモヤまで笑ってしまう。

 るんるんと頭を揺らすルナリアの口元に、ケーキを刺したフォークを運ぶ。


「ほらルナ、あーんだ」

「あーん。もぐもぐ」

「どうだ?」

「おいしいよ! えへへ」


 なんて幸せな時間なのだろうか。

 永遠に続けばいいのにと思えるくらいだった。

 とりあえず、さらさらな白銀の髪を撫でておくことにする。


「またいちゃついている……」

「本当ですね。駄目ですよトモヤさん、お付き合いされている方の前でそんなにデレデレな表情をするなんて」

「なっ、シ、シンシア!? 一体いつから気付いて」

「見ていれば分かります。お二人の距離感がとても近づいているように見えましたから」


 リーネは顔を真っ赤にしながら照れていた。

 なお、それを見ていたトモヤもである。

 付き合っていることを周りから指摘されるのが、こうも気恥ずかしいものだとはこれまで思ってもいなかった。


「ねえ、シンシア。トモヤとリーネ、なんで顔が赤いの?」

「それはですねルナさん、お二人がいま熱々の時期だからです」

「あつあつ? そっか、あついから赤くなってるんだ」

「ふふっ……そうですね」


 何だかおかしな結論を出されている気がするが、あながち間違いではないから否定しきれない。

 ルナリアを膝に乗せ、楽しそうに微笑むシンシアを見ていたら文句を言う気にはなれないと思うトモヤであった。


「けど、やっぱりなんですね。トモヤさんさんとリーネさんが……」

「シンシア?」


 シンシアの様子に違和感を覚えたため呼びかけると、彼女は小さく笑みを浮かべながらトモヤとリーネを見る。

 笑っているが、真剣な表情であることはすぐに分かった。


「リーネさん、よかったトモヤさんと二人で話す時間をもらってもいいでしょうか? 不躾なお願いだとは思いますが」

「……何を言っているんだ君は。もちろん構わない。色々と話したいことがあるのだろう?」

「ありがとうございます、リーネさん。トモヤさんもよろしいですか?」

「ああ」


 リーネが許可を出したが、もちろんトモヤも構わなかった。

 二人きりで話したいことがあるのはこちらも同じだ。


 シンシアは椅子から立ち上がると、トモヤに向けて告げる。


「それでは行きましょうか、トモヤさん」

「場所を代えるのか?」

「ええ。大丈夫ですか?」

「もちろん」



 建物の外に出て、陽光が照り映える大地を歩く。

 何もない荒野だが、それでも世界の広さだけは訴えかけてくれる。


「ありがとうございます、トモヤさん。わざわざ付き合っていただいて」

「いや、俺もこんな時間が欲しいと思っていたから嬉しいよ」

「っ、だ、駄目ですよトモヤさん! トモヤさんにはリーネさんがいますし、それにこんな大空の下でなんて……」

「シンシアさん?」


 何か不思議な勘違いしているような気がしたので、とりあえず呼び止めることにした。

 シンシアははっと立ち止まり、顔を赤くして俯く。


「も、申し訳ありません。つい浮かれてしまって」

「いや、大丈夫だ」


 そうは言ったものの、不思議な雰囲気の時間が訪れる。

 そんな中、何もない荒野を前にトモヤは昔のことを思い出した。


「そういえば、シンシアと初めて会ったのも街中とかじゃなくて、こんな場所だったんだよな」

「! そうですね、確かグレイウルフに襲われていた私とルースをトモヤさんが助けて下さって……そうして出会ったんですよね」


 シンシアは懐かしさを噛み締めるような表情を浮かべていた。


「それからいろんなことがありましたね。一緒に買い物したり、冒険者ギルドに行ったりして。そこで出会ったリーネさんと一緒に依頼を受けたかと思えば、ルナさんを連れ帰ってきて本当に驚きました。けれど全く嫌な時間ではなかったんです。すごく充実した、幸せな時間でした」


 そう言いながら微笑むシンシアは、目を引かれる。


「いつだったかトモヤさんは言ってくれました。領主の娘として家から出られない私を外に連れて行ってくれると。そして、こうして私は今ここにいます。ルナさんの誕生日を祝うためですから、観光などとは違いますが、トモヤさんは約束を守ってくれました。それが凄く嬉しくて、同時にもっと願ってしまいます」


 シンシアは両手を背中に回し、くるりとトモヤに体を向ける。

 陽光を受け、彼女の美しい金色の長髪がさらなる輝きを纏っていた。

 そうして微笑む彼女からは、これまでとは違ういたずら好きな少女のような印象を受けた。

 まるで絵画に出てくる女神のような姿に見惚れるトモヤに向けて、シンシアは告げる。


「ねえ、トモヤさん。これから何度でも、私をこうして連れ出してくれますか?」


 その答えは考えるまでもなく一つしかなかった。


「もちろん。何度も、何度でも。シンシアが望む限り、俺は約束を守り続けるよ」

「……ふふっ、嬉しいです」


 そう言って、シンシアは満面の笑みを浮かべる。

 ルナリアに渡したカメラを持ってきていないことが悔やまれるほどの、美しい姿だった。

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◇『ステータス・オール∞』3巻の表紙です。
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