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ステータス・オール∞  作者: 八又ナガト
第四章 中央大陸編
130/137

130 だいすき

 目まぐるしい毎日が過ぎ去っていた。

 魔王軍幹部から一つの町を救い、旧友と再会し、魔王本人と戦い、大切な少女と想いをぶつけ合った。


 そんな日々を過ごす中でも、忘れてはいけない大切なことがあった。

 いついかなる時でも心の中にあり続けたそれに、トモヤは思いを馳せる。

 そう、その大切なこととはつまり――


「ルナの誕生日だ!」


 どんっと、夕食中に突如として立ち上がったトモヤのもとに、幾つかの視線が向けられる。

 知り合いしかこの場にいないことがせめてもの救いだろうか。

 その中でもルナリア本人は首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべる。


「ふえっ? わたしの、おたんじょうび?」

「ああ、そうだ。明日はルナの誕生日だろ? 盛大に祝わなくっちゃな」

「いわってくれるの?」

「当然だろ。なあ、リーネ、シア」


 隣にいるリーネたちに尋ねると、二人はこくりと頷き、


「そうだな。ここ最近は色々と大変なことが起きたが……いや、だからこそ盛大に祝うべきだろう。何より私たちがルナを祝いたいと思っているからな」

「それは、私も同じ。皆で楽しめるのなら、それが一番」

「……わぁ」


 ルナリアの深い海のように美しい碧眼が大きく開かれ、同時に嬉しそうに表情を輝かせる。

 その姿を見れただけでも提案した甲斐があるというものだが、当然それだけで終わらせるつもりはない。

 それ以上の幸福を与えてみせる。


 そのためにも――


「誕生日会のための準備をするから、俺は今日別行動をとるよ」

「準備なら私たちも手伝うが……」

「いや、リーネとシアはルナの側にいてやってくれ」


 含みを込めた目で視線を向けると、二人とも察したようにこくりと頷く。

 ルナリアにサプライズを用意しようとしていることが伝わったのだろう。


 これで前準備は完了。

 後は――皆を呼んでくるだけだ。



 ◇◆◇



 翌日。

 トモヤはルナリアと手を繋ぎながら、リーネ達の待つ会場に向かう。

 会場は町から遠く離れた荒野に、一夜にて建設された建物を使用している。

 トモヤが魔法で無理やり生み出したものだ。

 今日一日が終われば元の状態に戻す予定だ。


「えへへ、楽しみだね、トモヤ!」


 会場に向かう途中、ルナリアはるんるんとスキップをしながら満面の笑みでそう告げる。

 その笑顔を見て、自分の表情が自然と緩んでいくのを感じた。


「そうだな、ルナ。ほら、もうすぐつくぞ」

「ほんとっ? わあぁ、すごい!」


 建物が視界に飛び込んできたとたん、ルナリアは驚いたような感想を呟く。

 想像していたよりも大きな建物だったからだろう。

 少なくとも、トモヤ、ルナリア、リーネ、シアの四人では寂しさを感じてしまうほどの広さだ。


 けれど全く問題ない。

 なぜなら、その扉の先にいるのは――


「……ふえっ?」


 扉を開け、ルナリアと共に建物の中に入った瞬間、盛大に拍手の音が響く。

 リーネとシアの二人では到底鳴らせない音だ。

 ルナリアが状況を呑み込むよりも早く、その言葉は会場いっぱいに響いた。


「「「ルナ(さん)(ちゃん)、誕生日おめでとう!」」」


 そこにいた多くの人の姿を見て、ルナリアは驚きと喜びに目を見開く。


「……わあぁ」


 今までの旅の中で出会ってきたかけがえのない多くの存在。

 その一人一人に体ごと視線を向け、そのたびに嬉しそうな表情を浮かべる。

 シンシア、アンリ、フラーゼ、メルリィ、スーシャ、そして特別に今日だけはとやってきたテラリア。他にも少ししか関わっていないはずの人でさえ、何人もやってきてくれていた(エルトとか、エルトとか、エルトとか。何故いるのか全く分からない)。


「……でも、なんで?」


 住む場所も種族も別々の彼女たちがどうしてこの場に集まっているのか分からないのだろう。

 トモヤはルナリアの頭にポンっと手を置き、優しく伝える。


「昨日言っただろ。今日の準備をするって。皆のもとに回ってルナリアが誕生日だって伝えたら、皆が祝いたいって言ってくれたんだ。だから連れてきたんだ」

「……みんなが、わたしのために?」

「ああ、ルナのためにだよ。ほら、皆待ってる。話したいこともいっぱいあるんだろう。行ってこい」

「――うん!」


 駆けていくルナリアの後ろ姿を見届ける。

 温かい輪の中に入っていく光景を見るだけで、思わず涙が出そうになる。


「お久しぶりですね、ルナさん。元気にしていましたか?」

「うん! げんきだったよ、シンシア!」

「ルナちゃん、今日は私がケーキを焼いたんだよ」

「アンリ! うれしいな、えへへ。またいっしょにご飯つくりたいな!」

 

