128 告白 終
この世界に来てからまだ誰にも告げたことのない秘密を、とうとう口にした。
簡単に呑み込めるような内容ではないはずだ。
「異世界の人間……か」
その証拠に、リーネは神妙な面持ちでそう呟く。
言葉の真意を確かめるように、リーネは問う。
「だが、もしそうだとしたら何故トモヤたちはこちらの世界にくることになったんだ?」
「魔王を討伐するために、フレアロード王国の王族に召喚されたんだ。俺はステータスを見間違えられたせいで、すぐに仲間から外されたけど」
「…………」
リーネは暫く静かに考えこむ。
やはり、そう簡単に信じられる話ではなかったのだろうか。
そんなトモヤの予想は簡単に裏切られることになる。
「なるほど、そういうことだったんだな。ようやく得心がいったよ」
「え?」
「以前からトモヤの常識が私たちとは違うものだと思っていたからな。その理由が知れたんだ。納得するのも当然だろう」
リーネの言う通り、トモヤはこの世界での常識のほとんどを彼女から教わった。
リーネは笑いながら、時には少しだけ呆れながら、そんなトモヤに付き合ってくれた。
これまでの次々と脳裏をよぎっていく。
「……信じてくれるのか?」
「もちろんだ。私は君を信じているよ、トモヤ」
凛々しくも、優しい笑みを浮かべてリーネはそう言ってくれた。
その瞬間、トモヤの心の奥から抑えきれない衝動が沸き上がる。
「リーネ!」
「と、トモヤ!?」
思わず、トモヤはリーネの体を引き寄せ抱きしめていた。
リーネは驚きの声を漏らしはしたものの、トモヤから離れようとはしない。
やがて、リーネの両腕もトモヤの背に回される。
それだけで心が満たされるような気がした。
「ずっと、言わなくちゃいけないって思ってた」
「ああ」
「けど、これを言ってしまったら向き合わなくちゃいけなくなる。俺にとって本当の居場所はこの世界なのか、元の世界なのか。それを問いただされるのが怖くて、ずっと言えなかった」
トモヤが異世界人だということと召喚された目的について知れば、リーネたちはきっとこう問うだろう。
魔王を無力化した今、元の世界に戻るつもりなのか、この世界に居続けるつもりなのかと。
以前のトモヤならば、雫との思い出に縛られ決断することができなかった。
けれど今のトモヤは違う。
リーネと出会って、ルナリアと出会って、シアと出会って。
多くの人と出会い、前に進む覚悟ができた。
共に過ごしたい人が誰なのか知ることができた。
だから。
「でも今なら確信をもって答えられる。俺はこの世界で生きていく。いつまでも」
「……トモヤ」
「だから、リーネ」
両手を彼女の背から離し、ほんの少しだけ距離を空ける。
自分の顔は赤くなっていないだろうか、声は震えていないだろうか。
気になるところは数えきれないほどあるが、もう迷ってなんかいられない。
伝えると決めたから。この想いを。
「その道をずっとリーネと一緒に歩いていきたい。好きだ、リーネ」
「――――」
「俺と、付き合ってください」
心からの想いを伝え、返事を待つ。
心臓がバクバクと音を鳴らし、平常心が保てない。
それでも、もう逃げたりなんかしない。
リーネは予想もしていなかった言葉を投げかけられたかのように、目を見開き両手を手に当てる。
続けて彼女の美しい翡翠の瞳から一筋の雫が流れていく。
ただ、その姿に見惚れた。
美しいと思った。
そして、静止した世界が動き出す。
リーネは微かに震えながらも、これ以上ない優しさに包まれた声で告げる。
「ああ、私も、君のことが好きだ――トモヤ。ずっと、君のそばにいたい」
「――――」
もう、言葉はいらなかった。
ゆっくりと二人の距離は詰まっていく。
視線が重なり、それだけで無限の想いが交差する。
そして。
そっと、二人の唇が重なる。
初めてのキスは、柔らかくて甘い味がした――――




