127 告白 序
ずっと、彼女に言わなければならないと思っていたことがあった。
色々なことから目を背けてきたけれど、今ならきっと向き合えるはずだ。
正直に言うと、怖い。想いを否定されることも、かつての少女に応えられなかった自分が先に進んでいいのかもまだ分からない。
それでも――――
ヘリオスとの戦闘から一日が経った。
昨日は本当に様々なことがあった。
戦いはもちろんのこと、宿に戻った後、トモヤたち四人は仲間で過ごす時間を掛け替えのないものだと強く思い、夜が更けるまで語り合ったのだ。
窓から太陽の光が差す。
光を受け一度だけ大きく体を伸ばした後、ベッドで幸せそうに眠るルナリアに視線を向ける。
その寝顔を見るだけで、こちらまで幸せな気分になれる。
「さてと」
今日は、ここからが本番だ。
勇気を振り絞り、隣の部屋の前に移動する。
ノックをすると、すぐに中から声が返ってきた。
「すぐに出る」
ガチャリと扉が開く。
返事をしたのはリーネだけだったが、そこにはリーネとシアの二人がいた。
シアはトモヤの表情を見ると、何かに思い至ったように青色の瞳を小さく揺らす。
そして、優しい笑みでゆっくりと頷いてくれた。
……覚悟は決まった。
「それで、どうしたんだトモヤ?」
「リーネ、少し外に出て話をしたいんだが大丈夫か?」
「それはもちろん平気だが、ルナはもう起きているのか?」
「ああいやそうじゃなくて、俺とリーネの二人で出かけたいんだ。悪いんだけどシア、ルナのことは任せてもいいか?」
「……うん、任せて。トモヤも頑張って。次は私の番、だからね」
「……ありがとう」
「? 話の流れは分からないが、そういうことなら別に構わない。準備をするから少し待っていてくれ」
元から外に出られるだけの準備はしていたのだろう、ものの数分足らずでリーネは再び出てくる。
「それで、どこにいくんだ?」
「目的地がある訳じゃないんだ。その辺をぶらぶら歩こう」
「分かった」
リーネを連れて、プティモの町を歩いていく。
まだ朝早いためか、ほとんど人影が見当たらない。
都合がいいかと思いながら、話し始める。
「……昨日あんなことがあったせいか、夢を見たんだ」
「夢?」
「ああ、俺がリーネと出会ってからのことだ」
正確には、こちらの世界に来てからのことだ。
けれどリーネにはこう説明するのが一番伝わりやすいだろう。
「本当にいろんなことがあったなって」
「……そうだな」
リーネも改めて思い出してくれているのだろう、感慨深そうに頷いてくれる。
「初めて会ったのはルガールのギルドでだったか。確か君はシンシアと一緒に依頼を見ていたな。そこに私が声をかけた」
「ああ、それで話の流れで一緒のクエストを受けることになったんだ」
レッドドラゴンの討伐。普通ならば不可能と思われるステータスしか持たない二人で挑んだ無謀な依頼。
しかし、実際は。
「二人ともステータスを隠蔽してたんだよな。それでレッドドラゴンも簡単に倒せたんだ」
「言っておくが簡単に倒せたのは君がいてくれたからだ。私一人ではさすがにあれほど容易くはできなかっただろう」
「そうか? リーネだったら大丈夫だった気がするけどな」
そしてそのレッドドラゴン討伐後、運命の出会いがあった。
――――ルナリア。
彼女の存在に、二人がどれだけ助けられてきただろうか。
「ルナがいてくれたおかげで、俺たちの関係も深まった気がするよ」
「そうだな。たまにすれ違うことがあった私たちでも、ルナに関しては一致団結していたからな。ルナは私たちにとってかけがえの存在なんだ」
それからもいろんなことがあった。
フィーネス国でアンリと出会い、様々なトラブルの末、終焉樹を攻略した。
北大陸ではフラーゼと出会い、剣を打ってもらったりアドバイスをもらったりした。
そしてセルバヒューレでは――メルリィやシアと出会った。
「シアがパーティに加わって賑やかになった気がするな」
「そうだな。普段は物静かなくせに、トモヤが関わった時だけあれほど活発に……むぅ」
何か思うところがあったのだろうか、リーネは頬を膨らませる。
その様子を見て、思わずトモヤは笑ってしまう。
「む、なぜ笑うんだトモヤ! そもそも君がきちんとしていないのが駄目なんだからな!」
「悪い悪い、そうじゃなくてさ、やっぱりリーネといると楽しいなって思って」
「なっ――」
ぷしゅぅと、リーネの頬が赤く染まる。
動揺した様子のまま彼女は口を開く。
「む、むろん、私もトモヤと一緒にいるのは楽しいぞ? しかしだな、急にそんな風に言われるなど想定していない。準備の時間がほしい」
「ははは」
「また笑ったな!」
こんな何気ない時間が、やっぱり大切なものなんだとしみじみ思う。
リーネとずっとこんな関係を築いていきたいと思う。
だからこそ、伝えないといけないことがある。
一度だけ、大きく深呼吸をする。
それで準備はできた。
「リーネ、大切な話がある」
「……どうしたんだ?」
「この前出会った、九重達のことを覚えてるか?」
「四人組のパーティだろう? 当然覚えている」
「そいつらと俺との関係についてだ」
「…………」
無言でリーネは続きを待っている。
ゆえにトモヤもそれに応え、その事実を告白する。
「俺とアイツらは、この世界とは別の世界から来た――異世界の人間なんだ」