 別れてからもう随分と経つ人から、つい最近まで関わっていた人たちまで、多くの人に囲まれてルナリアは幸せそうに笑っていた。

 ……優しさに満ちたこの光景を、何よりも見たかった。


「ありがとうございます、トモヤくん」

「……テラリア」


 いつの間にか隣に来ていたテラリアが、優しい目をルナリアに向けながらそう言った。

 テラリアはきっと、この光景をトモヤ以上に待ち望んでいたのだろう。

 ずっとずっと求めていたものがそこにあるのだと、彼女の姿がそう訴えかけているように見えた。


「ルナがこうして笑っていられるのは、全部トモヤくんのおかげです」

「……それは違うよ」

「えっ?」

「最初にルナを守ってくれていたのはテラリアの方だろ? テラリアがルナに愛情を与えて、未来を願ってくれたから俺たちは出会えたんだ。だから、俺からも感謝の言葉を言わせてほしい。本当にありがとう、テラリア」

「……もう、トモヤくんは。そんな風に言われてしまったら、何も否定できないじゃないですか」


 テラリアの青色の眼に、ほんの少しの涙が溜まる。

 それが嬉しさによるものだったらいいなと、トモヤは思った。


 そんな風にテラリアと二人で談笑していると、リーネがそばに寄ってくる。


「トモヤ、ルナは一通り皆と話し終えたみたいだぞ。そろそろじゃないか?」

「……そうだな」


 誕生日を祝った後は、プレゼントの時間だ。

 各々でもプレゼントを持ってきてはいるだろうが、それとは別に全員で一つのものを用意した。

 ルナリアに何をあげたら喜んでもらえるのか、考えて考えて、選んだものだ。

 いや、正確には作ったというべきか。


「ちらっ、ちらっ、感謝を言ってくれてもいいんですよ、トモヤさん!」

「フラーゼ……ああ、本当に感謝してるよ、ありがとな」

「ふあぁっ!? トモヤさんが素直にお礼を言うなんて、今日は何か起きるんじゃないっすか!?」


 なんだか一人で騒ぐフラーゼを尻目に、ルナリアのもとに向かう。

 彼女は近づいてくるトモヤに気付くと、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「トモヤ!」

「おっと」


 その華奢な体を受け止めるも、そのままルナリアはぎゅーと抱きしめてくる。


「えっとね、トモヤ、わたし、こんなに幸せなのはじめてなの。だからね、ありがとっ!」

「……ああ、そうか。良かった」


 思わず、トモヤの方からもぎゅっと抱きしめてしまう。

 けれどいつまでもそうはしてられない。周りの視線も痛いし。


「ルナ、少し左手を出してくれないか?」

「? こう?」

「ああ、ありがとう」


 そこに描かれていたのは契約紋。

 トモヤとルナリアを繋ぎとめるものだ。

 ……でもきっと、もう大丈夫だから。


「ふえっ? きえていくよ?」

「ああ。これで正真正銘、俺たちは対等だ」


 これまでトモヤはルナリアと一緒にいるための大義名分を必要としていた。

 けど、過去を乗り越えて、彼女たちと共に未来を生きていくと誓った今、そんなものは必要ない。

 契約なんてなかったとしても、二人の繋がりが消えたりはしないから。


 それに繋がりを、思い出を残す方法なら他にもある。

 トモヤは異空庫から一つの青色の宝石を取り出し、ルナリアに差し出す。


「そんで、これがルナへの誕生日プレゼントだ。受け取ってくれないか?」

「きれい……うん、ありがと、トモヤ!」


 その宝石を両手で大切に包み込むようにして、ルナリアは感謝を告げる。

 けど、喜ぶのはまだ早い。それには秘密が隠されているのだから。


「ルナ、その宝石に魔力を注いでみてくれないか?」

「まりょく? えいっ……わっ!」


 宝石からホログラムのようにして、幾つもの画像が浮かび上がる。

 これを作成中に撮ったトモヤ、リーネ、シア、フラーゼなどの写真。

 そう、これは宝石にカメラの機能を組み込んだ物なのだ。魔力を注ぐことで写真を撮ったり、こうして見ることができる。


「すごいっ、すごいよトモヤ!」

「ああ、これなら幾らでも思い出を残すことができるだろ? これからの旅で出会う人たちとの記憶をいつでも思い出せるように、これに記録していこう」

「うん! ねえ、トモヤ、どうやったらこんなふうにつかえるの? 早くつかってみたい!」

「そうだな、それじゃせっかくだから」


 会場内にいる人たちに呼びかけると、皆は快く協力してくれる。

 ルナリアを中心に集まり、それぞれが持ち場につく。


 その間にもルナリアに宝石カメラの使い方を教える。

 魔力だけで動かすことができるため、撮影者はいらない。全員が写真に写るような位置で浮遊待機させておく。

 これで集合写真の準備は完了だ。


「それじゃ、とるね!」


 ルナリアの言葉に合わせるように、皆が表情を整える。

 初めての写真に戸惑っている者達もいるようだが、大丈夫だろう。


「ねえ、トモヤ」

「ん? どうした、ルナ――」


 呼びかけられ、顔をそちらに向けようとした瞬間だった。

 ルナリアはぎゅっとトモヤに抱きつき、その頬に軽く口づけをした。

 背後から驚きの声が聞こえる。


 動揺するトモヤとは裏腹に、ルナリアはこれまでに見たことのない満面の笑みを浮かべて、幸せそうに叫ぶ。



「えへへ、だいすきだよ、トモヤ!」



 パシャリと。

 皆で初めて撮った写真は、騒然と称するにふさわしい光景だったけれど。

 きっとこれが、トモヤ達の歩いてきた軌跡。

 かけがえのない思い出だった。

これにて第四章終了です。

いったん本編は完結とし、今後は不定期に番外編などを投稿していきます!


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